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欲に溺れず、満足を知る──“足る”者が勝者となる

目次

『老子』第四十六章「儉欲」


1. 原文

天下有道、却走馬以糞。
天下無道、戎馬生於郊。
罪莫大於可欲、禍莫大於不知足、咎莫大於欲得。
故知足之足、常足矣。


2. 書き下し文

天下に道あれば、走馬(そうば)を却けて以て糞(ふん)す。
天下に道無ければ、戎馬(じゅうば)郊(こう)に生ず。
罪は欲すべきより大なるは無く、
禍(わざわい)は足るを知らざるより大なるは無く、
咎(とが)は得るを欲するより大なるは無し。
故に、足るを知るの足るは、常に足るなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 「天下に道あれば、走馬を却けて以て糞す」
     → 世の中が“道”にかなっているとき、駿馬は戦争でなく、肥料づくりなど平和的な用途に使われる。
  • 「天下に道無ければ、戎馬郊に生ず」
     → 世に“道”が失われれば、軍馬が都市の近くにまで現れて、戦争が身近になる。
  • 「罪は欲すべきより大なるは無く」
     → 最大の罪は、過剰な欲望を抱くことにある。
  • 「禍は足るを知らざるより大なるは無く」
     → 最大の災いは、満足することを知らないことにある。
  • 「咎は得るを欲するより大なるは無し」
     → 最大の咎(とが・過ち)は、手に入れることに執着しすぎることにある。
  • 「故に、足るを知るの足るは、常に足るなり」
     → だから、“足るを知る”ことこそが、真に満ち足りた状態を常にもたらすのだ。

4. 用語解説

  • 道(タオ):自然と調和する原理。秩序ある平和な状態。
  • 走馬(そうば):駿馬、もともとは軍馬。ここでは戦争がない時に平和利用される馬の意。
  • 糞(ふん)す:肥料として用いる。耕作や農業的用途。
  • 戎馬(じゅうば):軍馬。戦争の象徴。
  • 郊(こう):城の郊外。そこに戦が及ぶのは戦乱の象徴。
  • 欲すべき(よくすべき):得たいと思う対象。
  • 知足(ちそく):満足することを知る心。道家の重要概念。
  • 常足(じょうそく):「常に足る」=永続的な満足。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

世の中に「道」が行きわたっていれば、馬は戦場ではなく農地で活用される。
しかし「道」が失われれば、戦乱が都市の周囲にまで及ぶようになる。

人間の最大の罪は、手に入れたいという欲に溺れること。
最大の不幸は、満足を知らないこと。
そして最大の過ちは、得ることに執着することである。

だからこそ、「足るを知る」という満足の境地こそが、
いついかなるときも、真に満ち足りた状態をもたらす。


6. 解釈と現代的意義

この章句の中心テーマは、「欲望の節制と満足の智慧」です。

老子は、社会が平和かどうかを、欲望のコントロールで判断しています。
争いの根源は「もっと得たい」「もっと持ちたい」という限りなき欲望であり、
それを制御できれば、戦乱も起きないと説いています。

また、「足るを知る」ことが、
精神の自由と社会の安定をもたらすと強調しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「走馬を却けて糞す」= 資源の平和的活用が繁栄を生む

→ 技術・人材・資本などのリソースは、戦い(競争)にではなく育成・共創・社会貢献に使うことで持続的成長につながる。

●「罪莫大於可欲」= 欲望が暴走すると倫理が崩壊する

→ 社内評価・売上至上主義が行き過ぎると、不正・搾取・疲弊を生む。欲望のマネジメントが組織文化の鍵

●「知足の足るは常に足る」= 成果より“満足度”の指標が組織を安定させる

→ 成長や利益だけでなく、働きがい・満足感・信頼関係に重点を置いた経営が、持続性と幸福度を高める。

●「禍莫大於不知足」= 成功しても満たされない人・組織の危うさ

→ 終わりなき拡大思考は、最終的にブランド・人材・顧客との信頼を失う。
→ 引き際や現状肯定のバランスが必要。


8. ビジネス用の心得タイトル付き


この章句は、資本主義的競争を生きる現代人にとって、貴重なブレーキとバランスの知恵を授けてくれます。

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