君子たる者の心は、青空のように澄みきっており、誰が見てもその誠実さがわかるもの。
だが、自らの才能や才覚は、人にひけらかすものではない。
宝玉を布に包み、箱にしまっておくように、才華はむしろ目立たぬように秘めておくべきだ。
心は透明に、才能は慎ましく――それが本当の品格ある人の姿である。
「君子(くんし)の心事(しんじ)は、天(てん)青(あお)く日(ひ)白(しろ)く、
人(ひと)をして知らざらしむべからず。
君子の才華(さいか)は、玉(たま)韞(つつ)み珠(たま)蔵(かく)し、
人をして知り易(やす)からしむべからず。」
注釈:
- 心事(しんじ)…心のあり方、内面の誠実さ。誰から見ても偽りのない様子。
- 才華(さいか)…才能・知恵・優れた能力。内に秘めた輝き。
- 玉韞め珠蔵し(たまつつみたまかくし)…美しい宝玉や真珠を包んで隠す。見せびらかさず控えめにする意。
- 「不可人不知」…人に知られないようではなく、むしろ人が自然に感じ取れるようにしておくこと。
- 「不可人易知」…人が容易に気づいてしまうような、あからさまな才能のひけらかしは慎むべきこと。
1. 原文:
君子之心事、天靑日白、不可使人不知。
君子之才華、玉韜珠藏、不可使人易知。
2. 書き下し文:
君子の心事(しんじ)は、天(てん)青く日(ひ)白く、人をして知らざらしむべからず。
君子の才華(さいか)は、玉を韜(つつ)み珠を蔵(ぞう)し、人をして知り易からしむべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「君子の心事は、天青く日白く、人をして知らざらしむべからず」
→ 君子の心は澄み渡る青空と白昼の太陽のように、誰が見ても明るく隠し事がないものでなければならない。 - 「君子の才華は、玉を韜み珠を蔵し、人をして知り易からしむべからず」
→ 君子の才能や知恵は、玉を包み、珠を隠すように、簡単に他人に知られてはならない。
4. 用語解説:
- 君子(くんし):徳を備えた理想的人格者。儒教における理想的リーダー像。
- 心事(しんじ):心の在り方、意図、誠意や思い。
- 天青日白(てんせいじつはく):青空と白昼。透明で曇りのない比喩。
- 玉韜珠藏(ぎょくとうしゅぞう):「玉を包み、珠を蔵す」とは、価値あるものを慎んで表に出さないこと。
- 不可使人不知/不可使人易知:それぞれ「知られないようにしてはならない/容易に知られてはならない」という意味。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
君子の心の在り方は、青空と白昼のように清く、誰から見ても偽りのないものであるべきだ。
一方で、その才能や知恵は、宝玉のように内に秘め、むやみに他人に見せびらかすようなものではあってはならない。
6. 解釈と現代的意義:
この章句では、君子──すなわち人格者の理想像──に求められる「心の透明さ」と「才の慎み深さ」という、開示すべきものと隠すべきもののバランスが説かれています。
心の誠実さは人目に明らかであるべきで、不正や裏表があってはならない。
一方で、自分の才能や成果は、必要以上に誇示せず、控えめに秘めておくことが望ましいという逆説的な美徳が強調されているのです。
「見せる誠実さ」と「隠す才能」というこの対比は、現代においても極めて有効な処世哲学です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「誠実さは隠さず、オープンに示す」
リーダーや経営層の“心のあり方”は、部下や取引先に対して見えなければ信頼は得られません。
倫理観・意図・判断基準は、誤解を恐れずに透明性を持って伝えるべきです。 - 「能力・実績は、謙虚に内に秘めよ」
成果やスキルを過度に誇示すると、協調性を欠き、周囲との摩擦や嫉妬を招くことがあります。
「実力は黙して語らず」の姿勢が、むしろ信頼と尊敬を生むのです。 - 「オープンとクローズの使い分け」
会社の理念・方針・判断の根拠はクリアに。
一方で、個人の武器や交渉の切り札は必要な時まで秘す──この判断力が、現代のリーダーには不可欠です。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「心は青空のごとく、才は玉のごとく包め──見せる誠実、隠す才覚」
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