人の五官——目や耳などを通じて入ってくる見聞は、外部から侵入してくる「外の賊」である。
また、情欲や我欲、雑念などの思いは、心の内部に巣食う「内の賊」である。
だが、もしその人自身の本心(ほんしん)がしっかりと目覚めていて、
ぶれることなく静かに「中堂(ちゅうどう)=心の中心」にどっしりと座っていれば、
それらの賊たちも、やがて家人(けにん)のように従順になり、乱す力を失っていく。
つまり、外界の刺激や内面の欲に振り回されるのではなく、
それらを受け止め、導く「本当の自分=主人公」をしっかり確立することこそ、
心の安定と生き方の核心なのである。
原文とふりがな付き引用
耳目見聞(じもくけんぶん)は外賊(がいぞく)と為(な)り、情欲意識(じょうよくいしき)は内賊(ないぞく)と為(な)る。
只(ただ)是(これ)れ主人翁(しゅじんおう)、惺惺不昧(せいせいふまい)にして、中堂(ちゅうどう)に独坐(どくざ)せば、賊(ぞく)便(すなわ)ち化(か)して家人(けにん)と為(な)らん。
注釈(簡潔に)
- 耳目見聞:五感を通じて得られる外界からの刺激や欲求。
- 情欲意識:内側にある欲望や妄念、我意。
- 外賊・内賊:自分を惑わす内外の刺激や衝動。
- 主人翁(しゅじんおう):本心、本性、あるべき自分。精神の中心。
- 惺惺不昧(せいせいふまい):目覚めていて迷わない、明晰であること。
- 中堂に独坐(ちゅうどうにどくざ):心の中心に本心がどっしりと腰を据えること。動揺しない心の比喩。
- 家人(けにん):従う者、家に属するもの。賊が従順になった比喩。
パーマリンク案(英語スラッグ)
master-your-mind-stand-firm
「心を支配する者こそが揺るがぬ人である」という核心を表すスラッグです。
その他の案:
- inner-clarity-over-distraction
- when-self-sits-firm-all-obeys
- centered-heart-rules-all
この章は、現代における「情報過多」「欲望の誘惑」「内的混乱」が多い社会において、
「心の中心に誰が座っているのか?」という非常に根源的な問いを投げかけています。
自分を取り巻く環境よりも、自分の内にある本心を明晰にしておくことが、
何よりの防御であり、導きであるという深い教えです。
1. 原文
耳目見聞為外賊、情欲意識為内賊。只是主人翁、惺惺不昧、獨坐中堂、賊便化為家人矣。
2. 書き下し文
耳目の見聞は外賊(がいぞく)と為(な)り、情欲・意識は内賊(ないぞく)と為る。
ただ是(こ)れ主人翁(しゅじんおう)、惺惺(せいせい)として昧(くら)からず、中堂に独(ひと)り坐(ざ)せば、賊(ぞく)も便(すなわ)ち化(か)して家人(かじん)と為(な)らん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 耳目見聞為外賊、情欲意識為内賊。
→ 耳や目を通して入ってくる外の刺激(見聞)は、外からの侵入者(外賊)であり、
心の中に起こる欲望や思い(意識)は、内部からの侵入者(内賊)である。 - 只是主人翁、惺惺不昧、獨坐中堂、賊便化為家人矣。
→ しかし、主(=本当の自己)が明晰で曇らず、心の中心にしっかりと坐していれば、
これらの賊もやがて味方となり、身内のような存在となるのだ。
4. 用語解説
- 耳目見聞(じもくけんぶん):外界からの情報刺激。感覚的な影響や誘惑。
- 情欲意識(じょうよくいしき):内面に湧き起こる欲望・感情・妄念など。
- 外賊・内賊:心を乱し、誤った方向に導く“外からの敵”と“内なる敵”。
- 主人翁(しゅじんおう):本来の自己。理性・魂・良知・内なる主。
- 惺惺不昧(せいせいふまい):意識が明晰であり、迷いがなく、冷静に自己を保っている状態。
- 中堂(ちゅうどう)に独坐(どくざ)する:心の中心にある「主の座」に、確固として自分自身があること。
- 家人:身内・味方。ここでは「もとは敵であったものが、自己のコントロール下にある状態」を指す。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人の心を乱すのは、外からの刺激(耳や目からの情報)と、内側からの欲望である。
これらはともに“心の敵”となりうる。
しかし、自分自身が本来の主(しゅ)として冷静に、理性を保って心の中枢にしっかりと座していれば、
これらの敵もやがては心の支配下に置かれ、味方となるのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「自我の覚醒と心の統御こそ、すべての動揺を制す鍵」であることを説いています。
- 外からの情報や内なる欲望に、心が振り回されるのは、「主(=理性・自己)」が不在だから。
- 真の“自己”がしっかり座っていれば、それらの影響もむしろ活用できるようになる。
- つまり、誘惑や感情を無理に抑えるのではなく、正しい自我の確立によって自然と制御するのが理想。
これは東洋的な「禅的な自己統一」や、「心の中庸・安定」思想にも通じる深い洞察です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 情報過多・刺激過多の時代に「自分の軸」を持て
現代のビジネス環境は、SNS・広告・社内外のノイズに満ちている。
それに惑わされず、“中堂に独坐する心”=価値観や判断軸を確立することが、冷静で正確な意思決定につながる。
▪ 感情や欲望は「排除」ではなく「統御」すべきもの
怒り・嫉妬・欲望をただ抑えるのではなく、そのエネルギーを行動の原動力として昇華させることが重要。
“内なる賊”も、鍛えれば“味方”になる。
▪ リーダーは「心の中の主」であれ
組織内の混乱や情報の波に流されず、静かに確固たる判断ができる人物こそがリーダー。
そのためには、常に「惺惺不昧」、明晰な自我と軸を鍛える努力が必要である。
8. ビジネス用の心得タイトル
「心の座に自分を据えよ──“内外の賊”も主があれば家人となる」
この章句は、現代においてもなお通用する「自己管理と心の主導性」の極意を説いています。
本当の意味で自分を律し、心の中心に“主人”として自分を据えること──
それが人生にも仕事にも揺るがぬ安定と成果をもたらすのです。
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