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親不孝の最大は「子を残さぬこと」――血の断絶は家の断絶

孟子は「不孝」について、非常に明確な基準を打ち立てている。

「不孝には三つの大きなものがある。その中でも最も大きな不孝は、跡継ぎを残さないことである」

これは儒教の根本思想である**「孝=親を敬い、家を守ること」**に根ざす考え方であり、
単に親の生存中の行いだけでなく、家系・祖先の継続への責任が含まれている。


◆ 舜の行動に見える「究極の孝」

孟子はここで、古代の聖王・**舜(しゅん)**の行動を引き合いに出す。

舜は、親に告げずに妻を迎えた
それは、「子を残す」ためにやむを得ない行為だった

舜の父母は舜を深く憎み、命すら狙ったとされており、
結婚を申し出ても到底認められることはなかったと考えられる。

しかし孟子は、舜のこの決断についてこう述べる:

「君子は、これは告げたも同然の行為であると考える」

つまり、舜の動機と結果が、
「家を絶やさぬ」という孝の最大目的にかなっていたため、形式を超えて肯定されるべきだという判断である。


目次

原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)曰(いわ)く:

不孝(ふこう)に三(みっ)つ有(あ)り。
後(あと)無(な)きを大(だい)なりと為(な)す。

舜(しゅん)の告(つ)げずして娶(めと)るは、
後無きを為すが故(ゆえ)なり。

君子(くんし)は、以(もっ)て猶(なお)告ぐるがごとしと為す。


注釈

  • 不孝に三有り:親不孝にも段階や種類があるという儒教的視点。「三つ」の詳細は明示されていないが、跡継ぎがないことが最大とされる。
  • 後無き(あとなき):子ども、特に家系・祖先祭祀を継ぐ男子がいないこと。儒教では家の断絶を意味する深刻な不孝。
  • :堯(ぎょう)に見出された聖王。親からの迫害を受けながらも仁をもって仕えた。
  • 君子は~と為す:道理をわきまえた立派な人物(君子)は、この行為を形式を超えて理解する、という意。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • no-heir-biggest-unfilial-act(跡継ぎなきは最大の不孝)
  • continuity-is-filial-piety(家を継ぐことが孝)
  • shun’s-silent-marriage(舜の無言の結婚)
  • duty-to-ancestors-trumps-formality(祖先への義務は形式に勝る)

◆ 松陰の異議と現代的視点

吉田松陰はこの孟子の考えに対し、痛烈に批判している。

  • 「自分は日本を良くするために命を捨てる覚悟で生きている。結婚や子どもを持つことでその覚悟が鈍る」
  • 「国家全体が家族であり、跡継ぎを兄弟や国民に広く見出すことができる」
  • 「舜の行為も、それを弁護する孟子も、聖人に“阿(おもね)る”ものだ」

これは、忠と孝、個人と国家、義と情のバランスという儒教の矛盾への鋭い反論であり、
同時に現代においても響く問いである。


この章は、「孝」という価値観が、家族単位の継続と責任に深く結びついていたこと、
そして孟子がそれをどれほど重く見ていたかをよく示しています。

同時に、「形式より本質を問う」孟子の柔軟さも垣間見え、
儒教の硬直性を越えて、人間の現実と道徳の両立を模索していたことがわかる章でもあります。

原文

孟子曰、「不孝有三、無後爲大。舜不告而娶、爲無後也。君子以爲猶告也。」


書き下し文

孟子曰く、
「不孝に三(み)有り。後(あと)無きを大と為す。舜(しゅん)の告げずして娶る(めとる)は、後無きが為なり。君子は以て猶(なお)告ぐるがごとしと為す。」


現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 孟子は言った:
  • 「不孝には三つの形がある。その中で、子孫が残らないこと(=無後)を最も大きな不孝とする。」
  • 「舜が両親に知らせずに結婚したのは、子を残さないままでは最大の不孝になると考えたからである。」
  • 「君子は、彼の行為を“告げなかったとはいえ、告げたに等しい”と評価する。」

用語解説

用語意味・背景
不孝親への道を欠く行為。孟子では三つあるとされるが、この章では「無後(子孫を残さない)」が最大とされる。
無後(むこう)子孫がいないこと。家を継ぐ者がいないことを指し、古代では祖先祭祀の断絶に直結する重大な問題。
舜(しゅん)堯のあとを継いで帝となった古代の聖王。徳の高い人物とされる。
娶る(めとる)妻を迎える。結婚する。
猶告也(なおつぐるがごとし)実際に告げてはいないが、その真意・配慮から見て「告げたと同様にみなす」こと。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子は言った:

「不孝には三つの形があるが、なかでも最も重大なのは、子孫を残さないことである。
舜は両親に知らせずに結婚したが、それは“子がない”という不孝を避けるためであり、君子はそれを“実際に知らせたに等しい行動”として評価する。」


解釈と現代的意義

この章句は、「親孝行の本質は形式よりも目的と意志にある」という孟子の立場を示します。

  • 形式的な手続き(告知)よりも、実質的な意義(子孫を残す)が重要だという価値観。
  • 舜は両親が反対することを恐れ、あえて告げずに結婚したが、それは不孝を避けるための行動だった。
  • 孟子は、「孝とは何か?」を深く掘り下げ、「真に親を思いやる行動」を重視する。

ビジネスにおける解釈と適用

●「形式よりも本質を重んじよ」

  • 規則や手順を守ることは大切だが、それが目的化しては本末転倒。
  • 企業でも、「報告・連絡・相談」が形骸化し、本質的な問題解決やリスク回避がなおざりになる場合がある。
  • 舜のように、“目的を果たすための最善策”を考えることが真のプロフェッショナリズム。

●「評価は“意図”と“配慮”にあり」

  • チームにおいても、「やるべきことをやったか」だけでなく、「なぜそうしたか」によって評価すべき。
  • 真のリーダーは、行動の背景にある“志”や“全体最適の視点”を理解する。

ビジネス用心得タイトル

「形式よりも志、親孝行に見る“本質を見抜く力”」


孟子のこの章句は、行動の本質と目的の重視を強く訴えています。
現代の組織や社会においても、「何をしたか」だけでなく、「なぜそれをしたか」を見極める眼が、真の判断力につながるでしょう。

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