孔子は、人間の本質は大きく分けて三つに分かれると説いた。
生まれつき真理を知る「上知」、努力によって道を知ろうとする大多数、そして学びを拒む「下愚」である。
人は学びを通じて変わることができる。
だが、もともと悟っている者(上知)と、何があっても学ぼうとしない者(下愚)だけは、変わることがない。
変化の可能性は「意志ある学び」によってのみ開かれるのだ。
子(し)曰(い)わく、唯(ただ)だ上知(じょうち)と下愚(かぐ)とは移(うつ)らず。
現代語訳:
生まれながらに道を知っている聖人と、どれだけ困っても学ぼうとしない愚か者だけは、変わることがない。
注釈:
- 上知(じょうち):生まれながらにして道理をわきまえた聖人。ごく稀な存在。
- 下愚(かぐ):困難に直面しても学ぼうとしない者。学びを拒み、成長を止めた人。
- 移らず(うつらず):変わらない、変化しないという意味。学ぶ意志の有無が変化の鍵であることを示す。
原文:
子曰、唯上知與下愚不移。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、唯(ただ)上知(じょうち)と下愚(かぐ)とは移(うつ)らず。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「唯だ上知と下愚とは移らず」
→ 孔子は言った。「ただし、非常に賢い者と、極端に愚かな者だけは変わることがない。」
用語解説:
- 唯(ただ)…のみ:例外を示す限定詞。
- 上知(じょうち):生まれつき非常に賢く、何も教えなくても真理を理解するような聖人に近い存在。
- 下愚(かぐ):まったく学ぶ意欲や理解力がなく、何を言っても変わらないほど愚かな人。
- 移る(うつる):変化する、心や考え方が改まること。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「人は学びによって成長・変化できる。しかし、生まれつき非常に賢い人と、生まれつき極端に愚かな人だけは、変わることがない。」
解釈と現代的意義:
この一節は、「人は変わることができる」という前提に立ちつつ、例外的な存在の限界と達成を明言しています。
- 上知者はすでに完成されているので、もはや「変わる必要がない」。
- 下愚者は、何をしても変わらない=教えや導きを受け入れないため、「変わることができない」。
- 逆にいえば、ほとんどの人間は「その中間」であり、学びや経験によって変われるという前提が含まれています。
ビジネスにおける解釈と適用:
「人は変われる──ただし、極端な例外を除いて」
- ごく一部の天才は放っておいても成果を出す。ごく一部の無気力な人材は何をしても変わらない。
- だが、大多数の社員は「中間層」であり、正しい支援や動機づけで成長できる。
「教育・育成の対象は“変われる人”」
- 教えるべきは「教えることによって変われる人」であり、育成の対象もそこに集中すべき。
- リーダーは“誰にリソースを投下すべきか”を見極める眼も必要。
「成果主義だけでなく、“変化率”も見る」
- 今いる場所からどれだけ成長したか──それこそが評価すべき真の価値。
- 上知者の完成度、下愚者の限界よりも、“中庸の人がどれだけ伸びたか”に注目すべき。
ビジネス用心得タイトル:
「変われる者に力を注げ──“中間層の成長”が組織を動かす」
この章句は、「教育・変化可能性」と「対象の見極め」について鋭く示しています。人材育成の優先順位や、成長を引き出すリーダーシップにも直結するテーマです。
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