時間の長さも、空間の広さも、すべては“心のあり方”次第である。
気持ちにゆとりのある人にとっては、たった一日でも千年より遥かに長く、豊かに感じられる。
また、心が広く開かれている人にとっては、たとえ一斗升ほどの狭い部屋でも、天地のように大きく自由に感じられる。
このように、外界の広狭や時間の長短は、けっして物理的な事実に支配されるものではなく、
「一念」や「寸心」といった内なる感受の在り方が、世界そのものの質を左右する。
心が縛られていれば、どんなに広い部屋も牢獄に等しく、
心が澄んで自由であれば、どんな狭い空間も桃源郷となるのだ。
引用(ふりがな付き)
延促(えんそく)は一念(いちねん)に由(よ)り、寛窄(かんさく)は之(これ)を寸心(すんしん)に係(かか)く。
故(ゆえ)に機閒(きかん)なる者(もの)は、一日(いちじつ)も千古(せんこ)より遥(はる)かに、
意(い)広(ひろ)き者(もの)は、斗室(としつ)も寛(ひろ)くして両間(りょうけん)の若(ごと)し。
注釈
- 延促(えんそく):時間の長短。延びるか、急ぐかという差。
- 寛窄(かんさく):空間の広さや狭さ。
- 一念(いちねん):ひとつの心のはたらき。意識のあり方。
- 寸心(すんしん):小さな心、つまり個人の内面の状態。
- 機閒なる者(きかんなるもの):気持ちにゆとりのある人。落ち着いていて余裕がある人。
- 斗室(としつ):一斗升ほどの狭い部屋。極めて小さい空間。
- 両間(りょうけん):東西南北、天地四方。広大な空間の比喩。
関連思想と補足
- 『荘子』や禅の教えに通じる「内面が世界をつくる」という思想。
- 物理的な条件ではなく、「どう感じ、どう見るか」が世界の質を決定するという逆転の視座。
- ストレス社会に生きる現代において、「心の広さが世界を変える」というこの教えは、特に大きな意味を持つ。
原文:
促由於一念、寬窄係之寸心。
故機閒者、一日遙於千古、意廣者、斗室寬若兩閒。
書き下し文:
延促(えんそく)は一念(いちねん)に由(よ)り、寛窄(かんさく)は之(これ)を寸心(すんしん)に係(か)く。
故(ゆえ)に機閒(きかん)なる者は、一日も千古(せんこ)より遥(はる)かにし、意(い)広き者は、斗室(としつ)も寛(ひろ)くして両閒(りょうけん)のごとし。
現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「延促は一念に由り、寛窄は之を寸心に係く」
→ 時間の長短も、空間の広狭も、すべては一つの心の持ち方にかかっている。 - 「故に機閒なる者は、一日も千古より遥かにし」
→ だから、心にゆとりを持つ人にとっては、たった一日が何千年にもまさる深い意味を持つ。 - 「意広き者は、斗室も寛くして両閒のごとし」
→ また、心が広い人にとっては、わずかばかりの狭い部屋でさえ、まるで広間のように感じられる。
用語解説:
- 延促(えんそく):長短。時間が長く感じるか短く感じるか。
- 寛窄(かんさく):広さと狭さ。空間的感覚。
- 寸心(すんしん):わずかな心、つまり“人の心そのもの”。
- 機閒(きかん):心にゆとり・余裕があること。忙しさから自由である状態。
- 千古(せんこ):永遠、歴史の長い時間。
- 斗室(としつ):斗(ます)のように狭い部屋。非常に小さな空間のたとえ。
- 両閒(りょうけん):建物の単位。比較的広い空間。ここでは「広々とした部屋」の意味。
全体の現代語訳(まとめ):
時間が短く感じられるか長く感じられるか、また空間が狭く思えるか広く思えるかは、すべて心の在り方次第である。
だからこそ、心にゆとりを持っている人は、たった一日でさえも千年のように価値ある時間と感じられるし、心が広い人は、どんなに狭い部屋にいても、それを広々とした空間のように感じることができる。
解釈と現代的意義:
この章句は、**「時間も空間も、すべては心のあり方次第で意味が変わる」**という、心理的自由と内面的豊かさの本質を説いています。
1. 時間の“長さ”は物理的ではなく“主観的”
- 心にゆとりがあると、わずかな時間の中に多くの発見や味わいがある。
→ 例えば、忙しい日々の中の静かな一日が、何年分もの価値を持つこともある。
2. 空間の“広さ”も心が決める
- 同じ部屋でも、窮屈に感じる人もいれば、快適に感じる人もいる。
→ これは、感受性・内面の広がり・価値観の問題。
3. 「限られた条件」でも満たされる人こそ自由人
- 環境や時間に恵まれていなくても、精神の構えが自由であれば、そこに豊かさが生まれる。
→ 内面的自立・充足こそが“幸福の源泉”。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「短時間」でも成果を出せる人は、心の整った人
- 忙しさの中でも、本当に集中すれば一日が“千古の価値”を持つ。
→ 時間管理の本質は、タスク配分より「心の整え方」。
2. 狭いオフィスでも“心理的空間”は広く取れる
- 職場環境が物理的に窮屈でも、信頼・共感・尊重があれば、精神的には広々と感じられる。
→ “広さ”より“心の通い”が働きやすさを決める。
3. “余白”と“ゆとり”を設計せよ
- タスクを詰め込みすぎない。意図的に「閒(ま)」を入れることで、時間も空間も豊かになる。
→ 効率ではなく「味わいのある時間」づくりを。
ビジネス用心得タイトル:
「時間も空間も、心が決める──“一念”が世界を変える鍵」
この章句は、現代人にとって極めて実用的な教えです。
忙しさ・狭さ・不自由を嘆く前に、“自分の心が空間と時間をどう感じるか”に意識を向けることが、真の自由と豊かさの出発点であることを静かに教えてくれます。
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