孟子は、社会が安定していて道義が世の中に行き渡っているときには、自ら世に出て、その「道(正義・仁義)」を実践するべきだと説いた。しかし、もし天下が乱れ、道が行われていないような状況であれば、自ら身を引き、道を守りながら生きるべきであるとも語る。
つまり、状況によって「道を実践する」か「道を守る」かの形は変わっても、常に大切なのは“道”そのものであり、決して自分の道を他人に合わせて捨ててはならないということである。
「孟子曰く、天下道有れば、道を以て身に殉え、天下道無ければ、身を以て道に殉う。未だ道を以て人に殉う者を聞かざるなり」
「世の中に正義が行き渡っているときは、自ら進んでその道を行う。世が乱れ、道が行われていないときは、身を引いて道を守る。だが、自分の正しい道を、他人に合わせて犠牲にした者など、私は聞いたことがない」
孟子のこの教えは、たとえ権力や世間の風潮がどれほど強くても、それによって自分の「正しい信念」を曲げてはならないという、強い倫理的姿勢を示している。
※注:
- 「殉(じゅん)」…身を捧げる、従わせる。
- 「道」…仁義・礼智・誠など、儒教における正しい生き方の根本。
- 『論語』にも、「天下道あれば則ち見れ、道なければ則ち隠る」とあり、孟子の思想と一貫している。
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