外注比率に関する一般的な誤解
U社の経営計画を支援した際、U社長は「収益性を向上させ、利益率を高めるために、外注品を可能な限り内製化していきたい」と語った。
M社での支援時、私は「社長は長期的な視野で自社の事業を考えるべきだ」と至極当たり前の提言をした。すると、M社長は「一倉さんの言うことは理解できるが、その前にやるべき合理化は、外注品を内製化することだ。現時点で、我が社はこれほど多額の外注費を支払っている」と述べた。
J社長は「一倉さんは外注比率を増やすべきだと言うが、そうすれば確かに固定費の増加は避けられるものの、付加価値率が下がる。それがどうにも踏み切れない理由だ」と話していた。
これら三つの例に見られるように、多くの社長たちは「外注化が自社の収益性を損ない、最終的に利益を減少させる」という非常に根強い考えを持っている。
これは完全に誤った考え方と言える。外注を増やすことは、あらゆる面で非常に有利な選択だ。これが理解されないのは、外注によって会社の損益がどのように変化するかを計算していないからだ。正確に言えば、その計算方法自体を知らないからだと言ったほうが適切かもしれない。
その理解がないために、原価や益率、外注費といった要素を個別に捉えてしまう。しかし、会社の損益は常に「会社全体の視点」で考えることが正しいアプローチだ。
外注比率の収益性に与える影響
では、外注を増加させた場合に会社全体でどのような影響があるのかを計算してみよう。このような場合に用いるべき計算方法は、言うまでもなく「増分計算」だ。たとえば、第42表では、K社において増加する売上をすべて外注によって賄うよう勧告した際の試算を示している。分かりやすくするために外注金額を多めに設定しているが、その結果を見れば外注化が与える影響を明確に理解できるはずだ。
まず、売上が10億円増加し、その全てを外注品で賄った場合の増分計算を見てみよう。一般的なケースでは付加価値率15%程度が可能な数値と考えられる。この場合、増分付加価値は1億5000万円となる。
これに対する増分費用を計算してみる。増加した売上に対応する人件費として、セールスマン5名増で1,500万円、管理部門3名増で1,000万円、合計で2,500万円を見込む。また、経費の増加分としては運賃と営業経費が通常売上高増加分の3%程度だが、ここでは慎重を期してその50%増の4.5%と設定する。さらに、営業外費用も売上高増加の2%を計上し、比較的大きな数値を想定した。
それでもなお、増分経常利益は6,000万円に達する。この結果からも、外注を活用した売上拡大がいかに会社全体の利益に寄与するかが明らかだ。
増分経常利益率は6%に達する。これは目標としている5%を1%も上回る数値だ。また、目標経常利益率と増分の経常利益率を合わせた全体の経常利益率は5.4%となり、目標を上回る結果となる。一見すると信じがたいかもしれないが、これは正しい計算結果だ。
その理由は、外注分の付加価値率が低くても、増分費用が極めて少ないためである。このように、外注を活用することで効率的に利益を確保できることが証明される。
損益分岐点と柔軟性の向上
もし10億円の売上をすべて社内生産で賄おうとすれば、設備投資や増員が必要になる。その結果、増分経常利益率は6%をやや上回る可能性はあるが、最も懸念すべきは損益分岐点が大幅に上昇することだ。損益分岐点が上がると、売上が少しでも減少した場合に大きな赤字を抱えるリスクが増す。
メリットとデメリットを比較すると、デメリットのほうが明らかに大きい。このようなリスクを伴う内製化よりも、外注を活用して固定費を抑え、柔軟性を確保するほうが合理的だと言える。
オール外注の場合、損益分岐点の上昇はごく僅かにとどまる。そのため、リスクの増加も極めて小さい。わずかなリスク増大でありながら、固定費削減や柔軟性向上といった大きなメリットを手に入れることができる。この点を踏まえると、外注化は非常に合理的な選択肢と言える。
以上の例は、増分収益に対して増分費用の割合が60%にも達するという、最もコストがかかる場合を試算したものだ。しかし、逆に増分費用が最小限に抑えられるケースも存在する。たとえば、商品さえ用意できれば、増員せずに売上を30%やそれ以上増やすことが可能な場合がこれに該当する。
こうしたケースでは、増分費用が極めて少ないため、外注を活用することで利益を最大化しながら、固定費の負担を抑えることが一層容易になる。結果として、会社全体の収益性を大幅に向上させる可能性がある。
この場合、増分収益に対する増分費用は、運賃と金融費用程度にとどまる。また、外注による付加価値率が20%であれば(これは特に珍しい水準ではない)、増分売上が業績に与える影響はさらに顕著になる。
たとえば、増分売上が1億円の場合を試算した〈第43表〉では、付加価値率が高いことと増分費用が極めて少ないことの相乗効果で、経常利益が大幅に増加する結果が示されている。このような条件下では、外注の活用が収益向上においていかに効果的であるかが一層明らかになる。
なんと、経常利益率は5.7%に達する。そして、さらに1億円の売上増大が可能であり、その再増分が同条件であった場合、経常利益率は再合計で6.3%にもなる。これは頭の中だけではなかなか想像しづらいほどの業績向上を示している。
この結果は、外注を活用した際の増分費用の低さと、外注付加価値率の影響が相まって実現されるものであり、外注化の戦略がいかに強力な収益向上策であるかを明確に示している。
両極端のケースを示したので、次は読者自身の会社における増分売上と増分費用を想定し、いくつかの試算を行ってみることをおすすめする。その結果現れる数字を注意深く検討してほしい。
それは、他でもない、あなた自身の会社のモデルを使った具体的なシミュレーションだからだ。この作業を通じて、外注化がどれほど収益性やリスク管理に寄与するかを、実際のデータに基づいて理解できるはずだ。
さらに、業績向上と同時に市場占有率の上昇という一石二鳥の可能性を探ることが重要だ。多くの社長は、外注による付加価値率の低下が会社全体の付加価値率を引き下げ、それが利益率を下げると短絡的に結論づけてしまいがちだ。
しかし、実際には、外注を活用することで得られる売上拡大や柔軟性の向上が、全体の収益性や競争力を大きく高める場合もある。この点を見逃さず、長期的かつ全体的な視点で自社の戦略を見直すことが求められる。
たとえ付加価値率が低下したとしても、付加価値の絶対額は大幅に増加し、それに対する経費の増加はごくわずかである。この重要な事実を完全に見落としているケースが多い。部分的な数値にばかり目を向け、全体の視点を欠いているために、こうした誤解が生じるのだ。
増分計算を用いて会社全体の損益を把握することの重要性を、改めて深く認識する必要がある。この方法こそが、外注の活用がもたらす本当のメリットを理解し、収益性を正確に評価するための鍵となる。
念を押すために、さらに10億円分の外注を増加させた場合を計算した結果(第42表)では、再合計として、付加価値率はさらに低下するものの、経常利益率は5.6%に上昇することが示されている。
この結果は、付加価値率の低下が必ずしも利益率の低下を意味しないことを明確に示している。むしろ、外注を活用することで固定費を抑えつつ効率的な収益拡大を実現できる点が、改めて浮き彫りになったと言える。全体を俯瞰する視点を持つことの重要性が、ここからも理解できるだろう。
この〈第42表〉では、増分付加価値率を最低線の15%で計算しているが、実際には多くの場合、これよりも高くなることが期待される。その場合、付加価値率が1%上昇するごとに、経常利益が1,000万円ずつ増加する計算となる。
さらに、人件費や経費が見込みよりも少なく済む場合には、その分だけ経常利益はさらに増加する。これらの要素が組み合わさることで、外注を活用した戦略がもたらす収益性向上のポテンシャルはますます大きなものとなる。固定費の削減と柔軟な費用構造の重要性が改めて浮き彫りになる計算だ。
もちろん、この計算以上に人件費や経費がかかる場合もあるだろう。しかし、増分経常利益がプラスである限り、たとえ経常利益率が低下したとしても、経常利益の絶対額は増加する。このような状況では、経常利益率を守るために利益額の増加を諦めるのか、それとも利益率の低下を受け入れつつ利益額の増加を追求するのか、最終的な判断は社長次第だ。
しかし、私の考えとしては、多少の利益率低下を甘受してでも外注の増加を選ぶべきだと思う。その理由は明確で、経常利益の絶対額こそが会社の安定と成長の鍵を握るからである。利益率にこだわりすぎて成長の機会を逃すのは、企業の長期的視点から見て得策ではない。
外注比率の増加には、単なる財務的な数字の改善だけでなく、二つの大きなメリットがある。その第一は、何といっても 市場占有率の上昇 だ。市場占有率の拡大は、単なる数字以上に、会社の将来にとって有形無形の大きな力となる。
市場占有率が上がることで、ブランドの認知度や競争力が強化され、取引先や顧客からの信頼も増す。これが将来的には収益基盤の強化につながり、利益増大の源泉となる。外注化を通じた柔軟な経営は、こうした長期的な成長にも大きく貢献するのである。
もう一つの大きなメリットは、景気変動や季節変動に対する抵抗力が強くなる 点だ。不況期や閑散期に売上が減少しても、その影響を外注部分でかなり吸収できるため、内作部分はほとんど影響を受けず、受けたとしてもごく僅かで済む。
この柔軟性は、固定費の増大を抑え、経営の安定性を高める上で非常に重要だ。このようなリスク分散の観点から、私は内作の2倍程度の外注比率を確保することを強く勧めている。外注の活用が、経営の安定性と成長の両方を支える戦略的要素となることを忘れてはならない。
内作「1」対外注「2」の比率を取る場合、その安全性の高さは一目瞭然だ。この比率では、外注部分が景気や季節変動の影響を吸収するクッションとなり、内作部分はその影響をほとんど受けない。結果として、会社全体の安定性が大きく向上する。
一方で、内作中心主義に依存する場合はどうだろうか。内作では固定費が高く、景気変動や売上の変動に対する柔軟性が著しく欠けている。閑散期や不況期には、設備稼働率の低下や人件費の負担が経営を圧迫し、赤字転落のリスクが高まる。
これに対して、外注比率を増大させることで、リスクの分散と経営の柔軟性が確保される。内作中心主義の危険性と比較しても、外注比率を高めることがいかに有利で安全性の高い選択肢であるかが理解できるはずだ。
市場占有率拡大のメリット
季節変動の多い会社では、繁忙期に合わせて設備や人員を整えると、閑散期にはこれらが遊休状態となり、固定費の負担が重くなって利益を圧迫する。結果として、低業績に陥るのは避けられない。一方で、閑散期に合わせて設備や人員を調整すると、今度は繁忙期に対応できず、生産や対応が追いつかずに機会損失が発生してしまう。
そのため、多くの会社は繁忙期に大きな売損じが起こらない程度に設備や人員を整えるという「中途半端な妥協点」に落ち着いている。このようなアプローチは、リスク分散や柔軟性の欠如が課題であり、根本的な解決策にはならない。繁閑の差が大きい業種ほど、外注を活用することで設備や人員の柔軟性を確保する戦略が有効になる。
しかし、売損じが意味するのは単なる金銭的な損失だけではない。それ以上に重大なのは、「市場占有率上昇の機会を逃している」 という大きな損害を被っている点だ。この影響は短期的な売上減にとどまらず、長期的な競争力やブランド力の低下にまで及ぶ可能性がある。
この問題を認識している社長は驚くほど少ない。多くの場合、目先の利益や効率に目を奪われ、市場占有率の拡大が将来の収益基盤を強固にする重要な要素であることを見落としている。この視点の欠如が、会社の成長を阻む大きな要因になり得る。繁忙期の売損じを防ぐための戦略としても、外注の活用は極めて有効だと言える。
この問題は、季節変動が少ない会社でも当てはまる。売上を増大させたいと思っても、生産力が追いつかなければ対応できず、チャンスを逃してしまう。特に、生産力の向上は短期間では実現しにくい要因が多く、売上増加の好機を目の前にしながら、無為に見過ごすリスクが高い。
反対に、不況期に売上が落ち込むと、設備や人員がすぐに遊休状態となり、固定費負担が重くなって業績をさらに悪化させるという悪循環に陥る。このような状況では、内作中心の固定的な生産体制では柔軟な対応が難しく、外注を活用することが経営安定と成長の両立に大きく寄与する可能性がある。
結論:外注比率を高める戦略的意義
- 外注比率の増加による経常利益率の向上
外注比率を高めると、増分付加価値に対する増分費用の割合が小さくなるため、付加価値率は低下しても経常利益率は多くの場合で上昇する。経常利益率が下がるのは、増分売上に対する増分経常利益率が既存の経常利益率を下回る場合に限られる。 - 外注比率の増加による損益分岐点の安定
外注比率を高めても、売上増加による損益分岐点の上昇は僅かであり、固定費の負担を抑えた柔軟な経営が可能となる。その結果、外部要因の変化に対する弾力性が高まり、企業全体の安全性が向上する。 - 外注比率の増加による市場占有率の向上
外注比率を高めることで、対応力が向上し、売損じが減少するため、市場占有率の上昇がより早期に実現する。これは、将来的な収益基盤の強化にも直結する。
これらの要点から、外注の活用は収益向上、リスク管理、そして市場競争力の観点から非常に有効な戦略であると言える。
外注比率を高めることによる利益率への影響には、付加価値率の低下以上に、経常利益率や安全性において多くの利点があります。具体的には、以下のようなポイントが挙げられます。
外注比率を高めるメリット
- 経常利益率の上昇:
外注比率を高めると、付加価値率は低下するものの、増分費用(人件費や設備投資などの固定費)が少ないため、増加した売上高に対する利益率が向上します。結果として、外注による増分利益率が増加し、企業全体の経常利益率が向上することが多いです。 - 損益分岐点の安定:
外注を増やしても設備や人員の固定費がほぼ変わらないため、損益分岐点が大きく変動せず、不況や季節変動への柔軟性が高まります。外注を活用すれば、売上減少時には外注の削減で調整できるため、リスク管理がしやすくなります。 - 市場占有率の上昇:
外注を増やすことで、設備や人員に依存せずに売上を増やせるため、市場の需要増加時にも迅速に対応できます。市場占有率の拡大につながり、長期的な収益性向上が期待できます。
まとめ
外注比率の増加は、経常利益率や企業の安定性を高め、さらに市場占有率の上昇を促進するため、長期的な経営安定にとって有利な戦略です。
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