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賢くあってこそ、真の楽しみがある

「真に楽しむ力は、徳ある行いの上に生まれる」

ある日、梁の恵王が庭園の沼のほとりで、鴻(おおとり)や雁、大鹿や小鹿を眺めながら孟子に問うた。

「賢者もまた、こういうものを楽しむものか?」

それに対して孟子は、やわらかく、しかし明確に答える。

「賢者であってこそ、こうした自然の豊かさを楽しめるのです。賢者でなければ、たとえこのような景色があっても、心から楽しむことはできません」。

この言葉には、人生の本当の喜びは外的な豊かさにではなく内なる成熟、つまり「賢さ」によってこそ開かれるという孟子の深い洞察が込められている。

目次

孟子の巧みな対話術と人生哲学

この章は、孟子が王の軽口にも見える問いを受け流しながら、自分の思想に引き込んでいく見事な展開である。

恵王は半ば孟子を試すような態度で話しかけますが、孟子はそれを逆手にとって「賢さとは何か」「楽しみとは何か」という本質的な問いに置き換えた。

現代でも「どうすれば人生を楽しめるのか」という問いは普遍的である。しかし孟子は、条件やモノの多寡ではなく「賢さ=正しい心の成熟」があってこそ、楽しみの質も変わるのだと教えています。

原文

孟子、見梁惠王。
王立於沼上、顧鴻鴈麋鹿曰、
「賢者亦樂此乎?」
孟子對曰、
「賢者而後樂此。不賢者、雖此、不樂也。」

書き下し文(ふりがな付き)

孟子(もうし)、梁(りょう)の恵王(けいおう)に見(まみ)ゆ。

王(おう)、沼上(しょうじょう)に立(た)ち、鴻(こう)・鴈(がん)・麋(び)・鹿(しか)を顧(かえり)みて曰(いわ)く、賢者(けんじゃ)も亦(また)此(これ)を楽しむか。

孟子対(こた)えて曰く、賢者にして後(のち)此を楽しむ。

不賢者(ふけんじゃ)は此有(これあ)りと雖(いえど)も、楽(たの)しまざるなり。

現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

  • 「孟子、梁の恵王に見ゆ」
     → 孟子が梁の恵王に謁見した。
  • 「王、沼上に立ち、鴻・鴈・麋・鹿を顧みて曰く」
     → 王が沼のほとりに立ち、鴻(おおがり)や鴈(がん)、麋(へらじか)、鹿などを眺めながら言った。
  • 「賢者も亦此れを楽しむか」
     → 「徳のある者も、このような自然の景観を楽しむのだろうか?」
  • 「孟子対えて曰く、賢者にして後に此れを楽しむ」
     → 孟子は答えた。「賢者であってはじめて、このような景観を楽しむことができます。
  • 「不賢者は、此れ有りと雖も、楽しまず」
     → 「賢者でなければ、たとえこのような景色があっても楽しめません。

用語解説

  • 沼上(しょうじょう):池や沼のほとり。風景が美しく、貴族が遊興の場とした場所。自然の景観。王が眺めていたのは美しい風景の象徴。
  • 鴻(こう):おおがり。渡り鳥の一種。貴族的な狩猟の対象でもある。
  • 鴈(がん):がん。同じく渡り鳥。
  • 麋(び):ヘラジカに似た大型の鹿。高貴な動物とされる。
  • 賢者(けんじゃ):徳と知を兼ね備えた人物。ここでは道義を知る理想的な統治者。ただ知識がある人ではなく、内面が成熟し、正しく物事を味わえる人。孟子が言う「賢者」は、心のあり方を指す。
  • 顧みる:振り返る、見渡す。風景を眺めての感慨。
  • 楽しむ:表面的な娯楽ではなく、深い満足や充足感を意味する。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子が恵王に謁見したとき、王は沼のほとりで自然の景観を楽しみながら言った。
「徳のある者も、こうした風景を楽しむものだろうか?」
これに孟子は答えた。
「徳を備えた者であってこそ、この景観を心から楽しめるのです。
徳のない者には、どれほど豊かな自然があっても、本当の意味で楽しむことはできません。」

解釈と現代的意義

この章句の核心は、「真の楽しみは徳に裏付けられてこそ成立する」という倫理観である。

孟子は、単なる感覚的な娯楽や美しさではなく「心の平安」や「正しさ」によってこそ人は本当の楽しみを得られると主張している。

つまり、道徳的に正しく生きる者だけが、外的な豊かさを心から味わう資格があるという考えである。

恵王は自然の美しさに目を向けますが、それだけでは“賢者の楽しみ”にはならない。

孟子は、「仁義なき支配者は、たとえ豊かな景観や資源を持っていても、それを楽しむ資格を持たない」と厳しく示唆している。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

  • 「成功の果実を楽しむためには、正しい過程(徳)が必要」
     企業が得る報酬・成果(利益、地位、名声)は、社会的・倫理的な正しさ(=賢)に支えられていなければ、持続的な幸福をもたらさない。
     不正な手段や短絡的な儲けでは、後味の悪さや内部崩壊を招く。
  • 「組織文化が整っていてこそ、福利厚生や成功の喜びが活きる」
     社内に不公平感や不信感があると、どんなに豪華なオフィスや高給を与えても社員は楽しめない。
     まずリーダーが“正義と誠実さ”をもって運営することで、はじめて「安心して楽しめる環境」が育つ。
  • 「豊かさは“徳の実践”によって味わいに変わる」
     どれだけ素晴らしい資産やプロダクトがあっても、それを活かせるのは“賢き運営”がなされている組織だけである。

 クリーンな経営と高い倫理観が、ブランド価値や長期的顧客満足を支える。

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