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忠義の血脈を絶やすな――功臣の子孫にも慈悲の光を

貞観十五年、太宗はある日、政務の合間に歴史書を繙(ひもと)きながら、思いにふけった。
忠臣や名臣が国家の危機を救い、あるいは命を捧げたその姿に、胸を打たれたのである。
書を閉じた太宗は、ため息をつきながら、次のような**詔(みことのり)**を下した。

「私は歴史を読むたびに、国のために命を賭した忠臣の姿に心を打たれ、深い敬意と感慨に包まれる。
近年の時代のことなら、その子孫もまだ生きているであろう。
たとえ顕彰することができなくとも、遠い地で忘れ去られてよいはずがない。
ゆえに、北周・隋の両朝の名臣・忠臣の子孫のうち、貞観年間に罪を犯して**流罪(るざい)**となった者がいれば、詳細を記録し、私に報告せよ」

この命によって、数多くの者が罪を**赦免(しゃめん)**された。


引用(ふりがな付き)

「書を廃(はい)して欽歎(きんたん)せずんばあらず」
「胤緖(いんしょ)を見存(けんぞん)すべし」
「未(いま)だ顕(あら)わして旌表(せいひょう)する能(あた)わずといえども、遐裔(かえい)に棄(す)つるを容(ゆる)すべからず」


注釈

  • 北周(ほくしゅう):唐以前の王朝。西魏から分かれて発展し、最終的に隋に併合された。
  • 隋(ずい):唐の前の中国統一王朝(581–618年)。煬帝の暴政ののち唐が台頭した。
  • 流刑(るけい):一定の地域に強制的に移住させる刑罰。中央から遠ざけられるため、官途を断たれる。
  • 旌表(せいひょう):功績を公にたたえて賞賛すること。
  • 遐裔(かえい):遠い地に住む子孫、または忘れ去られた末裔の意。

パーマリンク(英語スラッグ)

pardon-of-loyal-bloodlines

「忠義の血筋への赦免」という核心を示すスラッグです。
代案として、honoring-legacy-through-mercy(遺志への慈悲)、mercy-for-sons-of-the-faithful(忠臣の子に対する寛典)などもご提案可能です。


この章は、太宗がいかに「忠義を重んじ、血脈と名節を尊重する君主」であったかを物語っています。
たとえ当代に罪を犯していたとしても、その祖が忠臣であるならば、その家系に配慮を示す――
これは、単なる慈悲ではなく、忠節という徳の火を絶やさないための政治的・道徳的配慮であったと言えるでしょう。

ありがとうございます。
以下に『貞観政要』巻一「貞観十五年」の詔勅部分を、これまでと同様の構成に基づいて整理いたします。


目次

『貞観政要』巻一「貞観十五年」詔より


1. 原文

貞觀十五年、詔曰「聽政之暇、觀覽史籍、每覽前代賢佐之時、忠臣徇國、何嘗不想見其人、廢書欽歎。至於隋代以來、年代非遠、然其胤緒、或當見存、縱未能顯加旌表、無容棄之遐裔。其梁・隋二代名臣有忠節子孫、有貞觀已來犯罪配流者、宜令有司詳錄奏聞」。
於是多從矜宥。


2. 書き下し文

貞観十五年、詔して曰く、
「政(まつりごと)を聴くの暇(いとま)に、史(ふみ)を観(み)るに、
毎(つね)に前代の賢佐の時を覧(み)るごとに、忠臣、国に殉(じゅん)ずるを見て、
何(いず)れの時かその人を想(おも)わざりしはあらず。書を廃(す)てて欽歎(きんたん)す。

隋の代以後に至りては、年代遠からず。
しかれどもその胤緒(いんしょ)、或いは当に存せるを見(まみ)ゆべし。
縦(たと)い未だ顕(あらわ)に旌表(せいひょう)を加うる能(あた)わずといえども、
その遐裔(かえい)を棄(す)つるに容(い)るべからず。

梁・隋二代の名臣にして、忠節ある子孫、貞観以後、罪を犯して配流(はいりゅう)せられたる者あらば、
宜しく有司(ゆうし)をして詳録し、奏聞(そうもん)せしむべし」。

ここに於(お)いて多く矜宥(きょうゆ)せらる。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 貞観十五年、太宗は詔を発した。
     → 西暦641年、唐の太宗が詔(みことのり)を出した。
  • 「政務の合間に歴史書を読むたび、かつての賢臣や忠臣の事績を見て、彼らの人となりを思い浮かべ、しばし筆を置いて感嘆することがある。」
     → 忠義に殉じた過去の人物たちへの感慨が述べられている。
  • 「隋の時代からはそれほど遠くない。ゆえに、その子孫が今も生きているかもしれない。」
  • 「たとえその子孫を公に顕彰できない事情があるにせよ、遠い子孫をないがしろにしてはならない。」
     → 忠義の家系を軽んじるべきではないとの姿勢を示す。
  • 「梁や隋の忠臣の子孫で、貞観年間に罪を犯して流刑となった者がいれば、各官司に命じて実情を調査し、報告させよ。」
  • その結果、多くの者が寛大に赦免された。

4. 用語解説

  • 詔(みことのり):皇帝の命令文書。ここでは太宗の公式な意志表示。
  • 徇国(じゅんこく):国家に忠義を尽くして命を賭した行為。
  • 胤緒(いんしょ):子孫・血筋。
  • 旌表(せいひょう):功績を表彰すること。
  • 遐裔(かえい):遠い子孫。
  • 有司(ゆうし):担当官庁・行政機関。
  • 配流(はいりゅう):流刑、罪により遠方に流される刑罰。
  • 矜宥(きょうゆ):あわれみ許すこと。寛大な処置。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

貞観十五年、太宗は次のような詔を出した:

「政務の合間に歴史書を読むたび、かつての賢臣や忠臣たちが国に殉じた様子を目にし、彼らの姿を思い浮かべては、しばし筆を止めて感嘆している。

特に隋代は年代も新しく、その子孫が現在も存命であろう。たとえ彼らを今すぐに顕彰できない事情があったとしても、遠い子孫を見捨てることはあってはならない。

ゆえに、梁や隋の忠臣の子孫であって、貞観年間に罪を犯して配流されている者がいるなら、担当官庁に命じて調査・報告させるように」

この詔により、多くの者が寛大な処置を受け、赦された。


6. 解釈と現代的意義

この詔は、「忠臣の遺徳を忘れず、その子孫すらも厚遇する」という太宗の徳治主義を体現したものです。

重要なのは、個人の功績だけでなく、“血脈としての徳”を尊重する文化的姿勢
これは単なる情けではなく、国家としての理念と、忠義を奨励する統治哲学です。

また、過去に罪を犯した者でも、その一族の功績を見て再評価し、赦免の道を与えるという柔軟で人間味ある政策を示しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

  • 「歴史と成果に敬意を払う文化は、人心をつなぐ」
     → 過去の貢献者やその関係者に対して敬意を忘れない姿勢は、組織の文化を深め、信頼を厚くする。
  • 「罪を責める前に、その背景と一族の“貢献バランス”を見よ」
     → 単一のミスで人を切り捨てるのではなく、その人や家系が培ってきた価値を多角的に判断することが、公正な人事につながる。
  • 「名もなき忠義を見逃さず、代々評価する仕組みを」
     → 個人の表彰だけでなく、その行動や精神を継承している者への登用や支援を行うことで、組織に理念が根付く。

8. ビジネス用の心得タイトル

「忠の系譜を見よ──“過去の功”を尊び、未来の信頼を築く」


この詔勅は、リーダーとして「人と組織の記憶」をいかに扱うかの模範です。

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