孔子は、斉の国を訪れた際に、伝説の聖王・舜(しゅん)を讃える「韶(しょう)」の音楽に出会った。
その美しさ、調和、そして深い精神性に心を奪われ、三か月もの間、肉を食べてもその味がわからないほど感動していたという。
孔子は驚きを込めて、「まさか、音楽がここまで人の心を動かすとは思わなかった」と述べた。
この体験は、芸術が単なる娯楽や技巧を超え、魂にまで響く力を持つことを示している。
原文・ふりがな付き引用
子(し)、斉(せい)に在(あ)りて韶(しょう)を聞(き)く。三月(さんげつ)、肉(にく)の味(あじ)を知らず。曰(い)わく、図(はか)らざりき、楽(がく)を為(な)すことの斯(ここ)に至(いた)るや。
注釈
- 韶(しょう) … 舜王をたたえる伝説的な音楽。古代中国で最も高雅とされた楽。
- 肉の味を知らず … 食事すら意識から外れるほど、心を深く打たれていた様子。
- 図らざりき … 思いもよらなかった、想像を超えていたという驚きの表現。
- 楽を為すことの斯に至るや … 音楽がここまで人を感動させるとは、という意味。芸術の極致に触れた驚きと賛美。
1. 原文
子在齊、聞韶三月、不知肉味、曰、不圖爲樂之至於斯也。
2. 書き下し文
子(し)、斉(せい)に在(あ)りて韶(しょう)を聞(き)く。三月(さんげつ)、肉(にく)の味(あじ)を知らず。曰(い)わく、「図(はか)らざりき、楽(がく)を為(な)すことの斯(ここ)に至(いた)るや」と。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「子、斉に在りて韶を聞く」
→ 孔子が斉の国に滞在していたとき、古代の名楽「韶(しょう)」を聴いた。 - 「三月、肉の味を知らず」
→ その音楽に夢中になり、三ヶ月間、肉を食べてもその味が分からないほど没頭していた。 - 「曰く、『図らざりき、楽を為すことの斯に至るや』」
→ 孔子は言った。「思ってもみなかった。音楽がここまで人の心を高めるとは。」
4. 用語解説
- 斉(せい):春秋時代の斉の国。儒教・礼楽制度が栄えた国の一つ。
- 韶(しょう):堯・舜・禹の時代に由来するとされる古代の雅楽。特に舜の時代の楽とされ、理想的で調和の取れた音楽とされた。
- 三月(さんげつ):三か月の意。
- 肉の味を知らず:肉を食べても味が分からないほど集中・感動していたことの比喩。
- 図らず(はからず):思いもよらない、予想しなかった。
- 斯(ここ)に至るや:このような高みに達するとは。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子が斉の国に滞在していたとき、古代の理想的な音楽「韶(しょう)」を聴いた。
その素晴らしさに心を奪われ、三か月もの間、食事の味すら分からなくなるほど没頭した。
孔子はこう言った:「まさか、音楽がここまで心を高めるものだとは思わなかった。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子が真に心を動かされた体験を語った貴重な逸話であり、
音楽という芸術がもつ**精神的・道徳的な浄化力・陶冶力(とうやりょく)**を讃えたものです。
ここでの「韶」は単なる音楽ではなく、礼・徳・調和の象徴であり、理想社会を象徴する文化的体験とも言えます。
孔子の感動は、個人の感性の話にとどまらず、**“善なるものが人の心を根底から変える”**という教育的信念にも通じます。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「真に感動する体験が、人を変える」
──感動や共鳴の体験は、行動や価値観に強い影響を与える原動力となる。
共感・感動を意識的に仕掛ける組織文化が、人を動かす。
■「文化や芸術も、組織の力となる」
──音楽・言葉・美的体験は、組織の士気や結束力を高める。
“成果だけでなく感性に訴える環境”が、働きがいを育てる。
■「集中と没頭の先に、本当の充足がある」
──時に“食う・寝る”も忘れるほど、高い理想や美に心が没入する経験が、人生や仕事の原点となる。
■「理想を現実に触れて知ることが、人生を変える」
──孔子のように、「本物」と出会うことで、自身の考えや姿勢が根本から変わることもある。
8. ビジネス用心得タイトル
「感動は、人を高める──本物との出会いが行動を変える」
この章句は、教育・文化・リーダーシップにおける**“心の動き”の価値**を再認識させるものであり、
芸術的感性と道徳的実践が結びつく、孔子らしい人間観が表れています。
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