高い志を抱いて学ぶ者が、うまい食事や快適な住まいばかりを求めていては、器の小ささが露呈する。
本当に成長を望むなら、まず行動に敏く(すばやく)、言葉には慎重であるべきだ。
そして、もし尊敬に値する人物に出会えたなら、その教えを受け、誤りがあれば自らを正していくことが大切である。
そうした姿勢こそ、「学を好む者」にふさわしい心構えである。
快楽ではなく実行を、独善ではなく学びを――一流の人物はその積み重ねの先に生まれる。
目次
原文
子曰、君子食無求 、居無求安、敏於事而愼於言、就有 而正焉、可謂好學也已、
「君子(くんし)は食(しょく)に飽(あ)くを求(もと)むる無(な)く、居(きょ)に安(やす)きを求むる無し。事(こと)に敏(びん)にして言(げん)に慎(つつし)み、有道(ゆうどう)に就(つ)きて正(ただ)す。学(がく)を好(この)むと謂(い)うべきのみ」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「君子は食に飽くを求むる無く」
→ 君子(理想的な人格者)は、食事において満腹を求めず、 - 「居に安きを求むる無し」
→ 住まいに過度な快適さや贅沢を求めることもしない。 - 「事に敏にして言に慎み」
→ 物事には敏速に取り組み、言葉には慎重である。 - 「有道に就きて正す」
→ 道理をわきまえた人に学び、自分の行いを正していく。 - 「学を好むと謂うべきのみ」
→ これこそ、「学ぶことを好む者」と呼ぶにふさわしい。
用語解説:
- 君子(くんし):道徳的に優れた人格者。理想的な人物像。
- 飽くを求むる無く:満腹を追い求めない、食に対する欲望を節制する。
- 安きを求むる無し:安楽・快適さに執着しない。
- 敏(びん):行動がすばやく、機敏であること。
- 慎む(つつしむ):言葉を選び、軽率に語らないこと。
- 有道(ゆうどう):徳や知識にすぐれた人、道理ある師。
- 就く(つく):近づいて学ぶ、師と仰ぐ。
- 正す:誤りを正し、自己を律する。
- 学を好む:学ぶことを心から愛する、学問への真摯な姿勢。
全体の現代語訳(まとめ):
理想的な人物(君子)は、食べ物に満腹を求めず、住まいにも過度な快適さを求めない。物事には機敏に対応し、言葉には慎重であり、道理ある人物に学んで自己を正していく。これこそ「学びを愛する者」と言うにふさわしい。
解釈と現代的意義:
この章句は、「学びとは知識を蓄えることではなく、自己修養である」という孔子の思想を表しています。
- 節制・行動力・慎重さ・師への敬意・自己修正力──すべてが“学ぶ姿勢”の現れ。
- つまり学問とは、机に向かうことではなく、人格の磨き・日常の在り方そのものであるというメッセージです。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「食に飽くを求めず、居に安きを求めず」=節度ある働き方と自己管理
- 報酬や環境の快適さに執着せず、自律的・淡泊な姿勢で仕事に向かう。
- 贅沢よりも「本質的な充実」を重視する価値観が、長期的な信用を生む。
- 「事に敏にして言に慎む」=行動は素早く、言葉は慎重に
- タスクや判断にはスピードを持ち、発言には責任を持つ。
- 特にリーダーには、「軽々しく語らず、誠実に動く」姿勢が求められる。
- 「有道に就きて正す」=良き師を持ち、自らを律する
- 自分より優れた人物に学び、定期的にフィードバックを受けて行動を見直す。
- これは、**継続的学習と改善の姿勢(ラーニングマインドセット)**に直結する。
- 「学を好むと謂うべきのみ」=姿勢そのものが“学ぶこと”
- 成長志向の人材は、外的報酬よりも「人格・仕事・人間関係」すべてを磨くことに意欲的。
- 真の“学び手”は、日常のすべてを学習の場に変える。
ビジネス用心得タイトル:
「学びとは、節制・実行・自省の連続──真の向上心は日常にあらわれる」
この章句は、「学ぶとは、生活と仕事の中でどれだけ真剣に自分を磨くか」という本質的な問いかけを投げかけています。
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