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すべては一つ。違いにとらわれる必要はない

天地に存在するすべてのもの――
草木や動物、人と人との感情、世の中のあらゆる出来事――
これらは、私たちの普通の「世俗の目」で見れば、
互いに異なっていて、複雑に入り乱れたものに映る。

しかし、「道の目(=道眼)」で見つめ直せば、
それらすべては、本来ひとつにつながっており、
変わらず、常にそこにある「道(タオ)」の現れにすぎない。

だからこそ、どれが良い、悪いと分別したり、
取るべきか捨てるべきかと選り好みしたりする必要など、本当はないのである。

「天地中(てんちちゅう)の万物(ばんぶつ)、人倫中(じんりんちゅう)の万情(ばんじょう)、世界中(せかいちゅう)の万事(ばんじ)は、俗眼(ぞくがん)を以(も)て観(み)れば、紛紛(ふんぷん)として各(おのおの)異(こと)なるも、道眼(どうがん)を以て観れば、種種(しゅしゅ)是(こ)れ常(じょう)なり。何(なん)ぞ分別(ふんべつ)煩(わずら)わさん、何ぞ取捨(しゅしゃ)を用(もち)いん。」

“違い”に目を向けているかぎり、世界は分断される。
だが、“つながり”に目を向ければ、すべては一つであり、
そのなかに、変わらぬ真理と調和を見いだすことができる。
これは、老荘思想や荘子の「万物斉同説」にも通じる、根源的な世界観である。


※注:

  • 「俗眼(ぞくがん)」…世間的・相対的に物を見る目。主観や判断が伴う常人の視点。
  • 「道眼(どうがん)」…万物の本質を見通す目。道(タオ)や一体性を認識する視点。悟りに通じるもの。
  • 「種種是常」…一見バラバラに見えるものも、本質的にはすべて道の表れであり、変わらないもの。
  • 老子・荘子の思想との関係:『老子』では「一は万物を生ず」とされ、『荘子』では「万物斉同(ばんぶつせいどう)」という思想が語られる。差異ではなく、一体性に注目する哲学である。

原文

天地中萬物、人倫中萬情、世界中萬事、
以俗眼觀、紛紛各異。以道眼觀、種種是常。
何煩分別、何用取捨。


書き下し文

天地中の万物、人倫中の万情、世界中の万事は、
俗眼を以て観れば、紛紛として各おのおの異なるも、
道眼を以て観れば、種種是れ常なり。
何ぞ分別を煩わさん、何ぞ取捨を用いん。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「天地間のあらゆる物、人間関係におけるあらゆる感情、世界のあらゆる出来事は」
→ 自然・人間・社会のあらゆる現象すべてが対象。

「俗人の目で見れば、すべてが複雑に入り組み、それぞれが異なって見える」
→ 常識的・世俗的な視点では、違いばかりが目につき、混乱して見える。

「だが道の目(=真理の視点)で見れば、すべては“常”であり、変わることのない道理に従っている」
→ 本質を見る視点では、すべては一貫した自然法則のあらわれでしかない。

「そのような視点を持てば、何を分けたり迷ったりする必要があろうか。何を取る、捨てるといった選別が必要だろうか」
→ 物事に一喜一憂しなくなる。真理に従えば、無駄なこだわりや選択は不要になる。


用語解説

  • 天地中の万物:自然界に存在するすべてのもの。
  • 人倫中の万情:人間関係にまつわるさまざまな感情や欲望。
  • 俗眼(ぞくがん):常識や利害・感情・欲望に基づいた見方。
  • 道眼(どうがん):真理・本質・自然の摂理に従った見方。仏教的には“仏眼”や“慧眼”。
  • 紛紛(ふんぷん):入り組んで混乱したさま。多くの違いが錯綜して見えること。
  • 是常(これじょう):これが“常”=道理にかなった一つの在り方である、という意味。
  • 分別(ふんべつ):物事を区別し、判断すること。仏教では煩悩に近いニュアンス。
  • 取捨(しゅしゃ):選び取る、あるいは捨てること。執着と評価を象徴する言葉。

全体の現代語訳(まとめ)

自然界のあらゆる存在、人間のさまざまな感情、社会で起こるすべての出来事は、
俗世の目で見れば、それぞれバラバラで混乱しているように見える。
だが、本質を見抜く“道の目”で見れば、どれもが一つの普遍的な道理に従っている。
そうと分かれば、いちいち分けたり迷ったりする必要もなく、取る・捨てるといった執着も不要になるのだ。


解釈と現代的意義

この章句は、“世界をどう見るか”によって、人生の負荷や悩みが激減するという、非常に実用的な哲理を教えています。

  • 常識の目(俗眼)は「違い」や「問題」に目を奪われる。
  • 道理の目(道眼)は「本質」や「共通性」を見る。
  • 物事にラベルを貼って評価したり、あれこれ選別するほど、心が騒ぎ、疲弊する。
  • “判断を手放す視点”こそが、心を自由にする知恵である。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「複雑な事象も、抽象度を上げれば一貫性が見える」

データ、プロジェクト、チームの動きも、“細部”を見れば違いだらけ。
だが、“構造”や“目的”という上位のレイヤーで見ることで、統一された原理が見えてくる

2. 「感情に左右されず、構造思考を身につける」

俗眼とは、感情的・主観的な判断。道眼とは、システム思考やロジックに基づいた洞察
冷静な視点は、リーダーの最強の武器となる。

3. 「取捨に迷うな、“見えている世界”を変えよ」

何を取るか、何を捨てるかで悩むより、“どう見るか”を変えることが、人生・ビジネスの本当の改善。


ビジネス用の心得タイトル

「選ぶより、見方を変えよ──“本質の目”が道を拓く」


この章句は、「執着・評価・選別」を超えて、あるがままを俯瞰する智慧を教えてくれます。

経営判断、人材評価、事業戦略においても、“部分”ではなく“道理”を見抜く目がある人は、
常に冷静かつ信頼される存在となります。

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