――真の政治とは、遠くを見てゆっくり歩むこと
孔子の弟子・子夏(しか)が、魯国の**莒父(きょほ)**という地方の長官となり、政治のやり方を孔子にたずねた。
そのとき孔子は二つのことを戒めた。
「あわてるな。小さな利益に惑わされるな。」
急ぎすぎれば、やるべきことの本質を見失い、かえって遠ざかってしまう。
目の前の小さな利益ばかりを追えば、大きなこと・長く残ることは成し遂げられない。
政治において大切なのは、堅実に、正しい方向へ時間をかけて歩むことである。
目先の数字や評価にとらわれることなく、真に必要な「道」を見極めること――
それこそが孔子の説くリーダーの資質である。
原文とふりがな付き引用:
「子夏(しか)、莒父(きょほ)の宰(さい)と為(な)り、政(まつりごと)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、速(すみ)やかなるを欲(ほっ)する毋(なか)れ。小利(しょうり)を見(み)る毋かれ。
速やかならんと欲すれば、則(すなわ)ち達(たっ)せず。小利を見れば、則ち大事(だいじ)成(な)らず。」
注釈:
- 子夏(しか) … 孔子の高弟で、実務能力に優れた人物。後に教育者としても名高い。
- 莒父(きょほ) … 魯国の一地方の名。ここで子夏が地方行政を担った。
- 速やかなるを欲する毋かれ … 焦ってすぐに成果を求めるな、という戒め。
- 小利を見る毋かれ … 目先の小さな利益ばかりにとらわれるな。
- 大事成らず … 本当に意義ある、大きな仕事は果たされなくなるという警告。
1. 原文
子夏爲莒父宰、問政。子曰、毋欲速、毋見小利。欲速則不達、見小利則大事不成。
2. 書き下し文
子夏(しか)、莒父(きょほ)の宰(さい)と為(な)り、政(まつりごと)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、速(すみ)やかなるを欲(ほっ)する毋(なか)れ。小利(しょうり)を見る毋かれ。
速やかならんと欲すれば、則(すなわ)ち達(たっ)せず。小利を見れば、則ち大事(だいじ)成(な)らず。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「子夏、莒父の宰と為り、政を問う」
→ 弟子の子夏が莒父の地の行政長官(地方官)となり、孔子に政治の心得を尋ねた。 - 「子曰く、速やかなるを欲する毋かれ。小利を見る毋かれ」
→ 孔子は言った。「物事を急いではいけない。目先の小さな利益にとらわれてはいけない。」 - 「欲速則不達」
→ 「急いで進めようとすると、かえって目的を達成できなくなる。」 - 「見小利則大事不成」
→ 「目先の小さな利益ばかり見ていると、大きな事業は成し遂げられない。」
4. 用語解説
- 子夏(しか):孔子の高弟の一人。本名は卜商(ぼくしょう)。学識と行政能力に優れ、後に教育家としても知られた。
- 莒父(きょほ):古代中国の地名。現在の山東省付近とされる。
- 宰(さい):地方行政の長官。町のリーダーとして民政を担当する役職。
- 毋欲速(むやくそく):急いで成果を求めることなかれ。拙速を戒める表現。
- 小利(しょうり):目先の利益。長期的視点から見れば些末な収益や成果。
- 大事(だいじ):重要で長期的な成果、国家や組織にとって本質的な目的。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子の弟子・子夏が地方行政官となり、孔子に政治の心得を尋ねた。
孔子はこう答えた:
「物事を急いではならない。目先の小さな利益を追ってはならない。
急ぎすぎると、かえって目標に到達できなくなるし、
小さな利益ばかり見ていると、大きな事業は成し遂げられない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「短期志向の危険性」と「本質を見失わない姿勢」**を教えています。
- 孔子は、政治とは一つひとつ地道に積み重ねることで、はじめて民に安定をもたらすものだと考えました。
- 焦って成果を出そうとすれば、かえって混乱を招く。**「欲速不達」**は、現代にも通じる警句です。
- また、**「小利に目を奪われて大局を見失うこと」**が、国家や組織を滅ぼす要因になり得るという警鐘でもあります。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「短期成果に飛びつくと、本質が崩れる」
今期の売上だけを追い求めると、品質低下や顧客信頼の喪失という形で将来的な損失に繋がる。 - 「拙速より着実」
スピード重視のプロジェクトでも、「急いだ結果、手戻りが発生する」ようでは本末転倒。確実性と品質を優先する判断軸を持つべき。 - 「目先の利益より、長期的な価値を設計せよ」
小さな成功やコスト削減にこだわりすぎると、革新性や人材育成といった“未来への投資”を見失う。 - 「改革には時間と信頼が必要」
文化や風土を変える取り組みは、目に見える成果が出るまで時間がかかる。短期評価では測れない意義を重視すべき。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「拙速は誤る、近利は遠害──“長期視点”が本質を成す」
この章句は、組織運営、経営判断、改革実行などあらゆるビジネス領域において
**「急がず、小利にとらわれず、本質と全体を見よ」**という明快なリーダーの原理を提示しています。
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