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■引用原文
詩曰、奏仮無言、時靡有争、
是故君子不賞而民勧、不怒而民威於鈇鉞、
詩曰、不顕惟徳、百辟其刑之、是故君子篤恭而天下平、
詩曰、予懐明徳、不大声以色、子曰、声色之於以化民、末也、
詩曰、徳輶如毛、毛猶有倫、上天之載、無声無臭、至矣。
■逐語訳
- 『詩経』に「奏仮するときに言葉なく、時は争いがない」とある。
- だから君子は、賞与せずとも民は励み、怒らずとも民は斧・鉞(死刑)よりも畏れる。
- 『詩経』に「徳は顕らかならずとも、百官がそれを手本にする」とある。
- だから君子は誠実かつ慎み深く、天下は平和に治まる。
- 『詩経』に「われは明徳を心にとめる。声や色をもって飾らない」とあり、
- 孔子は言った、「声や色(言葉や表情)で民を教化するのは、道の末である」と。
- 『詩経』には「徳は軽やかに毛のようだ。毛すらも比べられるが、」
- 「天のはたらきには、音も匂いもない。それは至れるものである」とある。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
奏仮(そうか) | 神への祈りや儀礼で、言葉を発さず心で感応する行為。 |
鈇鉞(ふえつ) | 斧・まさかり。死刑の象徴。 |
不顕惟徳 | 徳は外にあらわれなくても、それが力をもつ。 |
声色 | 権威のある言葉や厳しい表情。外的威圧による支配の象徴。 |
徳輶如毛(とくようじょもう) | 徳は羽毛のように軽く柔らかく、静かに届くもの。 |
上天の載、無声無臭 | 天のはたらきには言葉も匂いもない。だがすべてを包み育てる。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
『詩経』には「神に祈りをささげるとき、声を発さずとも通じ、争いも起きない」とある。
だから君子は人々に対し、褒美を与えなくても自然と民は勤しみ、怒らずともその威徳は斧鉞(刑罰)よりも民を畏れさせる。
また「徳は目立たずとも、諸侯はそれを模範とする」とあるように、君子は厚く慎み深い徳を養い、それによって天下を治める。
『詩経』には「我は明徳を大切にして、声を張りあげたり表情を作ることはしない」とある。
孔子は「言葉や表情で人を変えようとするのは、最も末端の方法である」と述べた。
さらに「徳は毛のように軽やかだ」とあるが、それですら比べられるものだ。
ところが「天のはたらきは、声も匂いもなく、それでいてすべてを包む」。
――これこそ、至高の徳である。
■解釈と現代的意義
観点 | 意義 |
---|---|
外的手段による支配の限界 | 褒美や刑罰で動かすよりも、徳により人の心を動かすのが上策。 |
内的誠の力 | 君子の徳は無言のうちに人々を感化し、自然と秩序が保たれる。 |
理想のリーダー像 | 声を荒げず、姿勢で人を導く。真のリーダーは静かである。 |
「無為にして治む」の実践 | 天地のように、音もなく、気づかれぬままに育む。それが最高の教化。 |
■ビジネスへの応用と心得
- 「報酬や罰」ではなく「信頼と尊敬」で動かす組織運営を
→ 無理な管理や制度化ではなく、上司の人格・態度が人を導く。 - トップは「声を張らずに信を得る」べし
→ 大声を出すより、誠実・慎み・一貫性が人心をつかむ。 - 静かにして強い文化こそ長く続く
→ 声や見た目ではなく、行動で育まれる文化が真に浸透する。
■心得一句(まとめ)
「声なくして響き、姿なくして従う」
――徳は見えずして民に及び、真に偉大なものは静かである。
この章は『中庸』全体の結語にふさわしい、
「内なる誠が如何にして天下に及ぶか」「真の徳は音もなく匂いもない」という
道徳の究極形を語っています。
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