MENU

欲を離れ、琴と書に囲まれて心は仙境へ至る

心に物欲がなくなれば、そこはもう天高く晴れ渡った秋空や、雨のあとの静かな海のように澄みきっている。
何かを手に入れよう、誰かに勝とう――そんな思いが消えたとき、心には一切の濁りがなくなり、深い静けさが訪れる。
もし、そのそばに一張の琴と一冊の書があれば、そこはすでに仙人の棲む理想郷。
仙境とは、遠い山奥や神秘の地にあるのではない。
心に澄んだ風が吹くとき、私たちは日常のなかに静かな石室(せきしつ)と丹丘(たんきゅう)――つまり心の楽園を見出すことができる。


引用(ふりがな付き)

心(こころ)に物欲(ぶつよく)無(な)ければ、即(すなわ)ち是(これ)れ秋空(しゅうくう)霽海(せいかい)なり。
座(ざ)に琴書(きんしょ)有(あ)れば、便(すなわ)ち石室(せきしつ)丹丘(たんきゅう)を成(な)す。


注釈

  • 物欲無ければ:何かを所有したい、他人より優れていたいという思いから解放された状態。
  • 秋空霽海(しゅうくうせいかい):高く晴れた秋空や、雨上がりの澄みきった海。静謐と透明さの象徴。
  • 琴書(きんしょ):琴は音楽、書は文学や精神的な学びの象徴。静かな悦びの代表。
  • 石室(せきしつ):仙人が住むとされる岩屋・洞窟。俗世を離れた聖域。
  • 丹丘(たんきゅう):仙人の住まう理想郷。現世から切り離された浄土のような空間。

関連思想と補足

  • 『菜根譚』の多くの章に通じる「欲を捨てることで得られる心の豊かさ」を象徴する一節。
  • 東洋思想における「仙境」「無為自然」は、逃避ではなく、内なる静けさによって現れる豊かさを指す。
  • 琴と書という表現は、精神的充足と静かな趣味の象徴であり、現代でいえば音楽や読書などに置き換えてもよい。
目次

原文:

心無物欲、即是秋霽海。
座有琴書、便是石室丹丘。


書き下し文:

心に物欲無ければ、即ち是れ秋の霽(は)れたる海なり。
座に琴書有れば、すなわち石室・丹丘を成す。


現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「心に物欲無ければ、即ち是れ秋の霽れたる海なり」
     → 心に物への欲望がなければ、その心はまるで秋晴れの日の静かな海のように澄み渡っている。
  • 「座に琴書有れば、すなわち石室・丹丘を成す」
     → 座して琴と書(音楽と読書)があれば、そこはすでに隠者の住む石の庵や仙人の棲む丹丘に等しい。

用語解説:

  • 物欲(ぶつよく):金品・名誉・地位など、外界のものに対する執着。
  • 秋霽海(しゅうせいかい):秋の雨が上がった後の澄んだ海。清らかで静か、穏やかな心象風景の比喩。
  • 琴書(きんしょ):琴=音楽、書=読書。心を高め、内面を磨く教養の象徴。
  • 石室(せきしつ):岩屋、隠者が住む静かな庵。
  • 丹丘(たんきゅう):仙人が住むとされた理想郷の山。超俗・脱俗の境地の象徴。

全体の現代語訳(まとめ):

もし心に物欲がなければ、その心は秋晴れの日の澄んだ海のように静かで清らかになる。
また、座して琴を奏でたり書を読むことができれば、たとえそこがどんな場所でも、それは仙人の住む山のような、理想的な境地と変わらない。


解釈と現代的意義:

この章句は、**「心の状態が世界を変える。内面の充足があれば、外部の条件に左右されない」**という、極めて東洋的な価値観を説いています。

1. 「物を持たぬことで得られる自由」

  • 欲望がなければ、心は自然のように穏やかになる。
  • 特に「秋霽海」は、晴れ渡った静かな海。無欲の心は、そんな自然の景観と一致するほどに美しい。

2. 「静かな暮らしの中の充足」

  • 華やかな環境や贅沢がなくても、琴(音楽)と書(書物)があれば、人生は豊かである。
  • この「石室・丹丘」は、外の世界から離れていても、心が満たされていることの象徴。

3. 「内面が整えば、どこでも“理想郷”」

  • 心が澄んでいて、趣味や学びの時間があれば、それがどんな狭い部屋でも精神的には桃源郷となる。
  • 自分の内側に世界の質が依存しているという思想。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「無欲のリーダー」が信頼を集める

  • 出世欲・名声欲に縛られないリーダーは、判断がブレず、部下に安心感を与える。
    → 無欲=弱さではなく、“信念に基づいた強さ”

2. “心の静けさ”が創造と集中を生む

  • 外部刺激に反応せず、自分の内なる静けさを保つ人ほど、深く、創造的な仕事ができる。
    → 「秋霽海のような心」が最高のワークスペースをつくる。

3. 「環境」より「姿勢」

  • 高価な設備や豪華なオフィスよりも、音楽や読書など“自分の精神を整える要素”を持っている社員・経営者の方が、長く活躍できる。
    → 「自分の石室・丹丘」を持つ人材が組織の知的柱になる。

ビジネス用心得タイトル:

「心を澄ませば、そこが理想郷──“無欲の静けさ”が仕事と人生を輝かせる」


この章句は、“何を持っているか”よりも、“どんな心で在るか”が豊かさを決めるという、現代社会において見失われがちな原点を教えてくれます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次