最も不吉なのは、賢者を隠すことである
孟子は、世間に多くある「不吉な言葉」について、それが本当に災いをもたらすものではないと語る。
人は言葉尻に敏感になり、「縁起が悪い」と言って忌避するが、そうした表現の多くは迷信にすぎない。
しかし、**真に不吉な実体(=不祥の実)**があるとすれば、それは――
「賢者を蔽(おお)う者」=有能な人物の登用を妨げる存在や仕組みであると孟子は断言する。
これは、賢者を嫉妬し、疎み、あるいは権力の維持のために隠し排除する行為であり、
そのような環境こそが、国家や組織における最大の不運・不幸・不祥であるというのが孟子の主張である。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
言(げん)に実(じつ)の不祥(ふしょう)無し。
不祥(ふしょう)の実(じつ)は、賢(けん)を蔽(おお)う者(もの)之(これ)に当(あ)たる。
注釈
- 不祥(ふしょう):縁起が悪いこと。社会や運命にとっての「不吉」。
- 言に実の不祥無し:言葉そのものに不吉な力はない(迷信を否定している)。
- 賢を蔽う者:有能な人物を妨害したり、評価を認めず登用を妨げたりする者。
※吉田松陰は、「自ら高位にいながら、下に賢者がいると知りつつ登用しない者」のことだと解釈。 - 関連語句:『論語』子路第十三
「賢才を挙げよ。…爾の知る所を挙げよ」
⇒ 賢者を知らなければ仕方ないが、知っていて挙げないのは怠慢であるという教え。
心得の要点
- 真に不吉なのは、言葉や兆候ではなく、有能な人を登用しないこと。
- 嫉妬や保身のために賢者を排除することは、社会にとって最大の損失。
- 組織や国を発展させるには、「見つける目」と「登用する勇気」が必要。
- リーダーは、賢者を妨げる空気や仕組みにこそ敏感であるべきである。
パーマリンク案(スラッグ)
- no-greater-ill-than-hiding-the-wise(賢者を隠す以上の災いなし)
- real-bad-omen-is-ignored-talent(真の不吉は才能の無視)
- promote-the-wise-or-perish(賢者を挙げよ、さもなくば滅びよ)
この章は、現代社会においても、「人材登用の正義」や「抜擢と嫉妬の葛藤」に直結するテーマであり、組織にとっての最も根源的な健全性を問うています。
原文:
孟子曰:
言無實不祥、不祥之實、蔽賢者當之。
書き下し文:
孟子(もうし)曰(いわ)く、
言(げん)に実(じつ)無くしては不祥(ふしょう)なり。
不祥の実(じつ)は、賢(けん)を蔽(おお)う者、之(これ)に当(あ)たる。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「言に実無くしては不祥なり」
→ 内容のともなわない言葉は、不吉であり、災いを招く。 - 「不祥の実は、賢を蔽う者、之に当たる」
→ そして、そうした不吉の本質とは、賢者の言葉や徳を覆い隠してしまうものである。
用語解説:
- 言(げん)に実(じつ)無し:内容のない言葉。空虚な発言や飾り立てた修辞ばかりの言。
- 不祥(ふしょう):不吉、禍をもたらすもの。
- 不祥の実(じつ):本当の意味での“悪しき実態”、つまり本質的な災い。
- 蔽う(おおう):覆い隠す、さえぎる。
- 賢者を蔽う者:優れた人物の意見や才能、存在をかき消すもの。
全体の現代語訳(まとめ):
孟子はこう言った:
「内容のない言葉は不吉である。
その不吉さの本質は、優れた人物の存在や意見を覆い隠し、見えなくしてしまうことにある。」
解釈と現代的意義:
この章句は、孟子が**「空虚な言葉の害悪」と「賢者を隠す社会の危険」**について述べた非常に鋭い警句です。
表面的な言葉――見栄えのよい演説やスローガン、綺麗な言い回しなどに中身が伴っていなければ、
それは単に無意味なだけでなく、むしろ「賢者の声を覆い隠す」という“実害”をもたらすと孟子は強く警告しています。
これは現代においても、本当に価値ある意見が“騒がしい空虚な発言”に埋もれてしまうリスクとつながっています。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「内容なき発言が、真の才能をかき消す」
会議やプレゼンで、中身のない“もっともらしい”発言ばかりが場を支配すると、
真に有意義なアイデアや慎重な意見が埋もれてしまう。 - 「“賢者の声”が聞こえる環境を整えることが、組織の健全性を守る」
発言力や声の大きさよりも、“実のある声”が尊重される文化をつくることが必要。 - 「飾られた言葉より、“本音と誠実”が信頼を生む」
マーケティングやリーダーのメッセージも同じで、中身のないスローガンやアピールは信頼を損なうリスクをはらむ。
ビジネス用心得タイトル:
「言葉に実がなければ、人を覆う障壁となる──賢者の声を埋もれさせるな」
この章句は、組織文化の健全性・発言の質の評価・リーダーシップの言語化において非常に有効な原則です。
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