心がぼんやりとして、集中できずに気が散っているときは、
自分の本心を呼び起こし、意識をしっかりと引き戻す必要がある。
一方で、緊張しすぎて気持ちに余裕がないときには、
思い切って手をゆるめ、心をほどいてやることが大切だ。
どちらかに偏りすぎると、
ぼんやりとした心の病が癒えたかと思えば、また落ちつきのない不安が訪れ、
心がいつまでも安定しないままとなってしまう。
集中と弛緩、覚醒と休息。
これを自在に切り替えられることが、感情と意識の本当の自己管理である。
原文(ふりがな付き)
念頭昏散(ねんとうこんさん)の処(ところ)は、提醒(ていせい)を知(し)るを要(よう)す。念頭喫緊(きっきん)の時(とき)は、放下(ほうげ)を知るを要す。然(しか)らざれば、恐(おそ)らくは昏昏(こんこん)の病(やまい)を去(さ)って、又(また)憧憧(どうどう)の擾(みだ)れを来(きた)さん。
注釈
- 念頭昏散(ねんとうこんさん):心がぼんやりして、集中力がなくなる状態。
- 提醒(ていせい):目を覚まさせること。気づかせ、集中させる行為。
- 念頭喫緊(きっきん):心が張りつめすぎて、余裕を失っている状態。
- 放下(ほうげ):手を放すこと。緊張をゆるめ、肩の力を抜くこと。
- 昏昏の病(こんこんのやまい):鈍く曇った心の状態。無気力や気の散乱。
- 憧憧の擾(どうどうのみだれ):落ちつきがなく、あちこちに心がさまよう状態。
※これはまさに、現代のメンタルマネジメントやマインドフルネスの原型ともいえる教えです。福沢諭吉のように、集中すべきときは集中し、気をゆるめるべきときは自分を緩めることが、持続可能な成長を支えます。
パーマリンク(英語スラッグ)
master-your-mind
(心を自在に操る)balance-focus-and-release
(集中と解放のバランス)calm-in-shifting-moods
(揺れる感情に静けさを)
この条文は、現代人にとっても極めて実践的です。
仕事、勉強、人間関係、どんな場面でも、気のゆるみと張り詰めの間をどう保つかが、成果にも健康にも直結します。
心を押しすぎず、甘やかしすぎず――。
「気を調える」ことが、己を生かす最大の技であると、静かに語りかけてくれる一条です。
1. 原文
念頭昏散處、要知提醒。
念頭喫緊時、要知放下。
不然、恐去昏昏之病、又來憧憧之擾矣。
2. 書き下し文
念頭の昏散する処には、提醒を知るを要す。
念頭の喫緊なる時には、放下を知るを要す。
然らざれば、恐らくは昏昏の病を去りて、また憧憧の擾(みだ)れを来たすならん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 念頭の昏散する処には、提醒を知るを要す。
→ 頭がぼんやりとして集中できないときは、自らを叱咤し目を覚まさせる必要がある。 - 念頭の喫緊なる時には、放下を知るを要す。
→ 一つのことにとらわれて思い詰めている時は、むしろ手放すことを知るべきである。 - 然らざれば、恐らくは昏昏の病を去りて、また憧憧の擾れを来たすならん。
→ そうしなければ、ぼんやりとした状態を脱したつもりが、今度は焦りと混乱に襲われてしまうことになる。
4. 用語解説
- 念頭(ねんとう):思考・意識・心のはたらき。
- 昏散(こんさん):ぼんやりして集中できない状態。心の散漫。
- 提醒(ていせい):注意を促し、目を覚まさせること。自分を戒めて奮い立たせる行為。
- 喫緊(きっきん):思考や感情が緊迫し、こだわりや焦りが強くなる状態。
- 放下(ほうげ):執着を手放す、こだわりから離れること。
- 昏昏(こんこん):意識がぼんやりしているさま。
- 憧憧(しょうしょう):落ち着かず、あれこれと気持ちが急いて混乱している状態。
- 擾(みだ)れ:騒がしさ、心の動揺、混乱。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
頭がぼんやりして集中できないときは、自らを奮い立たせ、注意を集中すべきである。
逆に、思い詰めて視野が狭くなっているときは、思い切ってその執着を手放すべきである。
そうしなければ、ぼんやりとした状態を脱したとしても、今度は焦りと混乱によって心が乱れてしまうだろう。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「心の状態を見極め、それに応じて処する柔軟さ」**の重要性を説いています。
- 鈍っているときには、刺激が必要。
- 緊張しすぎているときには、緩めることが必要。
- 両者のどちらも偏りであり、極端から極端に移ればまた乱れるだけ。
つまり、「心の中庸」「状況に応じたセルフマネジメント」が内面的な調和と安定の鍵となるという教えです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「集中力が散漫なときは、自分にカツを入れよ」
眠気やダラけ、やる気の出ない状態では、生産性は著しく低下する。
**“気を引き締める仕組み”やルーティン(朝礼・アファメーションなど)**を活用し、意識を目覚めさせることが必要。
● 「追い詰められた時は、あえて“手放す”選択を」
タスクやプロジェクトに固執しすぎて視野が狭まり、判断が乱れる。
“一度離れてみる”ことで、創造的解決や優先順位の見直しが可能に。
● 「中庸の自己調整が“安定した判断力”を生む」
鈍さも焦りも、どちらも思考を曇らせる。
“自分の状態を観察し、調整する力”=メンタルマネジメント能力が、リーダーや専門職に不可欠。
8. ビジネス用の心得タイトル
「散るなら締めよ、詰まるなら緩めよ──自己観察こそ最強のスキル」
この章句は、心の動きに敏感になり、それに応じた柔軟な対応こそが、真の精神力であることを教えてくれます。
内省と調整を怠らず、心の状態を“戦略的にマネジメント”できる人材が、真に持続可能な成果を出すのです。
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