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占有率ということ

K社で手伝いをしていた際、K社長から新商品の相談を持ちかけられた。「ある会社が風呂用のバーナー事業を始めたものの行き詰まり、その後始末を引き受けてほしいという話がきたが、どうしたものか」といった内容だった。

詳しく事情を尋ねてみると、そのバーナー事業を始めた会社はたったの5人で運営しているということだった。これでは行き詰まるのも当然だと感じた。そこで、私はK社長に「前車の轍を踏まないように」との意味を込めて、次のように説明を始めた。

「行き詰まった原因は、『手を出してはいけない事業』に踏み込んだからだ。バーナー市場は、この会社の規模に対してあまりに大きすぎる。通産省の資料を調べたところ、当時の市場規模は年間60億円、5年後には100億円に達すると予測されていた。事業を存続させるには最低でも市場占有率10%が必要だ。しかし、たった5名の規模で市場の10%、つまり6億円の売上を達成するのは現実的に不可能だ。極限的な生産者の中でも最も限界的な存在だったため、行き詰まるのは時間の問題だったというわけだ」と説明した。

市場占有率という最も基本的な市場原理を理解していない状態では、事業の経営は成り立たない。詳しい内容については「経営戦略」篇および「販売戦略」篇に記載してあるので、そちらを参照するとよい。

しかし、この基本的な原理は、一見すると広く知られているようで、実際には驚くほど認識されていないのが現状だ。「経営戦略」篇で触れた栗田電機や芝電機、コロンビアといった事例がその典型例だ。また、日産がフォークリフト事業に手を出したり、東芝がエレベーター事業を展開したりと、大企業でも市場原理を無視した無謀な挑戦をして失敗した例は枚挙に暇がない。

大企業は体力があるため、限界商品を抱えていても、その赤字が直ちに経営基盤を揺るがすことは少ない。だが、中小企業が同じことをすれば、経営全体を揺るがす深刻な事態に陥る可能性が極めて高い。資源や規模の限られた中小企業にとって、こうした無謀な挑戦は致命的なリスクを伴う。

そのため、新商品や新事業に着手する際は、何よりもまず市場の規模、つまり総需要を把握することが不可欠だ。ただし、総需要を正確に把握するのは難しく、多くの場合、様々な手段を駆使して情報を集め、慎重に検討しながら推定する必要がある。中でも特に重要なのは、先発メーカーに関する情報だ。先発メーカーの規模や動向は、参入する市場の実情や競争環境を把握する上で非常に有益な手がかりとなる。

興信所の調査を活用すれば、特に4〜5社程度を注意深く分析することで、市場の状況をかなりの程度まで把握できる。売上高や主な得意先といったデータを相互に関連づけながら検討し、市場の規模や構造、競争環境を推定していくことがポイントだ。このような具体的な情報に基づく分析は、新事業の成功可能性を見極める上で重要な手法となる。

総需要を推定した後、その10%を自社が担うことを想定してみる。この規模が自社の実力では難しいと判断される場合、十分な力を蓄えるまで事業開始を見合わせるべきだ。なぜなら、その状況で始めても限界生産者として市場で苦戦するだけだからだ。逆に、その10%が自社の規模に対してあまりに小さく、負担が軽すぎる場合も問題だ。そのような市場では、参入しても十分なリターンを得られず、事業としての意義が乏しいと言える。

なぜなら、市場規模が小さすぎる場合、たとえ30%の占有率を達成したとしても、その絶対額は大したものではないからだ。このような事業に取り組んでも、収益は微々たるもので、経営全体の助けにはならない。実際、小規模な市場に参入して失敗した例として、立石電機が秤事業に手を出したケースが挙げられる。このような過去の失敗から学び、市場規模と事業の収益性を慎重に見極めることが重要だ。

秤のように市場規模が小さい業界では、たとえ高い占有率を確保したとしても、得られる利益はたかが知れている。さらに、立石電機であっても、秤に関しては実績がなかったため、期待通りの売上を上げることはできなかった。状況を打開するために、同社は得意とするダンピング戦術を採用した。

その結果、立石電機のダンピング戦術は業界全体の価格体系を混乱させ、既存の業者を苦境に追い込むだけに終わった。同時に、立石電機自身には何のメリットももたらさず、最終的には事業から撤退する羽目になった。これは、事業の本質を理解しない無計画な参入による失敗例と言える。そもそも、秤のような小規模な業界に乗り出すこと自体が根本的な誤りだったのだ。

世の中には、立石電機のような失敗を笑えない会社が数多く存在するというのは、すでに述べた通りだ。皮肉なことに、小さな会社は一様に自社規模を超えた大きすぎる市場を狙い、その結果業績不振に陥る。一方、大企業は逆に小さすぎる市場に手を出して失敗を繰り返している。この現象は、あたかも申し合わせたかのように何度も繰り返され、同じ過ちが絶えないのが現実だ。

どちらの失敗も、市場原理としての占有率を理解していないこと、さらには事業経営そのものの本質を知らないことに起因している。事業とは、ただ思いついたから始める、といった単純なものではない。市場規模、競争環境、自社のリソースや戦略を冷静に分析し、慎重に計画を立てた上で進めるべきものだ。それを怠ると、失敗は避けられない。

「占有率」の重要性を見誤らないために ― 事業の成否を分ける市場の大きさと会社の規模の一致

新商品や新事業の成功には、単なる発想や勢いだけではなく、慎重な市場分析と占有率の確保が不可欠です。K社の事例に見られるように、十分な市場占有率を見込めないままに新事業へと突き進むと、事業が行き詰まり、会社全体を危機に陥れるリスクが大きくなります。ここでは、事業の成否を左右する「占有率」について、その重要性と慎重な判断が必要な理由を考察します。

1. 占有率とは何か、なぜ重要なのか?

占有率とは、ある市場において自社がどれだけのシェアを確保できるかを示す割合です。一般的に、市場での占有率が10%以上でなければ事業を維持することは難しいとされています。K社のように、わずか5名の人員で大規模なバーナー市場に参入しても、占有率を確保するのは困難であり、収益をあげる前に事業が行き詰まってしまうのが現実です。

2. 市場の大きさと会社の規模の一致が重要

新事業を始める際には、まずその市場の大きさ(総需要)を把握することが不可欠です。そして、その市場で少なくとも10%のシェアが見込めなければ参入は見合わせるべきです。自社の規模に対して市場が大きすぎる場合、必要な人員や資源を確保できず、限界生産者となってしまう可能性が高まります。一方、市場が小さすぎると、大手として成功しても収益が十分に得られないという問題が発生します。

3. 市場の総需要を正確に推定する方法

市場の総需要を正確に把握するのは難しいものですが、入手可能なデータや先発メーカーの情報から推測することが可能です。たとえば、通産省のデータや興信所の調査を活用し、先発メーカーの売上高や主な顧客などを基に市場規模を推定します。そのうえで、自社が確保可能なシェアを見積もり、参入の是非を判断することが重要です。

4. 占有率が低いと事業が成り立たない理由

低い占有率では、収益性が低下し、事業の安定が確保できません。また、限界生産者となると、市場競争が激化した際に真っ先に苦境に陥ります。占有率が確保できないまま事業を続けると、収益は低く、会社全体の足かせとなる可能性が高まります。

5. 大企業も占有率を軽視すると失敗する

占有率の重要性を見誤るのは、中小企業だけではありません。大企業も、総需要が小さい市場に無計画に参入すると、占有率の低さや市場の限界に苦しみ、撤退を余儀なくされるケースが少なくありません。立石電機の秤の事例のように、大企業であっても、小さすぎる市場に進出することが収益をもたらさない結果となりかねません。

6. 市場原理と事業経営への認識を深める

事業の成否は、単なる思いつきや商品への情熱だけでは決まりません。占有率や市場の大きさ、収益性の確保といった市場原理に基づき、慎重に事業を進める必要があります。この視点を持つことで、自社の規模や市場の可能性に合った計画を立て、成功のチャンスを高めることができます。

結論

新規事業を成功させるためには、市場規模や占有率の見込みといった基本的な市場原理を理解し、自社の力と市場の大きさを照らし合わせて慎重に判断することが重要です。K社の事例からも、占有率が確保できないままの事業は、会社全体を危機に追い込むリスクがあることが明らかです。事業のアイデアや発想に固執するのではなく、市場の現実を見極めた戦略的な意思決定が、成功への鍵となるでしょう。

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