孔子は、人との関わりにおける**「共にあることの難しさ」**について、次のように語った。
「共に学ぶことはできても、
必ずしも共に道を歩めるわけではない。
共に道を歩むことができても、
必ずしも一緒に立って信念を貫けるわけではない。
一緒に立てたとしても、
最後に物事を判断するときに、同じ決断ができるとは限らない」
これは、学び・価値観・行動・判断という段階を経るごとに、
人の関係が自然に分かれていくことを示した言葉です。
若いとき、同じ教室で机を並べていても——
社会に出れば、考え方や優先する価値観は次第に違っていく。
そして一緒に仕事をするようになっても、
最後の一線である「判断」「選択」の場では、
その人の真の徳や器量が問われる。
孔子は、この章句を通じて、
一緒にいた時間や過去の絆だけに頼らず、
今、何を大事にしているか、どこまで心を通わせられるかを見極めることの大切さを教えています。
原文(ふりがな付き)
「子(し)曰(いわ)く、与(とも)に共(とも)に学(まな)ぶべきも、未(いま)だ与(とも)に道(みち)を適(ゆ)くべからず。与(とも)に道(みち)を適(ゆ)くべきも、未(いま)だ与(とも)に立(た)つべからず。与(とも)に立(た)つべきも、未(いま)だ与(とも)に権(はか)るべからず。」
注釈
- 共に学ぶ…若い頃や初心の段階で、一緒に知識や技術を身につけること。
- 道を適く(ゆく)…人生の進むべき方向、価値観を共有して行動すること。
- 立つ…信念や立場をともにし、外部の圧力に耐えうる状態。
- 権る(はかる)…具体的な判断を下すこと。最終的な価値観の違いが現れる場面。
原文:
子曰、可與共學、未可與適道。可與適道、未可與立。可與立、未可與權。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、与(とも)に学(まな)ぶべきも、未(いま)だ与に道(みち)を適(ゆ)くべからず。
与に道を適くべきも、未だ与に立(た)つべからず。
与に立つべきも、未だ与に権(はか)るべからず。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 共に学ぶことはできても、まだ共に道を歩むことはできない者がいる。
→ 一緒に勉強はできるが、価値観や信念を共有して実践するには至らない人もいる。 - 道を共に歩める者であっても、まだ人生の基盤を共に築くには至らない者がいる。
→ 信念は合っても、困難を乗り越えて立つ力には差がある。 - 共に立つことができる者であっても、まだ臨機応変に判断を共にすることはできない者がいる。
→ 真に信頼し、複雑な状況で判断を預けられる相手とは限らない。
用語解説:
- 共学(きょうがく):共に学ぶこと。表面的な知識の共有段階。
- 適道(てきどう):共に“道”(価値観・信念・人生哲学)を実践すること。
- 立(たつ):信念を持って自立し、困難を乗り越え、継続的に立ち続ける姿勢。
- 権る(はかる):臨機応変な判断や対応をすること。変化する現実における知恵・応用力。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「共に学ぶことはできても、共に“道”を歩むことができるとは限らない。
道を共に歩むことができても、同じ基盤の上に共に立ち続けられるとは限らない。
共に立ち続けられる者であっても、複雑な状況において共に柔軟に判断し行動できるとは限らない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、人との関係性の深まりには段階があることを明確に示しています。
- 学びを共にする(共学):表面的な協力関係。
- 信念・道を共有する(適道):価値観の一致。
- 困難に対し共に立つ(共立):継続的な実践力の共有。
- 変化・逆境に対応し合う(共権):高度な判断力・実行力の共有。
孔子は、人を信頼し深く関係するには、段階的にその人を見極める必要があると説いているのです。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. “共学”=表面的な協業は入り口にすぎない
- 一緒に研修を受けたりプロジェクトを組んだだけでは、その人と本当の意味で価値を共有できるとは限らない。
- 表面的な関係に満足せず、「この人と本当に一緒に志を実行できるか」を見極めよ。
2. “共立”=困難を共に乗り越える経験こそ真の信頼を生む
- 危機のときに共に立てる相手かどうかで、本当のパートナーかどうかが分かる。
- 日々の小さな試練の積み重ねが「共立」を育てる。
3. “共権”=変化と不確実性に対応できる判断力が試される
- 高度な意思決定や現場判断は、共通の思考基盤と経験に裏打ちされていないとできない。
- 真のリーダーや経営パートナーとは、「共権」ができる相手である。
ビジネス用心得タイトル:
「共に学ぶなかれ、共に立ち、共に権れ──信頼は段階的に築け」
この章句は、チームビルディング、採用、幹部育成、パートナー選定、組織内信頼形成に極めて大きな示唆を与えるものです。
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