孔子は、自らの学びと教えについて誇ることなく、静かに語った。
「私は多くを語らずともよく覚え、学ぶことに飽きることはなく、人に教えることにも倦(う)まない。それがせいぜい自分の取り柄だ」と。
知識を求める姿勢と、それを人に分かち与える心。その両方をあきずに続けられることが、何よりの美徳であると孔子は示した。
原文・ふりがな付き引用
子(し)曰(い)わく、黙(もく)して之(これ)を識(し)し、学(まな)びて厭(いと)わず、人(ひと)を誨(おし)えて倦(う)まず。我(われ)に於(お)いて何(なに)か有(あ)らんや。
注釈
- 黙して之を識す … 多くを語らずとも物事を深く理解・記憶する姿勢。
- 学びて厭わず … 知ることへの探究心を持ち続け、学ぶことに飽きない。
- 誨人不倦(かいいんふけん) … 人に教えることに倦まず、常に熱心に導く態度。
- 我に於いて何か有らんや … これは私の取り柄といえる程度のことです、と控えめに語る孔子の謙遜。
1. 原文
子曰、默而識之、學而不厭、誨人不倦、何有於我哉。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、黙(もく)して之(これ)を識(し)り、学(まな)びて厭(いと)わず、人(ひと)を誨(おし)えて倦(う)まず。我(われ)に於(お)いて何(なに)か有(あ)らんや。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「子曰く、黙して之を識り」
→ 孔子は言った。「黙してよく記憶し理解する。」 - 「学びて厭わず」
→ 「学ぶことを嫌がらず、飽きることがない。」 - 「人を誨えて倦まず」
→ 「人に教えることにも、疲れたり嫌になったりしない。」 - 「我に於いて何か有らんや」
→ 「このような私に、いったい欠けているものなどあるだろうか。」
4. 用語解説
- 黙して(もくして):口を出さず静かに。多弁ではなく、内省や思索の態度。
- 識(し)る:記憶する、理解する、心にとどめる。
- 厭(いと)う:飽きる、嫌がる。意欲を失うこと。
- 誨(おし)える:教える。特に倫理や学問について導くこと。
- 倦(う)む:疲れる、嫌気がさす。
- 何有於我哉(われにおいてなにかあらんや):私にどんな欠点があるというのか(反語的表現)。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言いました:
「私は口数少なくして静かに物事を理解し、学ぶことを嫌がらず、人に教えることも決して飽きたりしない。このような私に、何の不足があるというのか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「学ぶ者」としての理想の姿勢を孔子自身が語った、自己省察と自己肯定の言葉です。
- 言葉よりも態度で示す沈黙の力
- 学び続けることの飽くなき情熱
- 他者への教育に対する愛と粘り強さ
これらは、学び手としても教える者としても、時代を超えて必要とされる資質です。
また、孔子が「自分には不足がない」と断言しているのは、自信ではなく**「学び続ける者としての心構えが整っている」という誇り**に近いものでしょう。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「沈黙して理解する」──観察力・傾聴力が本質を見抜く
おしゃべりや表面的な主張よりも、現場をよく見て黙して学ぶ態度が信頼を生む。
■「学びに飽きない」──成長し続けるリーダー
最新技術や業界知識、組織内の課題に対して常に学び、変化を拒まず成長を志向する。
■「教えることに疲れない」──育成のプロフェッショナリズム
部下の育成において、“同じことを何度も丁寧に説明できる姿勢”は、組織の文化を育む。
■「何が欠けているというのか」──学び続ける限り、私は常に十分
自信過剰ではなく、「謙虚な努力と行動を積み重ねている者には欠けるものはない」とする、セルフリーダーシップの表明。
8. ビジネス用心得タイトル
「黙して学び、倦まず教えよ──誠実な継続が信頼を築く」
この章句は、**“自己研鑽の継続と教育的使命”**において、現代のリーダー・管理職・人材育成担当者に大いに参考になる名言です。
コメント