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小国は奪えても、天下の心までは奪えない

孟子は、仁を欠いた者でも、一時的に一国を支配することはありうると認めつつ、中国全土=天下を治めた例はないと断言する。
それはつまり、不仁の者は一時の権勢を握ることはできても、永続的な天下の信任を得ることは決してできないということを意味している。

「国」は領土や軍事力によって制圧できても、「天下」は民心・道義・天意によって支えられるもの。
孟子はここで、支配の正当性は力ではなく「仁」に基づくべきだという自らの核心思想を強く打ち出している。

そしてこの思想は、単に古代の王権論にとどまらず、現代におけるリーダーシップや組織運営にも通じる普遍的な原理を示している。
他者に信頼され、共感される徳のある行いこそが、大きなものを束ねる力になるのだ。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)曰(いわ)く、不仁(ふじん)にして国(くに)を得(え)る者(もの)は、之(これ)有(あ)らん。不仁(ふじん)にして天下(てんか)を得(え)るは、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり」


注釈

  • 不仁(ふじん)…人の情や道徳を欠いた状態。冷酷さ・利己心の象徴。
  • 国(くに)…一つの領地・諸侯の統治範囲。戦略・武力でも奪い得る範囲。
  • 天下(てんか)…全中国、または「天下万民」の信任を受ける統治。道義に基づく支配。
  • 未之有也(いまだこれあらざるなり)…今に至るまでそのような例は存在しない、という強い断言。
目次

1. 原文

孟子曰、不仁而得國者、有之矣。
不仁而得天下、未之有也。


2. 書き下し文

孟子(もうし)曰(いわ)く、不仁(ふじん)にして国(くに)を得(え)る者は、之(これ)有(あ)らん。
不仁にして天下(てんか)を得るは、未(いま)だ之れ有(あ)らざるなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 不仁而得國者、有之矣。
     → 仁のない者でも、一国を手に入れることは時にある。
  • 不仁而得天下、未之有也。
     → しかし、仁のない者が天下全体を治めることは、いまだかつて一度もない。

4. 用語解説

  • 不仁(ふじん):仁徳がないこと。思いやりや人間愛に欠け、道義に反すること。
  • 得國(こくをう):一国の支配権を得ること。領地や政権を掌握する。
  • 得天下(てんかをう):天下=全土、あるいは全人民の心を掌握すること。名実ともに正当な王者となることを意味する。
  • 未之有也(いまだこれあらざるなり):これまでに一度も存在しなかったという強い否定。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

「仁徳のない者が一国を手に入れることはある。しかし、仁のない者が天下を支配した例は、歴史上ただの一度もない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、政治や権力は一時的に奪えても、長期的な支配・正統性は“仁”によってしか成り立たないという孟子の核心思想を表しています。

孟子はここで、「力・策略・恐怖」によって一国を取ることは可能だと認めています。
しかしそれは**“天下”すなわち民心と正統性の支持**を得た状態ではなく、持続しないと断言します。

つまり、真に広く安定した統治・リーダーシップは、“徳”によって初めて成立するのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

「短期的な成功は“力”で掴める、だが長期的信頼は“徳”による」

  • 強引な営業・権限の乱用・強権的人事などで一時的に「成果=国」を得ることは可能。
  • しかし、**社員の信頼・市場の尊敬・社会的評価(=天下)**は“仁”=誠実さと信義によってしか得られない。

「会社は買えても、文化と信頼は買えない」

  • 企業買収・トップ交代などで組織を手中に収めることはできても、社員の共感・顧客の支持が得られなければ、それは空洞である。

「“支配”ではなく、“共感”が継続的リーダーの条件」

  • 「どうやって得たか」より「どう人々の心をつかんだか」が、永続的な組織運営の鍵。
  • 信頼・共感・理念への共鳴=仁があってこそ、真の“天下”が得られる。

8. ビジネス用心得タイトル

「奪えるのは地位、得られるのは人心──“仁なくして天下なし”」


この章句は、単なる権力や成果の取得ではなく、「正義と共感に基づく支配こそが持続可能である」という、現代の組織経営にも通じる根本原理を語っています。

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