J社は地元市場での成功を背景に、専任セールスマンの増員や「蛇口作戦」の拡大を通じて、県内シェアで圧倒的トップの地位を確立した。この成果を受け、次なるステップとして全国戦略の設計に着手した。ただし、その展開の仕方は、単なる「全国的な営業拡大」とは異なる、地域特性を活かした段階的なアプローチを採用した。
以下は、J社が採用した全国戦略の設計と実行の概要である。
地元成功モデルの展開
1. 地元から全県展開への第一歩
J社は、地元K市を中心とした蛇口作戦を県全域に拡大し、1年足らずで圧倒的なシェアを獲得。増員したセールスマンのコストを上回る利益を上げた。この実績は「地元モデル」を証明するものであり、同時にさらなる展開への土台を築いた。
競合の動向と差別化戦略
2. ナンバー1企業の「弱点」を見極める
業界ナンバー1の企業は、価格競争を仕掛けてきたが、その戦略は失敗に終わった。代理店のマージン削減による反発と、品質の劣る商品が原因である。流通業者が本当に求めているのは、適正な利益が確保でき、かつ市場で売れる商品である。J社は、こうした流通業者のニーズを的確に捉え、品質とマージンのバランスを保った商品を提供することで、競争力を高めた。
3. ナンバー1以外の競合を軽視
J社は、業界2位や3位の競合については戦略の対象外とし、ナンバー1の競合にのみ焦点を絞る大胆な決断をした。これは、限られたリソースを最適化し、最大の効果を狙うための選択である。
全国戦略の設計
4. 中部地方を主戦場とする
J社の地元基盤と愛知県での成功を活かし、中部地方十県を第一次主要戦略地域に設定。この地域での圧倒的なシェア確保を目指した。中部地方は物流や経済の要衝であり、ここを掌握することで日本全体の市場支配に繋がる地理的優位性を持つ。
5. 他地域では拠点戦略を採用
中部地方以外では、メーンディーラーであるS社との共同作戦を展開。東京や大阪といった主要都市を重点的にカバーし、拠点を築く形で効率的なリソース配分を行った。特に、東京は競合の本拠地であるにも関わらず、実際には競合が脆弱であることが判明しており、積極的に攻める価値があると判断された。
6. 個別市場戦略の採用
中部地方の十県をさらに細分化し、各県ごとに異なる戦略を策定。地域ごとの需要や競合状況に応じて柔軟に対応することで、成功の確率を高めた。
戦略の成果と持続的優位性
7. 七割成功を目標とする現実的なアプローチ
すべての市場で成功する必要はない。七割の市場で成功を収めれば十分であり、全体で六割程度の成功でも競合に対する優位性を保てる。この差が時間とともに蓄積され、J社の競争力をさらに強化する基盤となる。
8. 成功モデルの移転と全国展開の準備
K市の蛇口作戦を東京へ移転し、売上の急増に成功。その実績が全国の営業所で注目され、他地域での導入要請が相次いだ。J社長は指導業務に注力せざるを得なくなったが、これは戦略が広く評価された証でもある。
9. 流通業者との信頼構築
J社の取り組みは、メーンディーラーであるS社との関係を強化し、共同作戦の可能性を広げた。「問屋は売ってくれない」という業界の常識を覆し、自社の努力で販売実績を上げることが、流通業者を動かす原動力になることを証明した。
全国戦略の本質
J社の全国戦略は、「全国的視野に立った地域特化型戦略」を基盤としている。広範囲に展開するだけの総花的な計画ではなく、地域ごとに成功モデルを構築し、それを順次拡大する手法を採用した。
特に中部地方での圧倒的シェア確保は、全国展開への第一歩である。この地域を制することで、競合他社を東西に分断し、彼らの市場支配力を削ぐ狙いがある。さらに、中部地方以外の地域では、強力な拠点を築きながら着実に影響力を拡大していく。
全国戦略の成功は、一貫した地道な努力と実行力に基づいている。この方針を維持しながら、J社はさらなる成長を遂げることが期待されている。
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