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📜 引用原文(日本語訳)
しかしこの世でその愛執を捨てて、
移りかわる生存に対する愛執を離れたならば、
その人はもはや輪しない。
その人には愛執が存在しないからである。
――『ダンマパダ』 第三章「愛執」より(一三)
🔍 逐語訳・語句解説
- 愛執を捨てて:愛欲や執着の根本を断ち切る。感情的な抑制ではなく、智慧による超越。
- 移りかわる生存に対する愛執:サンサーラ(輪廻)の生死そのものへの執着。命への執着・自我への執着。
- 輪しない:サンサーラ(流転輪)を繰り返さない。生死の苦しみから完全に解放されている状態。解脱・涅槃。
- その人には愛執が存在しない:執着が完全に断たれているため、原因がない=結果もない、という仏教の因果論を表す。
💬 全体現代語訳(まとめ)
この世にあっても、愛執――とりわけ「生きること」「存在すること」への執着を完全に手放した者は、もはや輪廻を繰り返すことはない。なぜなら、輪廻を生み出す原因である「愛執」が、その人の中には、もはや存在しないからである。
🧭 解釈と現代的意義
この節は、『ダンマパダ』第三章のクライマックスであり、**「苦悩の原因=愛執」、「愛執の滅尽=輪廻からの解脱」**という明快な仏教的ロジックを示しています。
ブッダはこの句で、「愛執が存在しない心」に至れば、そこには迷いも、再生も、苦しみもないと断言します。
この「存在の執着を離れる」とは、「命を否定すること」ではなく、命にしがみつく心・結果に執着する心・自我に囚われる心を手放すということです。
現代に生きる私たちにとっても、「輪廻」とは象徴的に、「繰り返す後悔・執着・不安・怒り・恐れのパターン」と言えるかもしれません。
この連鎖から抜け出すには、まずその原因が「自分の中の執着にある」と気づくことが必要なのです。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
結果への執着からの解放 | 「成功しなければ意味がない」「評価されなければ不安」といった思考は、精神を不自由にする。「やるべきことを為し、結果は委ねる」姿勢が、安定したパフォーマンスをもたらす。 |
仕事の“意味”への再定義 | 「仕事=出世や報酬を得る手段」と見なすと執着が生まれる。「自己の表現・人への貢献」と再定義すれば、心の自由度が高まる。 |
リーダーの脱・自己同一性 | 肩書・立場・過去の成功に執着せず、流動的に役割を果たす人は、周囲からの信頼を集めやすい。 |
組織文化の脱輪廻化 | 毎年同じ問題・同じ失敗が繰り返される組織では、「愛執的構造(失いたくない、変えたくない)」がある。そこに気づき、断ち切ることが文化改革の一歩。 |
🪷 心得まとめ:感興のことば
「執着がなければ、苦しみの繰り返しもない。
輪廻は外にあるのではなく、心の内に生まれる」
この節が教えてくれるのは、**「すべての繰り返しは自らの執着が原因である」**という厳粛な真理です。
その執着が根から絶たれたとき、私たちは同じ苦しみを二度と繰り返すことはなくなります。
それは「もう苦しまない」という強さではなく、「そもそも、苦しみが生じない」静寂そのものの境地。
そのような心に向かう第一歩は、「いま、何に執着しているか」を自らに問いかけることです。
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