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音楽を愛する王は、民を和らげ、国を治める道を開く

王が音楽を好むと聞いて、家臣の荘暴は判断を迷った。しかし孟子は、王が心から音楽を好むのであれば、斉の国がよく治まる兆しと断言した。

ここでの「音楽」は単なる娯楽ではない。それは「和」をもたらす力であり、礼とともに人の心と社会を調和させる文化の柱。孔子もまた、音楽が人を教え導く力を重視していた。

つまり、王が音楽を本当に愛しているということは、人の情に敏感で、民を思いやる心があるということ。そうした心を持つ者が政を執れば、自然と秩序は保たれ、人民も安心するだろう。


ふりがな付き原文と現代語訳

「荘暴(そうぼう)、孟子に見(まみ)えて曰(いわ)く、暴(ぼう)、王に見(まみ)ゆ。王、暴に語(かた)るに楽(がく)を好(この)むことを以(もっ)てす。暴、未(いま)だ以(もっ)て対(こた)うる有(あ)らざるなり。曰(いわ)く、楽(がく)を好(この)むこと何如(いかん)。孟子曰(いわ)く、王の楽(がく)を好(この)むこと甚(はなは)だしければ、則(すなわ)ち斉国(せいこく)其(そ)れ庶幾(ちか)からんか」

現代語訳:
荘暴が孟子に会って言った。「私は王に拝謁しましたが、そのとき王は音楽が好きだと語られました。私はそれに対して、良いとも悪いともお答えしませんでした。音楽を好むというのは、王にとって良いことなのでしょうか?」
孟子は答えた。「もし王が本当に音楽を好まれるのであれば、斉の国がよく治まる日も近いでしょう」


注釈

  • 荘暴(そうぼう)…斉の国の家臣。王に仕えていた。
  • 楽(がく)…音楽。古代中国では、礼(秩序)と並び社会統治・人間教育の要とされた。
  • 庶幾(ちか)からんか…望ましい状態に近づいている、兆しがある、の意。

1. 原文

莊暴、見孟子曰、
暴、見於王、
王、語暴以好樂、
暴未以對也、曰、
好樂何如、
孟子曰、
王之好樂甚、則齊國其庶乎。


2. 書き下し文

荘暴(そうぼう)、孟子(もうし)に見えて曰(いわ)く、
暴、王(おう)に見(まみ)えたり。
王、暴に語(かた)るに、楽(がく)を好(この)むことを以(もっ)てす。
暴、未(いま)だ以(もっ)て対(こた)うる有(あ)らざるなり。曰く、
楽を好むこと、何如(いかん)。
孟子曰く、
王の楽を好むこと甚(はなは)だしければ、則(すなわ)ち斉国(せいこく)、其(そ)れ庶幾(ちか)からんか。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 荘暴、孟子に見えて曰く
     → 荘暴が孟子に面会して言った。
  • 暴、王に見ゆ。王、暴に語るに楽を好むことを以てす。
     → 「私は王様にお目通りしました。王は私に、“私は音楽を好む”と語られました。」
  • 暴未だ以て対うる有らざるなり。曰く、楽を好むこと何如。
     → 「私はどう答えるべきか分からず返答できませんでした。孟子先生、音楽を好むというのはどう思われますか?」
  • 孟子曰く、王の楽を好むこと甚しければ、則ち斉国其れ庶幾からんか。
     → 孟子は言った。「もし王が真に音楽を深く好まれるのであれば、斉の国もきっと善政に近づくでしょう。」

4. 用語解説

  • 荘暴(そうぼう):斉の王に仕えた人物で、孟子ともしばしば言葉を交わす。
  • 好楽(こうがく):「音楽を好む」とは単なる趣味ではなく、古代中国では政治と道徳に通じる重要な意味を持つ。
  • 庶幾(ちかからんか):「近いだろう、期待できるだろう」の意味。「庶幾~」で「~に近づく、希望が持てる」という表現。
  • 甚(はなはだしければ):「非常に~であれば」の意。「真剣に、深く」というニュアンス。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

荘暴は孟子に言った。
「私は王様に拝謁しました。王様は“私は音楽が好きだ”とおっしゃいましたが、私はその言葉にどう返答すればよいのか分からず黙ってしまいました。先生、音楽を好むというのはどういう意味を持つのでしょうか?」

孟子は答えた。
「もし王様が真に音楽を深く愛しておられるのなら、斉の国はきっと善政が行われ、良い国になるでしょう。」


6. 解釈と現代的意義

この一節で孟子は、「好楽=善政」との関係を強調しています。古代中国では、音楽は単なる娯楽ではなく、「人の心を和らげ、調和と秩序をもたらすもの」とされていました。

つまり、王が真に“調和を生む音楽”を好むならば、それは自己の修養と国の統治にもよい影響を及ぼすということを孟子は伝えているのです。

これは裏を返せば、「享楽的な趣味に過ぎない“好楽”は無意味」であり、「それが道徳性と統治意志に根ざしてこそ、価値ある趣味」になるという教訓でもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「リーダーの“嗜好”が組織の風土を決める」

経営者や上司が何を好むか──その“価値観”や“美意識”は、組織全体に大きな影響を与える。
それが私利私欲に根差したものであれば、組織は緩み、形骸化する。
しかし、もしそれが調和・秩序・文化・倫理といった高次の理念に根差すものであれば、組織は活性化し、風土が整う。

✅ 「形式ではなく“真に好きか”が鍵」

“音楽が好き”という言葉も、ただの自己満足か、他者を思いやる気持ちから来ているかで意味が全く異なる。
表面的な演出や一時的な施策ではなく、**「深く好きであり続ける姿勢=継続的な価値観」**が真の信頼を生む。

✅ 「文化的資本は、経営の徳の表れ」

経営者がどのような文化や教養を大切にしているかは、経営の姿勢と連動する。
「真に音楽を好む」=「人を和らげ、内面を高める価値観を持つ」ということが、健全な組織統治にもつながる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「何を好むかが、あなたの経営を映し出す」
──文化を愛する真心は、組織を導く静かな力となる。


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