企業存続の絶対条件が占有率であることは、すでに繰り返し述べてきた。占有率に対する関心の強さは、優れた企業のトップほど顕著だ。果たして、自分が優秀な経営者としての条件を備えているかどうか、問い直してみる必要がある。
訪問する会社でよく目にするのは、自社の規模を顧みず、ただ「売れる商品」を追い求め、「大きな市場」を狙うという姿勢だ。
「大消費地なら売れる」という短絡的な考えだが、実際には大消費地ほど競争が激しく、業者同士が激しくぶつかり合う場となっている。そこに小規模企業が割り込む余地はほとんどない。その結果、販売実績は思うように上がらず、自らの戦略が自社を危機的状況へ追い込むことになる。
競争社会である以上、市場原理としての占有率の法則は揺るぎなく存在し、あらゆる企業がその支配下に置かれる。この原理の影響を自社の力だけで逃れることは不可能だ。
だからこそ、経営者は占有率という市場原理を深く理解し、その法則に基づいてまず自社の安全を確保する必要がある。その上で、この原理を積極的に活用し、企業の成長と業績の向上を目指さなければならない。
経営者が占有率について持つべき最初の関心は、「現在の占有率がどれだけか」という点だ。次に注目すべきは、「その占有率が上昇傾向にあるのか、それとも下降しているのか」という動向である。
これを把握するには「ランチェスターグラフ」が有効だ。このグラフを用いれば、自社の状況だけでなく、競合他社の動向も同時に把握できる。そして、最終的には「次にどのような手を打つべきか」を明確にすることが重要となる。
占有率が何%を占めるかによって、市場で直面するリスクの大きさは異なる。詳細については「販売戦略・市場戦略篇」で解説しているが、ここでは簡潔に触れておこう。
1. 独占的占有率(70%以上)
圧倒的な優位性を持ち、他社が簡単に入り込む余地を与えない。一方で、この状況には潜むリスクも存在する。独占に安住してしまい、顧客サービスや商品力の向上に怠りが生じると、競合がその隙を突いて攻勢をかけてくる。結果として、想像以上に脆弱な立場に陥る可能性がある。
2. 主導的占有率(40%以上)
市場でリーダーシップを発揮できるポジションに立つ。他社と同程度の努力を続けるだけでも、占有率は自然と上昇していく。この段階では、競争優位を活かしつつ、さらに地盤を固めることが求められる。
3. 不安定な一流(25%以上)
市場で一定の知名度を持ち、収益を確保できるポジション。ただし、上位企業からの圧力や下位企業の追い上げを受けやすい。占有率が低下するリスクが常に付きまとい、不安定な状況にある。この段階では、強みを活かしつつ、攻守のバランスを取った戦略が必要となる。
4. 限界的占有率(10%以下)
市場での存在感が極めて薄く、生存が極めて困難な状態。この占有率では、競争に勝ち残るのはほぼ不可能と考えるべきだ。この段階から脱却するには、大胆な戦略転換や市場のニッチを狙った特化が求められる。
5. 過渡的占有率(10%以上25%以下)
一流と呼べるほどの地位はないが、限界生産者ともいえない中途半端なポジション。この占有率は、安定性を欠き、上位を目指すのか、それとも衰退するのかが問われる過渡的な段階といえる。この状況を打開するには、明確な戦略と方向性を定め、積極的に行動することが求められる。
占有率を把握する際、最初に確認すべきは自社の総売上高に対する占有率だ。その後、さらに細分化された占有率に目を向ける必要がある。この細分化は自社の事業ニーズに基づいて行うべきだが、一般的には「商品別占有率」や「地域別占有率」が重要な指標となる。これらを通じて、どの分野やエリアに注力すべきかが見えてくる。
商品別占有率は、大分類、中分類、小分類といったように、より細かく分けて分析することが可能だ。一方、地域別占有率も、地方ブロック、府県、市町村、さらには具体的な売り場レベルに至るまで細分化できる。それぞれの占有率についても、占有率の原理が同様に作用する。この詳細な分析により、自社の強みや課題を的確に把握し、戦略を最適化することが可能となる。
まず重要なのは、対象とする業界全体における自社の占有率だ。しかし、業界規模が自社の規模に比べて大きすぎる場合、必要な占有率を確保するのは非常に困難となる。一方で、業界規模が小さすぎる場合、大きな占有率を獲得しても、その業界自体の市場規模が限られているため、収益の絶対額が十分でないという課題が生じる。このバランスを見極めることが、戦略立案の鍵となる。
中小企業が陥りがちな失敗の一つは、自社の規模を無視して大きすぎる市場を狙うことだ。こうした市場は多くの競合が参入するため、必然的に過当競争が生じる。その結果、資源を消耗しながらも期待した成果を得られず、低い業績に苦しむことになる。この状況を避けるためには、自社の規模や強みに見合ったターゲット市場を選ぶことが重要だ。
賢明な経営者は、自社の規模に見合った市場を的確に選ぶ。そのような市場では、強力な競合が少なく、自社が優位に立てる状況を作りやすい。弱小な競合を相手に有利に戦いを進めることで、効率的に成果を上げられる。「小さな市場で大きな占有率」を確保することこそ、優良企業への近道といえる。
市場が大きすぎる場合は、まず市場を細分化し、その中で必要な占有率を確保する戦略が重要になる。細分化した市場で高い占有率を達成し、それを一つずつ増やしていくことで、全体の市場ポジションを強化していくのだ。言い換えれば、自らターゲットとなる市場を意図的に小さく絞り込み、その中で圧倒的な占有率を獲得することが成功への鍵となる。
中小企業が占有率を考える際の基本は、常に「小さな市場で大きな占有率」を目指すことだ。優れた企業になるための条件は、まず第一に、大きな占有率を確保できる適切な市場を選ぶこと。次に、顧客に対して正しいサービスを提供すること。そして最後に、他社を凌駕する市場戦略を展開することである。このすべての方針や戦略の基盤は、最終的に経営者の決断によって左右されることを忘れてはならない。
企業にとって占有率は、存続と成長を左右する絶対条件です。特に中小企業は「小さな市場で大きな占有率」を狙うべきであり、賢い社長は自社規模に見合った市場を選び、強固な立場を築いていきます。
占有率のランク
企業の市場での位置を確かめるため、以下のような占有率のランクがあります:
- 独占的占有率(70%以上)
圧倒的なシェアを持ち、競合が容易に近づけない状況です。しかし、独占に甘んじると顧客サービスが疎かになり、他社に突かれた際に脆さが露呈するリスクもあります。 - 主導的占有率(40%以上)
市場でリーダーシップを取り、他社と同等の努力でもシェアを伸ばしやすい状態です。影響力の大きい立場から、市場の動向を牽引できます。 - 不安定な一流(25%以上)
一応の知名度はあるものの、上位の競合からの圧力や下位からの追い上げを受け、不安定な立場にあります。市場の動向によって簡単にシェアを失う可能性があるため注意が必要です。 - 限界的占有率(10%以下)
存続が危ぶまれる低い占有率です。この水準では競争に打ち勝つのは難しく、早急な対応が必要です。
中小企業にとっての戦略
中小企業は広い市場に挑むと競争が激化するため、「小さな市場での大きな占有率」を目指すことが賢明です。自社規模に合った小さな市場を選び、そこに特化することで収益性を高め、リスクを最小限に抑えることができます。さらに、対象市場が大きすぎる場合には細分化を行い、小さなターゲット市場でのシェアを徐々に増やしていくのが効果的です。
細分化による占有率の把握
総売上高の占有率に加え、商品や地域ごとに占有率を細分化して確認することも重要です。具体的には、商品別占有率や地域別占有率を分け、それぞれの分野でのシェアを見直すことで、どの部分に注力すべきかが明確になります。
市場戦略とサービスの質
占有率を安定させるためには、顧客への正しいサービスと優れた市場戦略が必須です。大きなシェアを築くだけでなく、顧客の期待に応え、他社に勝る価値提供を意識することが大切です。これらの取り組みが、企業を安定した立場に導き、業績向上の鍵となります。
企業の成長と安全は、社長の市場選択と占有率の管理にかかっており、社長の的確な判断と戦略が何よりも重要です。
コメント