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目上の人と話す時こそ、言葉に慎みを

対話の礼節を欠けば、思慮も見識も疑われる。
孔子は、目上の人と向き合う際に犯しやすい「三つの過ち」を明示した。

ひとつは、相手がまだ話題にしていないのに、先回りして話し出してしまうこと。これは“躁(そう)”――出過ぎた態度だ。
ひとつは、話しかけられているのに黙り込むこと。これは“隠(いん)”――本心を隠す不誠実さと映る。
そしてもうひとつは、相手の表情や気配を読み取らずに軽々しく口を開くこと。これは“瞽(こ)”――何も見えていない、という意味になる。

言葉の内容だけでなく、「いつ」「どういう空気のもとで」「どんな態度で」語るか。
君子との対話には、節度と洞察力が求められる。


【原文引用(ふりがな付き)】

「孔子(こうし)曰(い)わく、君子(くんし)に侍(じ)するに三愆(さんけん)有(あ)り。言(げん)未(いま)だ之(これ)に及(およ)ばずして言う。之を躁(そう)と謂(い)う。言之に及びて言わず。之を隠(いん)と謂う。未(いま)だ顔色(がんしょく)を見(み)ずして言う。之を瞽(こ)と謂う。」


【現代語訳・主旨】

目上の人に接する時、次の三つの態度は過ちである:

  1. まだ相手がその話題を出していないのに、先回りしてしゃべる → 躁(そう)
  2. 話しかけられているのに何も言わず、黙ってしまう → 隠(いん)
  3. 相手の表情や雰囲気を見ないまま話し出す → 瞽(こ)

これらは、軽率さ・不誠実さ・鈍感さと取られる。
言葉のタイミングと空気を読む力が、人間関係を大きく左右する。


【注釈】

  • 「愆(けん)」:過ち、誤り。言動の礼を欠いたときの失態。
  • 「躁(そう)」:さしでがましい態度。相手よりも前に出てしまう軽率さ。
  • 「隠(いん)」:本心を明かさず、黙して答えない様子。不信を招く。
  • 「瞽(こ)」:盲目という意味。ここでは、相手の心情を察する力に欠けていること。

原文:

孔子曰、侍於君子有三愆。
言未之而言、謂之躁。
言之而不言、謂之隱。
未見顏色而言、謂之瞽。


目次

書き下し文:

孔子(こうし)曰(いわ)く、君子(くんし)に侍(じ)するに三(み)つの愆(あやま)ち有り。
言(い)未(いま)だ之(これ)に及(およ)ばずして言(い)うは、之を躁(そう)と謂(い)う。
言(い)之(これ)に及びて言わざるは、之を隠(いん)と謂(い)う。
未(いま)だ顔色(がんしょく)を見ずして言うは、之を瞽(こ)と謂(い)う。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った。
  2. 「目上の人に仕えるときには、三つの過ちがある。」
  3. 「話すべきときではないのに発言するのは“軽率”である。」
  4. 「話すべきときに黙っているのは“隠し立て”である。」
  5. 「相手の表情を見ずに話し始めるのは“盲目(=配慮がない)”である。」

用語解説:

  • 君子(くんし):道徳や教養にすぐれた立派な人物、または上司・目上の人の意。
  • 侍(じ)する:仕える、側に控える。
  • 愆(あやまち):過ち、失敗、礼に反する行為。
  • 躁(そう):落ち着きがなく、軽率で早とちりな言動。
  • 隠(いん):必要なことを言わないこと。沈黙や隠蔽。
  • 瞽(こ):目の見えない人。ここでは“空気や状況を読めない”ことを意味する。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう言った:
「目上の人に仕える際に、気をつけるべき三つの過ちがある。
一つ目は、まだ話すタイミングではないのに、先走って話してしまうこと。これは軽率である。
二つ目は、話すべき時に黙っていること。これは必要な情報を隠していることになる。
三つ目は、相手の表情や状況を確認せずに話し出すこと。これは配慮のない無神経な態度である。」


解釈と現代的意義:

この章句は、対人関係における“タイミング・空気・誠意”の重要性を明示しています。

  • 「何を言うか」以上に、「いつ言うか」「誰に言うか」「どう言うか」が大切である。
  • 上司や目上との関係において、言動のタイミングや状況判断を誤ることは、信頼を損なう原因になる。
  • 謙虚な観察力と、正直さ、そして空気を読む力が、成熟した人間関係の土台である。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「早すぎる提案は“先走り”、遅すぎる報告は“怠慢”」

まだ状況が整っていないのに、焦ってアイデアを出すと混乱を招く。
逆に、適切なタイミングで情報や意見を出さないのは、組織の判断を遅らせる。

2. 「“空気が読めない”発言は信用を失う」

相手の表情や状況(=表情・雰囲気・文脈)を見ずに話し始めるのは、自己中心的であり配慮が足りない。
特に会議や面談、プレゼンでは“相手の反応を読む力”が不可欠。

3. 「“正直さ”と“沈黙の選択”のバランスを持て」

必要なことを黙っているのは“配慮”ではなく“責任放棄”である。
情報を出す/出さないの判断には、状況理解と倫理観が求められる。


ビジネス用の心得タイトル:

「言葉に“時・心・場”を添えよ──言うも言わぬも、信頼を築く判断力」


この章句は、**コミュニケーション能力の核心である「タイミング・誠意・状況判断」**を簡潔に教えてくれます。


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