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身内を律せぬ者に、国を治める資格なし

—一時の情より、永続の制度を守れ

太宗は、皇族の義父・楊誉が下働きの婢をめぐって騒動を起こし、官吏の薛仁方が法に従って取り調べたことに腹を立て、薛を罰した。
それに対して魏徴は、「身内を特別扱いすれば、国の統制は失われる」と直諫する。

「狐やネズミのような小者でも、拠りどころがあると駆除しづらい。ましてや皇族・外戚となれば、その害は計り知れない」と。
太宗はこの進言に反省し、薛仁方の処分を軽減した。


原文(ふりがな付き引用)

「社鼠(しゃそ)・城狐(じょうこ)みな取(と)るに足(た)らざる物(もの)なれども、これに凭恃(ひょうし)有(あ)れば、除(のぞ)くこと容易(ようい)にあらず。
況(いわ)んや世家(せいか)・貴戚(きせき)、古(いにしえ)より理(おさ)め難(がた)しと称(しょう)せらる。

自(おの)ずから備(そな)えて豫(あらかじ)め防(ふせ)ぐは、国(くに)の常(つね)の道(みち)なり。
水(みず)未(いま)だ横流(おうりゅう)せざるを以(も)って、便(すなわ)ち堤防(ていぼう)を自(みずか)ら毀(こぼ)たんと欲(ほっ)すべけんや」


注釈

  • 社鼠(しゃそ)・城狐(じょうこ):神社に棲むネズミ、城壁に巣食うキツネ。表だって害はないように見えるが、駆除が難しく、長く放置すれば禍根となるもののたとえ。
  • 外戚(がいせき):皇后や妃の一族。しばしば権力を振りかざし政治を乱す存在。
  • 堤防を毀す:今は問題がなくとも、将来に備える制度や法を壊すなという比喩。
  • 専権(せんけん):職務の範囲を越えて独断で判断・行動すること。

教訓の核心

  • 親族・身内に対してこそ、公正さが問われる。
  • 一人の外戚を特別扱いすれば、国家の統治機構は徐々に崩れる。
  • 規律とは、「今」が平穏でも、「未来」に備えて保たねばならない防波堤である。
  • 為政者は情に流されず、「制度」と「綱紀」の守護者であるべき。

以下に『貞観政要』より、貞観七年――楊譽事件と魏徴の諫言について、いつも通りの構成で整理いたします。


目次

『貞観政要』より

貞観七年──魏徴、「外戚への特別扱いは国家を乱す」と諫める


1. 原文(抄訳整理)

貞観七年、蜀王妃の父・楊譽が役所で女婢を巡って争いごとを起こした。
都官郎中・薛仁方はその事案を調査し、処分を保留していた。

楊譽の息子(千牛職)は宮中の殿庭に訴え出て、
「五品以上の者は反逆以外の罪で身体を拘束されることはないのに、父は国の親戚だからといって軽く扱われ、数か月も処分を先延ばしにされている」と訴えた。

太宗はこれを聞き、「自分の親戚だからといって処分が曖昧になるのは許せぬ」と激怒し、薛仁方を杖刑百回のうえ、免職とした。

それを聞いた魏徴が進言して言った:

「狐や社鼠(神社に棲む鼠)でさえ、神の加護を頼って容易に駆除できません。
ましてや外戚や貴族などの有力者に対しては、法の執行が難しいものです。
仁方は職務に忠実に法を守っただけなのに、これを処罰すれば、
『皇帝の親戚には逆らうな』という風潮が生まれ、必ず後悔する日が来るでしょう。」

太宗はこれに納得し、「その通りだ、私は軽率だった」と反省した。

ただし、「仁方が事前に報告せずに判断を下したのは、やや専断が過ぎる」とし、杖刑二十回の軽処分に変更し赦免した。


2. 書き下し文

貞観七年、蜀王妃の父・楊譽、婢と争う。
都官郎中・薛仁方、身を留めて取り調べ、決断を保留する。

楊譽の子、千牛に任じられた者、宮中で訴えて曰く、
「五品以上は反罪に非ざれば、身を留むべからず。
今や国親なれば、特別の扱いをし、事を決せず、数月を淹留す。」

太宗これを聞きて怒りて曰く、
「朕の親戚と知りて、斯くのごとく艱難す」と。

直ちに薛仁方に杖百を加え、官を罷む。

魏徴進みて奏して曰く:

「狐・社鼠もなお祠に依りて除き難し。況んや貴戚をや。
漢・晋より以後、禁じ難きはこれが故なり。仁方、法を守るのみ。
枉(ま)げて罰を加えれば、外戚に阿(おもね)る風起こらん。
後悔必至。陛下のみぞ断つこと能(あた)う。未だ乱れざるうちにこそ、堤防を守るべし。」

太宗曰く:

「公の言のごとし。先だって思慮を欠いた。
されど、仁方が報告もせず専断したのは行き過ぎ。
重罪には当たらぬが、少し懲らすべし。」

よって杖二十に減刑し、赦免する。


3. 現代語訳(まとめ)

蜀王妃の父・楊譽が争いを起こし、それを取り調べていた役人・薛仁方が処分を保留しているうちに、楊譽の息子が宮中で不満を訴え出た。

太宗は「自分の親戚を甘やかすようなことは断じて許さぬ」と怒り、仁方に厳罰を科したが、魏徴は「それでは公平に法を執行しようとする者がいなくなる」と諫言した。

太宗はその忠言を受け入れ、仁方への処罰を軽減した。


4. 用語解説

  • 蜀王妃:太宗の子の妃(皇族にあたる)。
  • 千牛(せんぎゅう):近衛兵などの親衛的な役職。
  • 都官郎中:刑罰・法律関連を扱う官職。
  • 杖刑(じょうけい):棒で打つ懲罰。
  • 狐社鼠(こしゃそ):神社などに住みついた動物で、神の加護によって駆除しにくいものの象徴。
  • 阿(おもね)る:権力者にへつらい、正しい判断を曲げること。
  • 備豫不虞(びよふぐ):起こるかもしれないことに備えて予防する。

5. 解釈と現代的意義

この逸話は、「身内や権力者への特別扱いを戒め、法の公平性を貫く姿勢」の重要性を説いています。

  • 魏徴は、「特権者でも例外を許せば、やがて全てが崩れる」という国家運営の根本を訴えました。
  • 太宗は一度は怒りに任せて行動しましたが、意見を素直に受け入れて訂正したことで、制度と信頼の維持に成功しました。

6. ビジネスにおける解釈と適用

✅「社長の身内だから」「古株だから」を理由に特別扱いしてはいけない

企業においても、身内や古参社員を特別扱いすると、不満・不公平・内部崩壊を引き起こす。

✅ 「制度」と「人情」のバランスでは、制度を優先すべき局面がある

たとえ人情に厚くあっても、「公的な制度の信頼」が揺らげば、組織全体に悪影響を及ぼす。

✅ 「職務を果たした者」に責任を負わせてはいけない

薛仁方のように職務を果たした者を処罰すれば、「誰も責任を取りたがらない」組織風土が生まれる。

✅ リーダーには「忠告を聞き入れ、すぐに修正する柔軟性」が必要

太宗のように、後からでも良い意見を取り入れ、素早く対処できる姿勢は、信頼されるリーダーの資質である。


7. ビジネス用心得タイトル:

「身内にも公正を──制度を守ることが、信頼を築く礎」



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