目次
📖 引用原文
すべての者は暴力におびえている。すべての(生きもの)にとって生命が愛しい。
己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。
——『ダンマパダ(法句経)』第5章 第十九句
🧩 逐語訳
- すべての者は暴力におびえている。
この世のすべての存在は、危害や攻撃に対して本能的に恐れを抱いている。 - すべての(生きもの)にとって生命が愛しい。
どんな存在にとっても、命はかけがえのない、守るべきものと感じられている。 - 己が身にひきくらべて、
自分がそう感じるように、他者もまた同じであると想像してみなさい。 - 殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。
自分の手で命を奪ってはならないし、他人に命を奪わせてもいけない。
🔍 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
暴力 | 直接的な身体的攻撃に限らず、精神的な圧力・支配・脅しなども含まれる。 |
己が身にひきくらべて | 他者の苦痛や恐れを、自分に置き換えて理解する「想像力」=仏教における共感・慈悲の出発点。 |
殺す/殺さしめる | 直接的な加害だけでなく、間接的に命を脅かす行為(黙認・支持・命令)も含む。 |
🗣 全体の現代語訳(まとめ)
どんな生き物も、自分の命を守りたいと願い、暴力を恐れている。
それは、私たち自身がそうであるのと同じである。
だからこそ、「自分がされたくないこと」を他人にしてはならず、
命を奪うような行為は、自らの手でも、他人の手を通しても行ってはならない。
🧠 解釈と現代的意義
この句は、仏教の根幹倫理である「不殺生(ふせっしょう)」を明示するものです。
しかしそれは単に「殺してはならない」という表面的ルールではなく、
「他者もまた、自分と同じように命を愛している」という共感と気づきに基づいています。
現代においては、動物倫理、戦争、虐待、ハラスメント、差別、過労死といった問題にも応用される原理です。
また、「殺す」とは比喩的に、誰かの尊厳や人生の希望を踏みにじることにも広く解釈できます。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
パワーハラスメント | 他者の精神や尊厳を「殺す」行為。リーダーは言葉や態度に慎重でなければならない。 |
無慈悲な評価制度 | 数字至上主義や成果主義の暴力により、人が潰されていくような仕組みをつくらないことが大切。 |
環境・倫理経営 | 動物福祉・持続可能な社会の実現に向け、製品やサービスの背後にある「見えない暴力」を見つめ直すこと。 |
間接的加害の否定 | 自分が命じなくても、それを可能にする仕組みを支持することも「殺さしめる」にあたる。責任は共有される。 |
🧭 心得まとめ
「命あるものは、皆、恐れとともに生きている。
だからこそ、傷つけるな。奪うな。強い者こそ、慈しみ深くあれ」
この世に生まれたすべてのものは、自分の命を大切に思っている。
それを知るとき、私たちの行動は変わります。
怒りや欲望に任せて「殺す」だけでなく、
無関心や制度的な暴力によって「殺さしめる」ことの重さにも気づくようになります。
自己の恐れに気づく者は、他者の恐れを見過ごせない。
自己の命が愛しい者は、他者の命にも慈しみをもてる。
この句は、暴力の否定ではなく、慈悲の出発点を語っているのです。
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