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正しき者は、そしられる宿命にある
弟子の貉稽(かくけい)が、「多くの人に悪く言われて困っている」と嘆いたとき、孟子はそれにこう応えた。**「気にするな。それは士(=志ある者)の証しである」**と。 孟子の見解は明快だ。士(し)とは正義を貫く者であり、正しき道を行く者は、多くの... -
優れた人物でも、理解者がいなければ道を行えない
孟子は、聖人孔子でさえ、理解されない環境にあっては苦境に立たされたことを語り、人物の大きさと時運の関係性を示している。 孔子が陳と蔡の間に滞在していたとき、糧食が尽き、従者たちも倒れるほどの苦難に見舞われた。その理由を孟子は、「上下の交わ... -
去るにも礼がある──国との関係で態度を変える
孟子は、国を去るときの態度には「道=節度・礼儀」があると説き、孔子の具体的な行動を通してその意義を語っている。 孔子が故郷である魯(ろ)国を去るとき、こう言った。「遅遅として、吾行く(ちちとして、われゆく)」。これは、まるで名残を惜しむか... -
仁と義があってこそ、人は人としての道を歩める
孟子は、人が人であるために不可欠な徳として**「仁」**を挙げた。仁とは、人間の根本的な愛や思いやりの心であり、それが備わって初めて“人らしい”存在といえる。 さらに孟子は、仁と義が合わさって初めて「道」、すなわち人としての正しい生き方が形づく... -
聖人の教えは百世を超えて人を変える
孟子は、聖人とは時代を超えて人々の師であると語る。それはただ同時代の人々を導く存在ではなく、百代(=千年)を超えてなお人々を感化し、奮い立たせる存在だと強調している。 たとえば―― **伯夷(はくい)**の清廉な遺風を聞いた者は、強欲な人でさえ... -
最も貴いのは民、最も軽いのは君主
孟子は、「民こそが国家の根本である」という思想を、明確かつ大胆に宣言している。この章で説かれるのは、「民本思想」の核心であり、後の「易姓革命論」にまでつながる、孟子の政治哲学の真髄である。 孟子によれば、国家においては次のような順序がある... -
小国は奪えても、天下の心までは奪えない
孟子は、仁を欠いた者でも、一時的に一国を支配することはありうると認めつつ、中国全土=天下を治めた例はないと断言する。それはつまり、不仁の者は一時の権勢を握ることはできても、永続的な天下の信任を得ることは決してできないということを意味して... -
賢者を信じて任用し、礼と政治を整えることが国の根幹
孟子は、国を正しく治めるために不可欠な三つの柱を示している。それはすなわち、仁賢(=徳と才を備えた人材)を信じて用いること、礼義(=社会の規律)を尊重すること、そして政事(=政治と政策)を機能させることである。 一つ目に、仁者・賢者を登用... -
名誉を重んずる心が、小欲に負けぬ人格を育てる
孟子は、名誉(名)を大切に思う人の気高い在り方に注目する。そうした人物は、たとえ「千乗の国(=大国の統治権)」のような重い責任や権勢でさえ、自分の名を守るためなら譲ることができる。 その一方で、名を重んじぬ者、または真に節義を備えていない... -
名を重んじる者は、大事を譲ることができる
孟子は、「名を好む人」、つまり名誉や誇りを重んじる者の気高さを語っている。こうした人物は、たとえ千乗(せんじょう)の国=大国の支配権であっても、自らの節義に反するならば、進んでそれを他人に譲ることができる。 一方で、名を重んじない者、すな...