MENU

功績には正当な賞を、過失には厳正な罰を

組織を動かすのは、私情ではなく公平さである。

組織を動かす上で、部下の**功績や過失(こうか)に対しては、
曖昧な評価をしてはならない。
もし、功と過を混同して扱うようなことがあれば、
人々は次第に
やる気をなくし、なまけ心(惰堕)**を抱くようになる。

また、上司自身の恩と仇(おんとあだ)――つまり私的な好悪の感情
組織運営に明らかに出してしまえば、
人々の間に**不信や対立(携弐)**が生まれ、
組織のまとまりも力も失われていく。

信賞必罰と私情排除。
この二つがあってこそ、組織は公平な信頼のもとに動き、
一人ひとりの力が生かされ、全体がまとまるのである。


原文(ふりがな付き)

功過(こうか)は少(すこ)しも混(ま)ず容(い)るべからず。混すれば則(すなわ)ち人(ひと)、惰堕(だだ)の心(こころ)を壊(やぶ)らん。恩仇(おんきゅう)は太(はなは)だ明(あき)らかにすべからず。明らかにすれば則ち人、携弐(けいい)の志(こころざし)を起(お)こさん。


注釈

  • 功過(こうか):功績と過失。功は称賛・報償すべきこと、過は注意・処罰されるべきこと。
  • 混ず容からず:混同したり、いい加減に扱ったりしてはならないという厳格な姿勢。
  • 惰堕(だだ):やる気をなくす。怠ける気持ち。努力や真剣さが失われる心理。
  • 恩仇(おんきゅう):上司の私情(好意や恨み)。個人的な感情。
  • 携弐(けいい):心がまとまらず、対立や離反が生じること。チームの分裂を意味する。

※『孫子』の「之を令するに文を以てし、之を斉うるに武を以てす」(行軍篇)では、「文=徳による教化」、「武=法による統制」を意味します。菜根譚が説くこの条文もまた、規律と人望の両立による強い組織の構築を目指すものです。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • merit-and-fault-without-bias(功と過を公正に)
  • no-favoritism-in-leadership(指導に私情を持ち込むな)
  • fairness-builds-cohesion(公正さが結束を生む)

この条文は、リーダーシップ・マネジメントの根幹である「公平性」と「感情の切り分け」を鋭く指摘しています。
組織を率いる者にとって、最も難しく、最も大切なのは“好き嫌い”を持ち込まないことです。

えこひいきによって努力が報われず、私怨によって実力者が去っていく――
そんな組織は必ず弱体化していきます。

信賞必罰の原則を、静かに、そして確実に貫く姿勢こそが、信頼と成果を生むのです。

目次

1. 原文

功過不容少混。混則人懐惰墮之心。
恩仇不可太明。明則人懐携貳之志。


2. 書き下し文

功過(こうか)は少しも混ずるを容(い)れず。混ずれば則ち人、惰墮(だだ)の心を懐(いだ)かん。
恩仇(おんきゅう)は太(はなは)だ明らかにすべからず。明らかならば則ち人、携貳(けいい)の志を懐かん。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 功績と過失は、少したりとも混同してはならない。
  • もしそれを混ぜてしまえば、人はすぐに怠けたり堕落したりする心を持ってしまう。
  • 恩と恨みは、あまりにも明確に示してはならない。
  • もしあまりに露骨であれば、人は心に二心(裏表のある心)を抱くようになってしまう。

4. 用語解説

  • 功過(こうか):功績と過失、善行と誤り。
  • 混(こん)ずる:混同する、区別をあいまいにする。
  • 惰墮(だだ):怠惰でだらしなくなること。
  • 恩仇(おんきゅう):恩義と仇(うらみ)。
  • 太明(たいめい):あまりにも明らかに、過度に白黒をつけること。
  • 携貳(けいい):心に二つの志を持つこと。表向きと裏の思いがあること=不誠実な心。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

功績と過失は、明確に区別されるべきで、少しでも曖昧にすると、人は怠けたり責任感を失ってしまう。
一方で、恩義と恨みはあまりにもはっきりさせすぎると、人は裏表のある態度を取り、二心を抱くようになる。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、評価と感情の扱い方のバランスに関する深い知恵を説いています。

  • 「功績と過失の混同」は、規律を損なう
     → 甘やかしや身びいきがあると、人は真面目に努力しなくなる。
  • 「恩と恨みの露骨な表現」は、人の心を離れさせる
     → あまりに感情をあらわにしすぎると、相手は警戒したり、表面的な対応しかしなくなる。

要は、「正義と寛容の両立」こそが、信頼される統治・指導の鍵であるという教えです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「評価と責任は明確に──甘やかしは組織を緩める」

  • 成果とミスをあいまいに扱うと、「頑張っても損、さぼっても得」という空気が生まれる。
    → 明確な評価基準と、成功も失敗も正当にフィードバックする文化が必要。

● 「感情のあらわな態度は、信頼を壊す」

  • 誰かにだけ厚くしすぎる、過去の恨みをあからさまに持ち続ける──
     こうした態度は、周囲に不安と不信を生む

→ 感情のコントロールと、公私の分離は、リーダーの基本資質。


● 「バランスの取れた“公正”こそが、組織の風土を決める」

  • 厳しすぎても人は離れ、甘すぎても腐敗が起こる。
    → 規律と配慮のバランス、メリハリのある評価、感情に流されぬ対応が大切。

8. ビジネス用の心得タイトル

「評価は明確に、感情は穏やかに──信頼される統治の鉄則」


この章句は、組織・家庭・共同体のどこにおいても、**「誤りに寛容すぎると規律が失われ、感情に率直すぎると信頼が損なわれる」**という、東洋的リーダー論の核心を語っています。

一人ひとりの「公正と沈着」の力が、組織全体の健全さを支えるという点で、極めて現代的な知恵です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次