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土台なき上達はありえない――学びは基礎から

孔子は、学びの順序について明快に語っている。

中くらい以上の実力を備えている者には、より高い内容、上級のことを教えてよい。
しかし、まだ中くらいに達していない者には、そうした上級の話をすべきではない。
まずはしっかりと基本を教えるべきだ。

この教えは、学びには順序と段階があるという、極めて基本的ながらも見落とされがちな真理を示している。

基礎を固めずに応用に手を出すと、表面的な理解にとどまり、やがて壁にぶつかる。
一方で、基礎を丁寧に積み重ねた者は、やがて確実に応用を咀嚼し、自分のものにできる

また、孔子は「教える側」の心得としてもこの言葉を残しており、相手の理解度に応じた指導の必要性を説いている。
つまり、教えることも、学ぶことも“背伸び”ではなく“足元”から始めよということだ。


ふりがな付き原文

子(し)曰(いわ)く、
中人(ちゅうじん)以上は以(もっ)て上(じょう)を語(かた)るべきなり。
中人以下は以て上を語るべからざるなり。


注釈

  • 中人(ちゅうじん):中等の者。一定の基礎が身についており、学びの応用に入れる水準の人。
  • 上(じょう):上級の内容、深い道理や哲学的教え。
  • 語る(かたる):話す、教える、伝えるという意味。ここでは「教える対象にふさわしい段階かどうか」を問うている。

1. 原文

子曰、中人以上可以語上也、中人以下不可以語上也。


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、
中人(ちゅうじん)以上は、以(もっ)て上(じょう)を語(かた)るべきなり。
中人以下は、以て上を語るべからざるなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 子曰く、中人以上は、以て上を語るべきなり。
     → 孔子は言った。「平均以上の資質を持った人には、高い道理や徳について語る価値がある。」
  • 中人以下は、以て上を語るべからざるなり。
     → 「しかし、平均以下の人物には、高尚な教えを語っても理解されない。」

4. 用語解説

  • 中人(ちゅうじん):知的・道徳的資質が中程度の人。ここでは、判断力や理解力の平均的な水準を指す。
  • 以上/以下:孔子は弟子や人々を、知徳の程度に応じて分類していた。ここでは教えのレベルの違いをどう扱うかに言及している。
  • 語上(じょうをかたる):高尚な教え(仁・義・礼など)や道徳の高みについて語ること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう言った。
「知徳の水準が中の上以上の人物には、高い道理について語るべきだ。
だが、それ未満の人物には、高尚な教えを語っても伝わらない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「教え・指導・言葉は、相手の器に応じて行うべきである」**という孔子の教育哲学を端的に表しています。

  • 理解力・受容力に応じて内容を変えるべきという実践的教育論。
     話し手の自己満足ではなく、**「相手に届くかどうか」**を判断基準とする。
  • 孔子は「人は教えられないのではない、“教えられ方”が間違っているのだ」とも考えていた節がある。

7. ビジネスにおける解釈と適用

● 「人材育成は“一律”ではなく“個別対応”が原則」

  • ハイポテンシャル人材には、高いビジョンや哲学を語る。
  • まだ基本に満たない人には、まずは実務・行動・習慣の段階から伝えるべき。

● 「伝え方を“相手基準”で見直せ」

  • 伝わらないのは“相手の理解力”のせいではなく、話し手の伝え方の未熟さかもしれない。
  • 相手の状況・関心・言語感覚を的確に読み取り、“語れること”ではなく“響くこと”を話す。

● 「上司は“語るべきこと”と“時期”を選べ」

  • 正論・理念は正しいが、伝えるタイミングや相手の成熟度を見極めないと逆効果
  • 育成とは、“今、その人に必要な話”を的確に渡す技術である。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「言葉は“届く相手”にこそ意味がある──語るべきこと、語るべき時」


この章句は、教育・育成・指導・リーダーシップにおいて“相手を知る”ことの本質的な重要性を教えてくれます。
研修設計、OJT指導、1on1の質を高める教材や、「伝わる力」を磨くコミュニケーション研修にも応用可能です。

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