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出世よりも、筋と義に生きる


一、原文と現代語訳(逐語)

原文抄(聞書第七)

左太夫子、内蔵之助女房は小川舎人娘にて候。
舎人浪人、綱茂公思召入これある由に付、御代になり候てより、左太夫へ、
「是非々々嫁を返し申され候様に」と申したる人これあり候へども、
「科もなきを返し申す事は、たとひ如何様に不首尾に候とても、罷成らず候」
と申し切つて居られ候。

「とかく縁柄の儀に候へば、彼一類より取らねばならぬ」と申して、またまた縁組仕られ候由。

現代語訳(逐語)

鍋島左太夫の子・内蔵之助の嫁は、小川舎人の娘であった。
小川舎人は、藩主・鍋島綱茂公が家督を継がれる以前に、不興を買って浪人となっていた。
綱茂公の代になると、ある者が「その娘を嫁にしておくのはまずい。離縁すべきだ」と忠告した。
しかし左太夫は「罪のない者を離縁するなど、どんな不利益があろうともできない」ときっぱりと断った。
その後、嫁は早世したが、左太夫は再び小川舎人と縁戚関係にある石井家から後妻を迎えた。
またもや反対の声があがったが、左太夫は「縁がある以上、その一門から迎えねばならぬ」と言って押し切った。


二、用語解説

用語解説
左太夫鍋島家の家臣で、この逸話の主人公。
科(とが)もなし咎(とが)=罪。つまり「罪もないのに」
不首尾上手くいかないこと。社会的な不利や失敗のこと。
思召入(おぼしめしいれ)主君の不興・不快感を買うこと。
彼一類(ひとたぐい)縁続きの家筋・親族の意味。

三、全体の現代語訳(まとめ)

鍋島左太夫は、主君の不興を買って浪人となった家の娘を「罪がないから」といって離縁しなかった。
さらに、その家と縁続きの別家の娘を後妻に迎えることで、周囲の忠告を退けた。
筋と情理を通すことを、出世や体面よりも大切にした行動である。


四、解釈と現代的意義

この逸話が語るのは、「武士にとっての義理と筋の重み」であり、人としてどう生きるかの基本軸です。
現代でも、同様の価値観は「信頼される人物像」や「判断の一貫性」として高く評価されます。

  • 周囲の打算的な忠告や世間体に流されず、信念を守った左太夫の姿は、まさに武士道の実践。
  • 常朝はこのような行動をこそ、「意地」=人間の矜持と見なしており、「出世や保身よりも義を選べ」と説いている。

これは「正義感」ではなく、もっと深い、「義理を果たすことが人の道である」という感覚です。


五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・適用例
組織の中での信頼構築利害や評価よりも、人としての一貫性を貫く人物が、結果的に本当の信頼を得る。
マネジメント判断周囲の空気に流されず、「本当に正しいこと」を守る姿勢が、長期的に組織を強くする。
採用・人事対応スペックや背景だけでなく、人間関係や信義を重視した選択が、チーム文化を育てる。
危機時の意思決定保身や忖度ではなく、部下や関係者への“責任ある姿勢”を示すことがリーダーの価値。

六、補足:「筋を通す」という意地

この話で特筆すべきは、「主君に不興を買った相手との縁すら切らず、さらに再び関係を持った」点です。
常朝の時代でも、出世や体裁を第一に考える風潮があったからこそ、この“通すべき筋”の価値が際立っていたのです。

つまりここで言う意地とは、「強情さ」ではなく、信義・道理・矜持を守り抜くことです。


七、まとめ:この章句が伝えるメッセージ

  • 出世や保身よりも、人としての筋・義理を優先せよ。
  • 周囲の打算的な声に流されず、己の正義を通す姿勢が、最終的に信頼を得る。
  • 何よりも大切なのは、「罪なき者を傷つけない」「つながりを裏切らない」という基本的人倫。

目次

🔚現代への置き換え:

「評価されなくとも、正しいことを選べ」
それが、組織の中であっても、社会の中であっても、**“人間として恥じない選択”**であることを、『葉隠』は教えてくれます。

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