Z社を訪れた際、社長が最初に差し出したのは組織図だった。そして、「この組織で問題ないか?」という質問を投げかけてきた。こうしたタイプの社長は、個人的に最も扱いづらい。関心の大半が内部管理に向いており、事業経営の成否を社内の管理体制次第だと考え込んでいるからだ。
こうした社長は、いくら口を酸っぱくして「事業経営とは内部の管理ではなく、外部、つまり市場に対応することだ」と説いても、頑なに聞き入れようとしない。
この手の会社は、業績が好調なうちは特に問題は表面化しない。しかし、ひとたび情勢の変化で業績が低迷し始めると、そこから挽回するのが非常に困難になる。
それはひとまず置いておくとして、組織図を見た瞬間、自分の目を疑いたくなった。そこには、まるで50年前の亡霊が甦ったかのような姿があった。その名も「集中管理方式」と呼ばれるものだ。
「会社内のすべての活動を一つの部門で集中的に管理する」という思想であり、かつてはこれが最も効率的で効果的な方法とされていたものだ。
まず、この方式を実現するためには、大量の人員を管理部門に投入する必要がある。そして、その人員がそれぞれの分野を分担して管理する形になる。結果として、「集中管理」という名前だけが先行し、実態は単なる分担管理に過ぎない。単に分担して管理する人々が一つの部門に集まっているだけの状態なのだ。
管理部門の人間がそれぞれの分担に基づいて部門を管理しようとしても、現場にはすでに管理職が存在し、その部門の実務的な管理責任を担っている。管理部の人間が評論家のような指摘をしても、現場の管理職が「ハイ、そうですか」と従うわけではない。この間にさまざまなトラブルが発生し、それが徐々にエスカレートして収拾がつかなくなる。両者とも管理責任を負っている以上、どちらかが引き下がるわけにもいかず、問題の解決が困難になるのだ。
こうして、集中管理方式はたちまちその欠陥を露呈し、やがて姿を消すことになった。この方式の誤りは、一見すると「屋上屋を架す」ことにあるように見えるが、根本的な問題は「他部門を管理する部門を新たに設けた」点にある。部門管理者というのは、本来その部門の管理全般について責任を負う存在だ。その上にさらに管理部門を重ねることで、責任の所在が曖昧になり、組織の機能不全を招いたのだ。
他部門から管理についてあれこれ指摘させること自体が間違いなのだ。部門責任者に対して何かを要求したいのであれば、それはその責任者の上司が直接行うべきことである。それだけの話であり、何も特別なことではない。至極当然のことを、ただ当然のように行えば良いのだ。
しかし、現実を知らない観念論者が、机上の空論を振りかざした結果、組織に無用な混乱を引き起こしてしまった。こうした理論が実務に適合しないのは明らかだが、それを理解しない人々が組織を振り回した末路が、この方式の失敗だったのだ。
Z社長は、この空論に惑わされて集中管理方式を導入し、そこから生じた無用の混乱に頭を抱えていた。しかし、このZ社長を笑えない状況に、私自身も幾度となく直面している。
例えば、不良品が多いことを理由に検査課長を叱りつける社長や、売掛金や在庫が多いことを指摘し、経理課長に向かって「もっとしっかり見ていなければダメじゃないか」と小言を言う社長。こうしたケースは決して珍しくない。責任の所在を取り違え、根本的な問題に目を向けない姿勢が、問題解決を遠ざけているのだ。
社長がこのようなことを言い出すと、その課長は「社長からの指示だ」とばかりに他部門へ口を出し始める。これがきっかけとなり、会社内部に無用なトラブルを引き起こしてしまうのだ。そして、そのトラブルが次第に社内全体の雰囲気を悪化させ、組織の空気をどんどん歪めていく。こうした連鎖は、根本的な問題に手をつけないまま、表面的な管理だけにこだわる姿勢から生じている。
社長が何か言いたいことがあるなら、それは直接その部門の管理職に伝えるべきであり、他部門の人間を通じて言わせるべきではない。「いちいちそんなことを言っていたら、体がいくつあっても足りない」と考える社長がいるかもしれないが、それは単に社員の管理方法を理解していないだけの話だ。社長の役割は、現場の細かな指示ではなく、大局的な方針を示し、それを部門管理者に委ねることで組織を動かすことにあるのだ。
その方法は至ってシンプルだ。経営計画書を作成し、その中に「我が社で実現したいこと」を明確に示すだけでいい。そして、その内容を管理職にしっかり伝え、実現のための責任を委ねる。さらに、具体的な課題に取り組む必要がある場合には、「プロジェクト計画書」の作成と提出を指示すればよい。このように、目標や方向性を明確化し、それを管理職に共有することで、組織全体を効率よく動かすことが可能になるのだ。
あとは月に一度、進捗状況をチェックすれば十分だ。この方法を採用すれば、社長が日常業務に費やす時間は劇的に減少する。結果として、社長自身が日常業務の管理から「失業」するような状態になる。実際に経営計画書を導入した多くの企業で、これが有効であることが証明されている。社長は細部にとらわれるのではなく、経営全体の方向性を示すことに専念すればよいのだ。
企業における「他部門を管理する部門」を設けるべきでない理由
企業では各部門がそれぞれの役割に応じた責任を持ち、その部門の管理責任は、直属の管理職にあるべきです。しかし、一部の企業では、業務を効率的に管理しようとするあまり、他部門を管理する部門(集中管理部門)を設けることがあります。このような構造は、一見便利そうに見えますが、実際には混乱と非効率を生む原因となります。
1. 集中管理方式の失敗例
かつて流行した「集中管理方式」は、会社全体の活動を一つの部門で管理しようとしましたが、これは実際に運用してみると、多くの問題が露呈しました。管理部門に人数を割く必要があり、管理する側と実務を行う管理職の間に責任の所在が曖昧になり、混乱を招く結果となりました。こうした方式は、「屋上屋を架す」つまり不必要な重複を生む典型例です。
2. 他部門管理の責任の不明確化
部門管理者は、自身の部門に対する全責任を負っています。しかし、他の部門からその部門管理に指示や干渉が入ると、管理者の責任が不明確になり、会社内に不和やトラブルを引き起こします。各部門が本来の責務に集中するためには、各部門における業務管理の責任はその部門の管理職が担うべきです。
3. 社内環境の悪化
例えば、社長が売掛金や不良品に関して経理課や検査課に小言を言うと、これらの課が他部門のことにまで口を出し始め、社内の風通しが悪くなり、社員のモチベーションにも悪影響を与えます。社長が各部門の管理職に直接的な指示をするのではなく、他部門を通じて言わせることは避けるべきです。
4. 管理責任の正しい配置
部門に対する評価や指導は、社長やその直属の上司が直接行うのが正しい在り方です。社長は、事業の管理を「集中管理」するのではなく、経営計画書にて具体的な目標と管理基準を明示し、定期的にそれをチェックする形が理想です。
結論
企業の成長や効率化を実現するためには、各部門がその職務に責任を持ち、余計な干渉や二重管理を避けることが重要です。他部門を管理する部門を設けるのではなく、明確な計画と定期的なチェック体制を構築することで、より効果的な管理が可能となります。
コメント