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■引用原文(『中庸』第十章 冒頭)
凡事予則立、不予則廃、言前定則不艱、事前定則不困、行前定則不疚、道前定則不窮。
■逐語訳
- 凡そ事は予めすれば則ち立ち、予めせざれば則ち廃す。
── すべての事柄は、事前に備えがあれば成功し、備えがなければ失敗する。 - 言前に定まれば則ち艱(かた)からず、
── 発言はあらかじめ定まっていれば、言葉に詰まることはない。 - 事前に定まれば則ち困(くる)しまず、
── 事業は事前に準備ができていれば、行き詰まることがない。 - 行前に定まれば則ち疚(や)まず、
── 行動は前もって道筋が決まっていれば、後悔や心の痛みを抱えない。 - 道前に定まれば則ち窮せず。
── 生きる道そのものがあらかじめ確かであれば、いかなる困難にも行き詰まらない。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
予(あらかじめ) | 計画・準備・心構えを指す。思慮深い態度の象徴。 |
定(さだまる) | 判断・意思・計画が確立されている状態。 |
艱(かた)し | 困難になる、詰まる。言葉が出ず困ること。 |
困(くる)しむ | 計画不足により事業が困難になること。 |
疚(やむ) | 良心の呵責。後悔。心が病むこと。 |
窮(きわまる) | 行き詰まる。打つ手を失う状態。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
あらゆる物事は、事前にしっかりとした備えがあるかどうかで成否が決まる。
- 発言については、準備ができていれば論点に詰まることはない。
- 行う事業も、計画が整っていれば困難にも動じない。
- 行動は、迷いや後悔を残さないように、道筋を事前に明らかにしておくことが大事。
- そして、自らの進む「道(=人生・理念・志)」そのものが事前に深く定まっていれば、どのような試練があろうとも、決して挫折することはない。
■解釈と現代的意義
この章は、中庸という行動原理を実行するためには、慎重で綿密な事前の思慮が不可欠であるという姿勢を明示しています。
- 「中庸」は単なる中立ではなく、正しい方向性をもった判断と実践です。
- そのためには、やみくもに動くのではなく、「予(あらかじめ)」の力=先見性・準備・熟慮が必要です。
- 孔子の「中庸」は「ぶれない正しさ」であり、そのためには「ぶれない構え」が求められるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
戦略と計画の重要性 | ビジョン・目標・行動計画が明確である企業は、変化にも対応しやすい。 |
プレゼン・提案 | 発言前の準備・練習がプレゼン成功の鍵を握る。 |
プロジェクト設計 | 設計段階での段取りとリスク管理が、事後の混乱や損失を防ぐ。 |
個人のキャリア設計 | 自分がどこへ向かっているかを定めておくことが、迷いのない行動につながる。 |
危機対応・判断力 | 方針が定まっていれば、予期せぬ事態にも柔軟かつ的確に動ける。 |
■心得まとめ
「思いがけぬ困難に強いのは、備えある者である」
日々の仕事においても、人間関係においても、人生の岐路においても、
**「あらかじめ考え、整える」**ことができる人こそ、
どんな状況でも崩れず、迷わず、後悔なく、自信を持って生き抜いていける。
中庸の実践とは、予め立てる構えと、誠をもって一貫する生き方である。
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