本当に優れた文章は、奇をてらった技巧も飾り立てた言葉も必要とせず、ただ自然に「ぴたりと合う」ものになる。
それと同様に、人としての品格が真に高まれば、特別な振る舞いや飾り立てた行動をしなくても、自然体のままで深い魅力を放つ。
到達点にあるものは、決して「目立とう」としない。
むしろ、何気ない中にこそ、その美しさと本質が凝縮されている。
原文(ふりがな付き)
文章(ぶんしょう)は極処(きょくしょ)に做(な)し到(いた)れば、他(た)の奇(き)あることなく、只(ただ)是(これ)恰好(かっこう)のみ。人品(じんぴん)は極処に做し到れば、他の異(こと)有(あ)ること無く、只是れ本然(ほんぜん)のみ。
注釈
- 極処(きょくしょ)に做し到る:極限の域・到達点に達すること。完全に熟達した状態。
- 恰好(かっこう):ちょうどよい、ぴったり合っていて違和感のない美しさ。
- 人品(じんぴん):人格・人の品格。
- 本然(ほんぜん):飾らず自然なありのままの状態。虚飾のない真の姿。
1. 原文
章做到極處、無有他奇。只是恰好。
人品做到極處、無有他異。只是本然。
2. 書き下し文
文章は極処に做し到れば、他の奇あることなく、只だ是れ恰好のみ。
人品は極処に做し到れば、他の異有ること無く、只だ是れ本然のみ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 文章は極処に做し到れば、他の奇あることなく、只だ是れ恰好のみ。
→ 文章が完成の極みに達すれば、そこには奇抜さなどはなく、ただ「ちょうどよい」ものとなる。 - 人品は極処に做し到れば、他の異有ること無く、只だ是れ本然のみ。
→ 人格が完成の極みに達すれば、特別変わったところなどはなく、ただ「本来あるべき姿」に過ぎない。
4. 用語解説
- 章(しょう):ここでは「文章」や「作品」を意味します。
- 極處(きょくしょ)に做し到る:究極の域にまで到達すること。最高の完成度。
- 他奇(たき):他と異なる奇抜さや派手さ。奇をてらった様子。
- 恰好(かっこう):ちょうどよい、過不足のない様。自然で収まりがよいこと。
- 人品(じんぴん):人の品性、人格、人柄。
- 他異(たい):他人と違った特異な点。変わった点。
- 本然(ほんぜん):本来の姿、自然体、作為のない状態。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
文章が極限まで完成されれば、そこには奇をてらったところなどなく、ただちょうどよい自然な形に整っているだけである。
同様に、人間の品性が完成の域に達すれば、特に目立った変わったところはなく、ただ本来あるべき自然な姿に至るだけである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「真の完成とは、奇抜さや目立つ個性ではなく、自然であること、当たり前であることに至る」と教えています。
- 本当に優れた文章は、読む者に「ちょうどよい」「すんなりと心に入る」と感じさせ、技巧を感じさせない。
- 同様に、本当に人格が練り上げられた人物は、目立つことも自己主張もせず、むしろ自然で無理のない立ち居振る舞いをする。
この思想は、**「過剰な装飾を退け、内面の質を尊ぶ」**という東洋的美学に通じています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「成果よりも“自然さ”が極致」
プレゼン資料、提案書、マーケティングコピーなど──最も完成された成果物は、読者に“無理がない”“しっくりくる”と感じさせる。派手さではなく、「適切さ」が最高の評価を生む。
● 「人格は、違いを誇るより“本然”で勝負」
優れたリーダーは、無理に奇をてらわず、自然な振る舞いで人を導く。礼儀・誠実・謙虚といった“あたりまえ”を徹底する人物こそ、周囲の信頼を集める。
● 「チームや企業文化も“自然体”が理想」
過剰なルールや演出に頼らず、自然とお互いを尊重し、良い成果が出る環境こそが「極致」。洗練されたシステムや文化は、“作り込み”を感じさせない。
8. ビジネス用の心得タイトル
「極みとは、自然であること──“奇をてらわず、本然を尽くす”」
この章句は、あらゆる分野において「本物の完成とは自然であること」という深い洞察を与えてくれます。派手さや差別化を求めすぎる現代において、逆に“本然”を貫くことの難しさと価値が際立つ内容です。
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