売上高の達成を唯一の目標とする企業経営には、想定外の弊害が潜んでいる。単一の目標に社員の関心が集中すると、利益低下や非効率な資源配分といった問題が生じる。
事業経営は、売上だけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら成り立つものだ。本記事では、経営における目標設定やバランス管理の重要性を具体的な事例とともに考察する。
目標が売上のみ1つの弊害
売上高は伸び続けているにもかかわらず、その一方で利益が低下していくという悩みは多い。
そのような会社は、目標は売上高の達成だけに設定されており、売上目標を上回った分には報奨金が支給される仕組みになっている。
その結果、社員たちの関心は報奨金に集中してしまい、売上高を上げることだけが目的化していた。売上を上げさえすればよい、という単純な発想が蔓延する可能性が高い。
営業員は次々と値引きを繰り返して注文を取り、製造部門は増えた仕事を外注に回すということを行い、このような状況では、利益が低下するのも当然の結果である。
最大の誤りは、売上高だけを目標に据えていた点にある。社員たちは経営全体への責任を負わず、自分たちの利益だけを考える仕組みになっていたのだ。
だからこそ、他のことは一切考えず、ひたすら売上の増大だけを目指した結果に過ぎない。
「こんな馬鹿なことがあるものか」と思うかもしれないが、こういうケースは多い。
このように、目標をただ一つに絞ると、社員の関心はその一点だけに集中してしまい、他の重要な要因を考慮しなくなったり、軽視したりするようになってしまうのだ。
事業経営とは、さまざまな要因や活動が互いに因果関係を持ち、相互に影響し合いながら成り立っているものだ。
したがって、事業経営に必要なすべての活動について目標を設定し、その目標を達成するための方針を明確に立てなければならないのである。
企業が「ただ一つの目標」に依存すると社員がその目標だけに集中し、全体のバランスが崩れてしまうことを示している。
全社的視点での目標策定
これらの目標や方針は、個別に独立して立てられるものではなく、あくまで会社全体の視点から策定されるべきである。
そして当然のことながら、個々の目標や方針が効果的に機能するためには、有機的なつながりが必要であり、相互のバランスが重視されなければならないのである。
人、物、金、時間という四つの資源を、どのように組み合わせていくかを十分に考慮しなければならない。
特に、これらのバランスをしっかりと見極めて調整しないと、逆に事業に悪影響を及ぼすことになりかねないのである。
企業の経営は、人、物、金、時間という資源をどのように組み合わせて効率的に活用するかにかかっている。
それには、売上だけでなく、利益率、顧客満足、品質管理、コスト削減といった多様な目標を設定し、企業全体のバランスを保つ必要がある。こうした多角的な目標があってこそ、事業全体の方向性が定まり、社員が他の要因も考慮しながら働けるようになるのだ。
長期的視点の重要性
バランスを重視することは確かに重要だが、短期的なバランスばかりを気にしていては、何も成し遂げることができない。
本当に重要なのは、長期的なバランスである。
長期的な視点で見て問題がないのであれば、短期的なアンバランスについては、過度に気にする必要はない。
ただし、一つだけ例外がある。それは「資金」である。資金に関してだけは、短期的なアンバランスでも見逃すべきではない。
また、重点主義や集中主義を採用している場合、その結果としてアンバランスが生じることもある。
例えば、非重点部門が手薄になるといった現象だ。しかし、そうしたアンバランスが起こることを理解した上で、必要な手を打つ場合もある。
このような状況でも、重要なのは、そのアンバランスを計画的に整える方向性を持っていることである。その限りにおいては、アンバランスが生じても問題はないと言えるのだ。
時には社長の得手や一方的な関心が、会社全体の資源配分を偏らせることもある。こうしたバランスの欠如が、企業の成長を妨げる要因になる。社長自身がこうしたリスクを認識し、得意分野だけに頼らず、幅広い視野で経営計画を策定することが大切である。
社長の役割と経営計画の課題
問題となるのは、むしろ社長自身の不得手な分野や、実態を十分に把握していないために関心が低くなり、重点的に取り組むべき活動への資源投入が不足することだ。
一方で、社長が得意とする分野や独りよがりの判断から、必要以上に資源を投入してしまうことも大きな課題である。
社長に意見を述べる人は少ない。その結果、知らず知らずのうちに誤った判断を下してしまうことも起こりやすい。だからこそ、社長はこのような危険があることを十分に理解した上で、慎重に経営計画を立てなければならないのである。
短期的な視点でバランスを考えると、成長に向けたリスクを避けがちになるが、経営ではむしろ長期的なバランスが重視されるべきだ。
たとえば、S社のようにガソリンスタンドを次々と新設し、固定比率が一時的に高くなったとしても、長期的に見ると経営は安定していた。経営計画には長期的な目線が必要であり、特定の時期に集中投資を行う場合の短期的なアンバランスは、長期的な成長を見据えたうえでの計画的なものとして捉えるべきだ
複合的な目標が企業の安定を生む
売上だけでなく、利益、コスト管理、顧客満足、そして長期的な成長を目指した複合的な目標を設定することが、企業の持続的な成長と安定につながる。
経営計画を多角的な視点から考え、長期的な視野でバランスを取ることで、企業は健全な経営基盤を築き、社員の行動も適切に導かれるのである。
具体的な目標設定に関しては、下記の記事で解説している。

まとめ
事業経営の成功には、売上高だけでなく、利益や資源の有効活用、長期的な視点が欠かせない。単一の目標に偏ることで起こる失敗を避けるためには、全社的な視点で目標を策定し、部門間のバランスを保つ必要がある。
また、短期的なアンバランスを許容しつつ、長期的に安定した経営を目指すことが重要だ。最終的には、社長自身が自らの判断に潜むリスクを認識し、柔軟かつ計画的に経営を進める姿勢が求められる。
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