― その立場にいない者は、政(まつりごと)を語るべからず
孔子は、組織や社会における**「立場と発言の節度」**を説いた。
自分がその役職・地位にいないのであれば、
その職責に関わる判断や方針について口出ししてはならない。
たとえ知識や経験があったとしても、
実際にその場に立ち、責任を負っているわけでなければ、
意見には現実感が伴わず、無責任な批判になりかねない。
この教えは、単に「黙っていろ」ということではなく、
立場に応じた責任と沈黙の美徳を尊重するものであり、
現代においても、組織内外の発言に深い示唆を与えている。
原文と読み下し
子(し)曰(のたま)わく、其(そ)の位(くらい)に在(あ)らざれば、其の政(まつりごと)を謀(はか)らず。
注釈
- 位に在らざれば:その地位・役職・立場にいないこと。責任のあるポジションにいない者を指す。
- 政(まつりごと):政治に限らず、組織の方針・運営・実務全般を含む。
- 謀らず(はからず):判断や意見を述べない、計画に加わらないという意味。
- この言葉は、無関係な立場からの批判や介入を戒めるとともに、権限と責任の一致の大切さを示す。
原文:
子曰、不在其位、不謀其政。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、其(そ)の位(くらい)に在(あ)らざれば、其の政(まつりごと)を謀(はか)らず。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「其の位に在らざれば」
→ 自分がその役職・立場にいないのなら、 - 「其の政を謀らず」
→ その仕事や職務の内容について口出しすべきではない。
用語解説:
- 位(くらい):役職・地位・担当範囲。
- 政(まつりごと):政治、あるいは統治・職務・仕事の方針。
- 謀る(はかる):計画・議論・干渉すること。ここでは「口出し」「介入」の意味。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「自分の立場にないことについては、あれこれ口出しすべきではない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「職責と発言の一致」「越権を戒める態度」**を説いた孔子の原則です。
- 担当していない領域には干渉しない
- 責任を持てない仕事に指図しない
- ポジションに応じた言動を守る
という、組織における「節度あるふるまい」「責任と発言の整合性」が求められるという教訓です。
この言葉は、単なる沈黙を勧めるものではなく、**「発言の責任を自覚すること」**を意味します。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「役職外の口出しが、現場を混乱させる」
- 責任のない人が無責任に意見だけ述べると、現場の士気が下がる。
- 指示権限のない立場からの強い意見は、「責任逃れの口先」に映る。
2. 「自分の役割に集中することが信頼を生む」
- 部門外への干渉よりも、まずは自分の役割・ミッションを全うすることが信頼を得る近道。
- 「守備範囲を守る」ことは、組織全体の秩序と連携の基本。
3. 「発言には職責を伴わせよ」
- 自分の言動に責任が伴う立場かどうかを自問する。
- 「意見を言う前に、“もしそれが決定されたら自分が責任を取れるか”を考える」姿勢を養う。
ビジネス用心得タイトル:
「その職に非ざれば、その策を語るな──発言と責任の一致が信頼をつくる」
この章句は、現代の組織運営・マネジメント・ガバナンスにおいても重要な教訓です。
経営層から現場、若手まで、**「立場に応じた発言と沈黙」**の使い分けは、組織の成熟度を示す指標でもあります。
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