―『貞観政要』巻三より
🧭 心得
上下の秩序と忠義は、社会の安定を支える根幹である。
太宗は、奴婢が主人を謀反で告発した事例を取り上げ、「このような風潮は忠義を壊すものであり、社会秩序を根本から揺るがす」として厳しく戒めた。
仮に謀反が事実であったとしても、それは多くの者と共謀せねばならず、他からも自然と露見するものである。したがって、下の者が上を告発することを容認する必要はなく、むしろ上下の倫理を保つために、そのような告発は受理せず、厳罰に処すべきだと命じた。
太宗の判断は、単なる法的処置を超えて、社会秩序の維持に重きを置いた国家倫理の表明である。
🏛 出典と原文
貞觀二年、太宗(たいそう)、侍臣(じしん)に謂(い)いて曰(いわ)く、
「比(このごろ)、奴(ぬ)あるいは主(しゅ)を謀反(むほん)にて告(こく)ずる者有(あ)り。此(こ)れ極(きわ)めて非法(ひほう)なり。特(とく)に須(すべか)らく禁斷(きんだん)すべし。
仮(たと)い謀反者(むほんしゃ)有(あ)りとせんも、必(かなら)ず独(ひと)りにては為(な)さず、将(まさ)に人と計(はか)りて之(これ)を謀(はか)るべし。衆(しゅう)もて計(はか)る事(こと)は、必ず他人(たにん)これを論(ろん)ずるあらん。豈(あに)奴(ぬ)を藉(か)りて頼(たの)むべけんや。
自今(じこん)より以後(いご)、奴(ぬ)にして主(しゅ)を告(こく)ぐる者は、受(う)くるに須(およ)ばず、尽(ことごと)く斬決(ざんけつ)せしめよ」。
🗣 現代語訳(要約)
貞観二年、太宗は、奴婢が主人を謀反で告発する行為は道義に反するものとして厳禁し、以後はそのような告発を一切受理せず、厳罰に処すと命じた。謀反は他の者とも共謀するものであり、自然に発覚するため、奴婢の告発に頼る必要はないと述べた。
📘 注釈
- 奴婢(ぬひ):奴隷・召使い。主従関係の「下」にあたる者。
- 謀反(むほん):主君や政府に反逆する行為。
- 斬決(ざんけつ):斬首刑。最も重い刑罰の一つ。
- 禁斷(きんだん):厳重に禁止すること。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
no-accusation-from-servants
(主スラッグ)- 補足案:
loyalty-over-suspicion
/no-treason-through-treachery
/order-over-accusation
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