孟子は、**諸侯が真に守るべき「三つの宝」**について明確に述べている。
それは、以下の三つである:
- 土地(とち):国土。経済の基盤であり、生活と生産の場。
- 人民(じんみん):民衆。国家を支え、社会を形作る存在。
- 政事(せいじ):統治。公正な政治と制度。いわば「主権」にあたる。
孟子はこれらを「国家における真の宝」と位置づけ、逆に珠玉(金銀財宝)を宝とするような為政者は、必ず災いを招くと警告する。
これは、物質的な富ではなく、国を構成する根幹要素こそが最も重要な価値であるという強いメッセージである。
特に現代において、これは国家の三要素とされる「領土・国民・主権」に通じる構図であり、孟子の視点がいかに先見的で本質的であったかがわかる。
さらに言えば、国家の繁栄や継続は、華麗な宝物ではなく、人と制度と大地の健やかさによって支えられるのである。
引用(ふりがな付き)
「孟子(もうし)曰(いわ)く、諸侯(しょこう)の宝(たから)は三(みっ)つあり。土地(とち)・人民(じんみん)・政事(せいじ)なり。珠玉(しゅぎょく)を宝とする者は、殃(わざわい)必(かなら)ず身(み)に及(およ)ぶ」
注釈
- 土地…国の基盤。衣食住、生産活動の源。
- 人民…国の主人公。働き、支え、育む存在。
- 政事…治世、政策、制度。現代で言う主権の運用。
- 珠玉…宝石や金銀などの貴重品。華やかではあるが国の本質ではない。
- 殃(わざわい)必ず身に及ぶ…国を誤った価値観で治めれば、為政者自身がその報いを受けるという警告。
1. 原文
孟子曰、諸侯之寶三、土地・人民・政事。
寶珠玉者、殃必及身。
2. 書き下し文
孟子(もうし)曰(いわ)く、諸侯(しょこう)の宝(たから)三(み)つあり。土地(とち)・人民(じんみん)・政事(せいじ)なり。
珠玉(しゅぎょく)を宝とする者は、殃(わざわい)必(かなら)ず身(み)に及(およ)ぶ。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 孟子曰、諸侯之寶三、土地・人民・政事
→ 孟子は言った。「諸侯にとって真の宝は三つある。土地と、民衆と、政治である。」 - 寶珠玉者、殃必及身
→ 「もし珠や玉(装飾品・財宝)を宝とするならば、災いは必ずその者の身に降りかかる。」
4. 用語解説
- 諸侯(しょこう):古代中国において王に仕えた領主たち。現代でいえば“地域リーダー”や“組織の責任者”。
- 土地:領地や資源。人民の生活基盤を含む。
- 人民:国民・住民・働く人々。国家や組織の基礎。
- 政事(せいじ):政治や行政運営。制度や法の執行。
- 珠玉(しゅぎょく):宝石や財宝。象徴的には贅沢品。
- 殃(わざわい):災い、悪い結果。
- 及ぶ:自分の身に降りかかる、災難が到達する。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「為政者(諸侯)にとって本当の宝は三つある。
それは、領地(資源)と人々(民)と、政治(統治)である。
もしこれらではなく、宝石や金銀財宝のような物を宝と考える者がいれば、
その人には必ず災いが降りかかる。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真に守るべき価値」と「災いを招く価値観」**を対比的に説いています。
孟子は、為政者にとって守るべきは:
- 土地=経済基盤・環境・空間資源
- 人民=住民・社員・人材
- 政事=制度運営・公正な統治
とし、それ以外の外面的な富や贅沢(珠玉)に執着すれば、身を滅ぼすと警告しています。
この価値観は、「内的価値(中身)」と「外的装飾(見かけ)」のどちらを優先すべきかという永遠のテーマに通じます。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「企業の宝とは何か?」
孟子の言う三つの宝を現代の企業に置き換えると:
- 土地 → 経営資源(ブランド、施設、インフラ)
- 人民 → 社員・パートナー・顧客
- 政事 → 経営の在り方、制度、文化、意思決定の仕組み
これらを「宝」として守らず、売上・利益・高級感など“見せかけの価値”に執着すれば、組織はやがて傾く。
「贅沢や虚栄を宝とする経営の末路」
- 社員を蔑ろにし、豪華なオフィスや接待にばかり投資する会社。
- 顧客満足よりもブランドイメージに過剰投資する姿勢。
- 短期利益のために人や制度を損なう判断──
これらはすべて“珠玉を宝とする”経営であり、「殃、必ず身に及ぶ」=経営危機・信頼喪失・離職増加という形で報いを受けることになります。
「本質に目を向けるリーダーが生き残る」
- 本当の価値は「見えにくい」が、組織を支える柱。
- 人・制度・文化を“宝”と考える経営者こそ、持続可能な成長を実現できる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「真の宝は“人・場・仕組み”──虚栄を守れば、組織が滅ぶ」
この章句は、**「価値観の正しさが組織の寿命を決める」**というメッセージを、簡潔かつ鋭く伝えています。
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