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新事業は社長以外の誰の役割りでもない

H社は業界トップのシェアを持つ優良企業だ。社長のH氏は、自身の時間の大半を顧客のもとで過ごしている。会社にいる時間は少ないが、その姿が見られるのは決まって開発室だ。顧客の声を直接聞き、それを開発室で形にする。この往復こそが、H社の新商品がヒットを続ける最大の理由だ。自ら得た顧客の要望を開発現場に持ち込み、具体的な形へと落とし込んでいく。この徹底した姿勢が、H社を業界ナンバーワンの座に押し上げる鍵となっている。

0社の社長室は、訪れるたびに新商品や試作品であふれ返っており、もはや社長室らしい体裁はない。むしろ開発室そのものだ。0社を訪問すると、社長はまず新商品や試作品を取り出して説明を始める。その情熱と熱意には圧倒されるばかりだ。

ファッション商品である以上、新商品の機能とデザインは極めて重要な要素だ。機能面は実験や試用を重ねれば結論が出るが、デザインは一筋縄ではいかない。社長と開発部長との間で激しい議論が繰り広げられるのは日常茶飯事だ。もっとも、その勝敗は開発部長に軍配が上がることが多い。若い開発部長に押し切られる社長の姿を見ていると、つい微笑ましくなってしまう。ファッションのセンスに関しては、やはり若い開発部長のほうが一枚上手だと感じるからだ。

F社の開発室は、社内で最も贅沢にスペースを使っている。広さはおそらく200平方メートルほどあり、その半分を製図台が占め、もう半分が試作室となっている。F社を訪れると、社長自らが開発室へ案内し、試作中の商品について細部に至るまで丁寧に説明してくれる。その情熱と自信が、F社のものづくりへのこだわりを物語っている。

その説明を聞いていると、試作中の商品のアイデアが社長自身の発想によるものであることがはっきりと伝わってくる。その発想は、単なる思いつきではなく、常に実験結果に裏打ちされているように感じられる。商品の性能や実用性に一切の妥協を許さない社長の姿勢が、そこに明確に表れている。他では真似できないF社の商品品質と性能は、まさにこの社長のこだわりと情熱によって築き上げられているのだ。

T社長が会社に顔を出すのは土曜日だけだ。月曜日から金曜日まではひたすら顧客を訪問し、彼らの声に耳を傾けている。T社長自身の言葉によれば、「新商品のアイデアに悩んだことなど一度もない。お客様のところへ行き、要求や不満を聞くだけで、新しい商品企画なんていくらでも浮かんでくる」とのことだ。その姿勢が、T社の革新的な商品を次々と生み出す原動力になっているのだろう。

開発された新商品は、慎重なモニターテストを経て発表の準備が整う。そして発表が決まると、T社長自らその商品を持参し、顧客のもとで直接説明を行う。その情熱と真剣さに触れると、顧客のほうがT社長に惚れ込んでしまう。T社の商品が市場で高い評価を受ける理由は、こうした徹底した姿勢にあるのだろう。

新商品や新事業の成否は、企業の将来を左右する重大な要素だ。社長の本来の役割は、企業の未来を切り開くことにある。したがって、社長自らが新事業に取り組み、その総指揮を執るのは当然のことだ。企業の運命を担うリーダーとして、最前線に立つ姿勢が求められるのは言うまでもない。

新事業開発の本当の難しさは、社内の問題ではなくマーケットにある。市場と顧客の要求を正確に見極めることこそ、最も重要な課題だ。だからこそ、社長自らが顧客のもとへ足を運び、現場で直接その声を聞き、変化を肌で感じる必要がある。そして、その情報を基に、自社が顧客の要求にどう応えるべきかを判断する。この姿勢が、新事業の成功を左右する鍵となるのだ。

顧客の要求に耳を傾けず、自社だけの「ひとりよがり」で新商品や新事業を企画するのは、致命的な誤りだ。同様に、自らの意図や方針を示さず、開発担当者に全てを任せきりにするような態度も、社長として避けるべき最たるものだ。リーダーとしての責任は、顧客の声を基に明確な方向性を打ち出し、チームを導くことにある。その基本を怠れば、成功の道は遠のくばかりだ。

企業の最高責任者たる社長は、顧客の要求を的確に捉え、それに基づいて自らの意思で新商品や新事業の開発を決定しなければならない。この責任は他の誰にも委ねることはできない。社長自身がその覚悟を持ち、企業の未来を切り拓く決断を下すべきである。これを肝に銘じることが、リーダーとしての本分と言える。

このテキストから、企業の新事業開発において、社長が果たすべき重要な役割と責任が明確に述べられています。以下、要点をまとめます。

1. 新事業開発は企業の未来を決める

  • 新事業の重要性: 企業の将来の収益を確保するものは現行の事業ではなく、未来に向けた新商品や新事業にあります。そのため、新事業の開発は企業にとって最も優先すべき事項とされています。

2. 社長自らの指揮が不可欠

  • マーケットと顧客の要求を理解する: 新事業の成功には、顧客の要求や市場の変化を的確に見極めることが不可欠です。これを実現するために、社長自らが顧客の声に耳を傾け、現場の状況を把握することが強調されています。
  • 開発担当者への丸投げは禁物: 社長が直接指揮を執り、意図や方針を明確に伝えることが必要です。社長が現場の状況を知らずに指示を出すと、新商品開発は「ひとりよがり」になり、失敗につながる可能性が高まります。

3. 成功するための戦略と分離

  • 市場戦略と蛇口作戦: 新商品や新事業は市場の要求に応じて作られるべきであり、マーケットに根ざした戦略(例えば蛇口作戦)が必須です。これによって、少しずつ顧客の関心を引き、浸透を図ります。
  • 現事業との分離: 新事業は現行事業と分離する必要があります。現行事業に新事業が押しつぶされることを防ぎ、独自に成功を目指すためです。

4. 盲点や陥し穴への注意

  • 新事業にはリスクが伴う: 新事業には予期せぬ課題が潜んでいます。成功への道筋には複数のリスクが存在するため、それを乗り越えるための計画と覚悟が必要です。

まとめ

企業にとって新事業の開発と推進は、他の誰でもなく社長が担うべき重要な役割です。社長は、顧客の要求を直接聞き、社内にそのビジョンを反映させることで、新商品や新事業が企業の未来を支える柱となるよう、主導する責任を果たす必要があります。

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