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過剰な課税は、民を滅ぼす

孟子は、為政者が税の重さと取り方に細心の注意を払うべきことを、非常に具体的なかたちで説いている。

人々から取り立てる税には、主に三種類あると孟子は言う:

  1. 布縷(ふる)の征:衣類や糸などの物納。
  2. 粟米(ぞくまい)の征:主食である穀物の納税。
  3. 力役(りきえき)の征:労働力としての奉仕(使役)の負担。

孟子は、これらの税を一度に全て課すのではなく、慎重に調整しなければならないと強調する。

  • 一つだけを課すときは、他の二つは“緩くする”のが君子の施政
  • 二つを同時に課せば、民に“殍(ひょう)=餓死者”が出る
  • 三つすべてを課せば、ついには“父子離る=一家離散”の悲劇が起こる

孟子のこの指摘は、単なる財政論を超えた、民本主義に基づいた政治の在り方への警鐘である。
税を課す側は、取り立てることよりも「民が生きられるか」に心を寄せるべきであり、過度の徴収は国家を支える基盤=民を自ら崩す行為になる。

現代にも通じる教訓として、制度設計は机上の計算だけでなく、人の暮らしに根ざして行わなければならないことを孟子は鋭く示している。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)曰(いわ)く、布縷(ふる)の征(せい)、粟米(ぞくまい)の征、力役(りきえき)の征、有(あ)り。君子(くんし)は其(そ)の一(いち)を用(もち)い、其の二(に)を緩(ゆる)くす。其の二を用うれば、民(たみ)に殍(ひょう)有り。其の三(さん)を用うれば、父子(ふし)離(はな)る」


注釈

  • 布縷の征…布や糸による物納税。衣生活に直結する負担。
  • 粟米の征…食料となる米や麦などの穀物の税。
  • 力役の征…公共事業や兵役など、労働力の提供。
  • 殍(ひょう)…餓死すること。生活が立ち行かなくなる状態。
  • 父子離る…一家離散、家庭の崩壊。最も深刻な社会破綻の象徴。
目次

1. 原文

孟子曰、布縷之征、粟米之征、力役之征。
君子用其一、緩其二。
用其二、而民殍。
用其三、而父子離。


2. 書き下し文

孟子(もうし)曰(いわ)く、布縷(ふる)の征(ちょう)、粟米(ぞくまい)の征、力役(りきえき)の征あり。
君子(くんし)は其(そ)の一を用(もち)いて、其の二を緩(ゆる)くす。
其の二を用うれば、民(たみ)に殍(う)え有(あ)り。
其の三を用うれば、父子(ふし)離(はな)る。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 孟子曰、布縷之征、粟米之征、力役之征
     → 孟子は言った。「布や麻(=衣料)による税、粟や米(=食料)による税、そして労働役務の徴用という三種の税がある。」
  • 君子用其一、緩其二
     → 「君子(立派な為政者)は、第一の税のみを用い、第二の税は緩やかに運用する。」
  • 用其二、而民殍
     → 「第二の税まで課せば、人々に餓死者が出る。」
  • 用其三、而父子離
     → 「第三の税(労働徴用)まで課せば、家族は離散する。」

4. 用語解説

  • 布縷(ふる):布や麻などの衣料品。最も軽い形の物納。
  • 粟米(ぞくまい):穀物。食料としての物納。生活の直接資源。
  • 力役(りきえき):土木作業や軍事などへの強制労働。身体の拘束を伴う。
  • 征(ちょう):租税の意。ここでは各種の徴収手段を指す。
  • 殍(うえ):餓死。生計が破綻して死亡すること。
  • 父子離る:家族の崩壊。徴用により家族が離ればなれになること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

税には三種類ある──衣料による税、食料による税、そして労働の徴用である。

賢明な為政者は第一の税(衣料)のみを用い、第二(食料)については軽減する。
第二の税まで課せば、人々の中に餓死する者が出る。
第三の税(労働役)まで課せば、父と子が引き離され、家庭が崩壊することになる。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、課税・徴用の負担設計と、その社会的インパクトを説いたものです。

  • 税負担の“段階”によって、民衆の生活と社会秩序に与える影響は大きく変わる。
  • 経済的余裕がある層ならいざ知らず、庶民にとっては**「税=生死の問題」**である。
  • 「第一の税は生活に直ちに響かないが、第二・第三に至れば命や家庭に直撃する」
     → これは、政治の責任は、制度ではなく生活に直結するという孟子の主張である。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

「負担設計は、影響の深さを見極めて設計せよ」

  • 新制度導入や価格改定など、企業も顧客・社員に“負担”を求める場面がある。
  • その際には、「どの程度までが“衣料税”か」「どこから“食料税”になりうるか」と、影響の深さを精緻に見極めるべき。

「限界を超えれば、組織も家庭も壊れる」

  • 「少しの残業」から始まった労働負担が、家庭崩壊を招くこともある。
  • 人材の投入(労役)には慎重な判断と代償の理解が必要。
  • **“過剰に搾取すれば、信頼も人間関係も失われる”**という原則を肝に銘じたい。

「社会的コストに無自覚な制度は暴力に等しい」

  • 国でも企業でも、制度設計者が現場や生活者のリアルを無視して制度をつくれば、結果は「殍」か「離」。
  • **“数字上の最適”ではなく、“生活上の適正”**を考慮する視点が、真のリーダーに求められる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「制度の正義より、生活の現実──負担設計は慎重に」


この章句は、制度設計における“負担の重みと影響の階層性”を鮮やかに説いています。


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