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欲や嗜好は否定せず、主導権を保つことが大切

風や月、花や柳といった風物詩がなければ、自然の風景は成り立たない。
それと同じように、欲望や好き嫌いといった人間の感情がなければ、心のはたらきもまた成立しない。

つまり、欲望そのものを否定する必要はなく、
大切なのは「自分がそれを支配する側」にいるという意識である。

自分が主体となり、物や感情を使う――
そうした心構えをしっかりと持つことで、
欲や嗜好は、天地自然のはたらきの一部となり、
たとえ俗世の感情であっても、それが理にかなったものへと昇華される。

欲望を排除するのではなく、主として扱う。
これが、自然と調和した成熟した心の在り方である。


原文とふりがな付き引用

風月(ふうげつ)花柳(かりゅう)無(な)くば、造化(ぞうか)を成(な)さず。
情欲(じょうよく)嗜好(しこう)無くば、心体(しんたい)を成さず。
只(ただ)我(われ)を以(もっ)て物(もの)を転(てん)じ、物を以て我を役(えき)せざれば、
則(すなわ)ち嗜慾(しよく)も天機(てんき)に非(あら)ざる莫(な)く、
塵情(じんじょう)も是(こ)れ理境(りきょう)なり。


注釈

  • 造化(ぞうか):自然界の創造や営み。風物を通じて形づくられるもの。
  • 情欲嗜好(じょうよくしこう):人間の感情や好み。自然な心理的はたらき。
  • 我を以て物を転ずる:自分が主導して、物事や感情を扱うこと。主客の逆転を戒める。
  • 物を以て我を役す:逆に、物に使われてしまうこと。欲に振り回される状態。
  • 天機(てんき):天地自然の摂理・働き。
  • 塵情(じんじょう):俗世の感情・煩わしさ。
  • 理境(りきょう):理にかなった境地。道理に合った心の状態。

1. 原文

無風月花柳、不成造化。無情欲嗜好、不成心體。只以我轉物、不以物役我,則嗜慾莫非天機,塵情即是理境矣。


2. 書き下し文

風月花柳(ふうげつかりゅう)無くんば、造化(ぞうか)を成さず。
情欲嗜好(じょうよくしこう)無くんば、心体(しんたい)を成さず。
只(ただ)我(われ)を以(もっ)て物(もの)を転(てん)じ、物を以て我を役(えき)せざれば、
則(すなわ)ち嗜慾(しよく)も天機(てんき)に非(あら)ざる莫(な)く、塵情(じんじょう)も是(こ)れ理境(りきょう)なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「風や月、花や柳がなければ、自然界の美は完成しない」
  • 「情欲や嗜好がなければ、人間の心や身体の働きも完成しない」
  • 「ただ、自分が物を支配し、物に支配されなければ──」
  • 「あらゆる嗜好や欲望すらも天の機微となり、俗世の感情でさえ真理の境地となる」

4. 用語解説

  • 風月花柳(ふうげつかりゅう):自然の美しい景色。詩情や情趣の象徴。
  • 造化(ぞうか):自然界の営み、天地の創造作用。
  • 情欲嗜好(じょうよくしこう):感情・欲望・好み。人間の自然な心の動き。
  • 心体(しんたい):心と身体の働き・性質の全体。
  • 我を以て物を転ず(がをもってものをてんず):主体性を持って物事を扱うこと。
  • 物を以て我を役す(ものをもってわれをえきす):外部のものに支配されること。
  • 嗜慾(しよく):欲望・好み。否定されがちだが中庸では肯定されうる。
  • 天機(てんき):天地自然の原理・天の働き。
  • 塵情(じんじょう):俗世の感情・煩悩。
  • 理境(りきょう):理(ことわり)の境地、真理の状態。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

風や月、花や柳といった自然の美しさがなければ、天地自然は完成しない。
また、情欲や嗜好といった心の動きがなければ、人の心と身体の働きも真に成り立たない。
ただし、私たちが物事を主体的に扱い、物事に心を支配されないならば、
あらゆる欲望や嗜好すらも、天の原理の一部となり、
煩わしい俗世の感情さえも、理の境地と見なすことができるのだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、自然や欲望を否定せず、肯定する視点を持ちながらも、そこに「主導性(自律)」を持つことが重要だということを説いています。

  • 自然や情欲を避けるのではなく、それに“支配されない”ことが修養である
  • 風月も嗜好も、人が自らの意思で味わえば、それは道の働き(天機)となる
  • 心の在り方・コントロール次第で、俗が聖となる、煩悩が菩提となる

仏教的には「煩悩即菩提」、道家的には「無為自然」、儒家的には「中庸の徳」に通じます。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 欲望は否定すべきでなく、“支配されない”ことが大事

  • 成果欲・承認欲・所有欲など、ビジネスで避けがたい欲求も、自分が主導権を持っていれば健全に作用する

✅ 環境やトレンドに流されず、“我を以て物を転ず”の姿勢を

  • 商品、顧客の反応、市場の動向──それらに使われるのではなく、自らの意思で扱うべき。

✅ “俗”を“道”に変える視点を持つ

  • 日々のルーチン業務も、主体的に行えばそこに意味が宿る。
  • 嗜好や欲望も、自律した使い方をすれば創造性やリーダーシップの源泉になる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「使われるな、使いこなせ──欲望も情趣も、理(ことわり)に変える」


この章句は、リーダー育成、セルフマネジメント、情動コントロールを主題とした研修やコーチングにおいて、極めて効果的な指針となります。


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