成熟商品の現実と競争の激化
製品が成熟期に入ると、競争の性質は大きく変化します。市場全体が拡大し全社が利益を享受できる成長期とは異なり、成熟期では競争がゼロサムゲームに陥ります。一社の売上が伸びれば、その分他社の売上が減少するという厳しい状況が生まれるのです。この段階では、淘汰が進行し、最終的にはわずかな数社が生き残る結果となります。
成熟商品の中で生き残る企業は、多くの場合、大手とは異なるアプローチを取っています。たとえば、直接的な競争を避けるために異種商品を展開し、ニッチな需要をターゲットにすることで市場でのポジションを維持しています。しかし、成熟商品にはブランド力の低下という共通の課題が存在します。長期間にわたり市場に存在し続ける中で、ブランドの差別化が困難になり、次第に価格競争に巻き込まれるようになります。
最寄品化とブランド志向の変化
成熟商品の典型例として、砂糖やティッシュペーパー、ボールペンなどが挙げられます。これらは市場が飽和し、差別化が難しくなることで消費者にとって「最寄品」――手近で購入可能な商品として扱われるようになります。この現象は耐久消費財にも及び、かつては高いブランド志向を誇った製品でさえ、その地位を失うことがあります。
しかし、ブランドイメージに縛られていた企業にとっては、この状況は新たなチャンスをもたらします。新ブランドを立ち上げ、多様な市場に対応する柔軟な戦略が可能になるのです。例えば、セイコー社が展開した「アルバ」のように、既存ブランドと異なるターゲット層に訴求することで市場を拡大することができます。このアプローチは、アパレル業界でも一般的で、多くの企業が同様の戦略を採用しています。
成熟商品の二つの運命
成熟商品の運命は、大きく二つのパターンに分かれます。
- 代替商品の登場と市場からの退出
技術革新や消費者ニーズの変化により、より適合した代替商品が登場した場合、成熟商品は市場から次第に姿を消します。この場合、最終的には完全に消滅するか、ニッチな需要に応える形で限定的に存続することになります。 - 改良品による寿命の延長
代替商品が登場しない場合、成熟商品は目先を変えた改良品として市場に留まるケースがあります。しかし、この場合でも市場全体が停滞しているため、売上の大幅な伸びは期待できません。結果として、企業は収益性が限られた状況を受け入れる必要があります。
成熟商品の課題への対応
成熟商品に直面する企業が取るべき対応は、新市場や新製品への積極的な転換です。昭和59年、松下電器(現在のパナソニック)が家電市場の成熟化を背景に「脱家電」を掲げ、総合エレクトロニクス企業への転換を図った事例はその典型です。家電市場の成長が鈍化し、利益が減少する中で、新たな事業分野への進出が不可欠だったのです。
成熟商品の課題は、いかに適切なタイミングで撤退し、成長が見込める市場にリソースを移行するかにかかっています。この判断が遅れると、企業全体の競争力を損なうリスクが高まります。
経営者に求められる視点
成熟商品の運命を見極め、新市場への対応を図るには、経営者の的確な判断が必要です。ブランド力や既存市場への固執を捨て、変化に柔軟に対応することで、新たな成長の可能性を見いだすことができます。重要なのは、成熟商品に見切りをつける勇気と、未来を見据えた積極的な投資のバランスを取ることです。
市場が成熟期に入り競争が激化する中で、企業の生き残りを左右するのは「いかに次の一手を打つか」です。この視点を持つことで、企業は成熟商品の課題を乗り越え、新たな成長を手に入れることができるでしょう。
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