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市場細分化

前章では、市場戦略における占有率は、業界全体の占有率を指すものではなく、「地域占有率」という視点で捉える必要があるという点を指摘した。

業界全体での占有率が低くても、特定の地域で高い占有率を維持していることが存続の鍵となる。言い換えれば、市場を細かく分け、それぞれの占有率を個別に考えるという発想だ。このアプローチは「市場細分化」(マーケティング・セグメンテーション)と呼ばれる。

東海道新幹線の車窓から、静岡市と清水市の間に見える「シャンソン化粧品」という会社を覚えている人もいるだろう。この会社は化粧品業界全体で見ると、完全に限界生産者に位置付けられる。それでも存続している理由は、静岡県に市場を絞り込み、そこに戦力を集中させているからだ。市場細分化の思想を忠実に実践している典型的な例と言える。

シャンソン化粧品に限らず、化粧品業界には地域細分化の思想を取り入れ、見事に生き残っている企業が数多く存在する。興味深いのは、それらの多くが「訪問販売」という最小単位の「蛇口」に狙いを定めている点だ。この現象は、市場戦略の本質を改めて考えさせるものがある。

「では、市場をどのように細分化していくべきか」という問いが浮かび上がる。しかし、これに対する決まった方法は存在しない。あるのは、「自社の市場戦略を展開する上で、市場をどのように細分化すれば最適か」という、自社の都合に基づいた発想だけだ。

各種の文献から情報を活用する際には、「行政区分」を基準に考えると便利だ。まず、この行政区分を用いて基本的な情報を把握し、それをもとに市場戦略の方向性を検討していくことが効果的である。

実際の戦略は、この行政区分を基礎としながら、地域の歴史や民俗、地理的条件、気象条件、交通網、経済圏、競合他社といった多岐にわたる要因を総合的に分析し、その上で決定されるべきものだ。

細分化の具体例を挙げると、行政区分では地方ブロック、都府県、市区町村といった単位が考えられる。一方、地理的条件で分ける場合には、東日本と西日本、北陸三県、山陰地方、東海地方、北関東などの区分が挙げられる。さらに細かく分類するなら、富山県を呉東と呉西に分けたり、長野県を北信、中信、南信、東信に分割したり、福島県を浜通り、中通り、会津に区分するといった方法がある。

さらに細分化を進めると、一つの都市を山手と下町に分けることができる。また、商店街、住宅街、文教地区、団地といったように、用途や特徴に基づいて細かく分類する方法もある。こうした細分化は、より具体的な市場戦略の策定に役立つ。

小売店舗においては、店舗を中心とした半径500メートル圏内といった考え方が一般的だ。地域細分化を極限まで進めると、個々の小売店単位にまで分解することが可能となる。また、細分化のアプローチは地域だけに留まらない。たとえば、商品別細分化、顧客別細分化、規模別細分化といった視点もあり、応用の幅は無限に広がる。

しかし、産業資材や機械の分野では、地域細分化の考え方は適用しにくい。これらは地域ごとの市場に分けるのではなく、全国を一つの統合された市場として捉える必要がある。

牧野フライスという会社は、単に工作機械全体の市場占有率を追求するのではなく、「フライス」の市場占有率に注目している。さらにその中でも、「高級フライス」という細分化されたカテゴリーに焦点を当て、その市場占有率を考えるという戦略を取っている。

市場を「官公需」と「民需」に分け、さらに民需を「大手」と「中小」に細分化する方法もある。また、商品の格に基づき「高級」「中級」「据物」といった分類を行うことも可能だ。こうした細分化は、より精密な戦略設計を可能にする。

「クイーン・サイズのニットスーツにおける我が社の占有率はこれこれである」といったように、商品カテゴリーを極めて具体的に絞り込んで市場占有率を考えることも可能だ。このような細分化された視点は、特定分野での競争優位性を明確にする上で有効である。

これまで述べてきたように、「市場細分化」の考え方には無限の可能性がある。その無限の選択肢の中から、「自社は商品、市場、顧客をどのように細分化し、それに基づいて市場戦略を展開するべきか」という問いに対する答えを見つけ出すことが、戦略の核心となる。

このような考え方を取り入れることで、自社の商品構成、対象市場、顧客選定に関する方向性と目標設定が明確になる。その指針の根底にあるのは、「市場占有率の確保」という基本的な目標であることは言うまでもない。

市場細分化(マーケティング・セグメンテーション)は、企業が市場を細かく分け、特定のセグメントに焦点を当てて戦略を展開するアプローチです。市場全体に対して一律に戦うのではなく、特定の地域や顧客層に戦力を集中させ、占有率を高めることが生存戦略となります。市場細分化の基本的な考え方は、「特定の地域やニーズに焦点を当てることが生き残りの条件」となります。

例えば、シャンソン化粧品は化粧品業界では限界生産者ですが、静岡県という特定の地域に絞って販売戦力を集中することで、しっかりと存続しています。このように、市場細分化によって企業は生き残り、競争力を高めることができるのです。

市場細分化の方法

市場を細分化する方法には、いくつかのアプローチがあります。代表的なものを以下に挙げます。

  1. 行政区分による細分化
    地域ごとに市場を分ける方法です。例えば、地方ブロックや都道府県、都市区町村単位で戦略を立てる方法です。細かく分けることで、各地域ごとの市場ニーズに応じたアプローチが可能になります。たとえば、静岡県内でも、静岡市と清水市とで異なる市場戦略を立てることが考えられます。
  2. 商品別細分化
    商品カテゴリごとに市場を細分化する方法です。たとえば、「高級フライス」と「中級フライス」に分け、各カテゴリに対して戦略を立てる方法です。これにより、特定の商品群に対する需要をターゲットにできます。
  3. 顧客別細分化
    顧客のニーズや特徴に基づいて市場を細分化する方法です。例えば、大手企業向け、中小企業向け、または個人向けなどのセグメントに分けることが考えられます。
  4. 規模別細分化
    企業や顧客の規模に応じて市場を分ける方法です。たとえば、大規模な顧客には高級商品を提供し、小規模な顧客には経済的な商品を提供する、といったアプローチです。

市場細分化の重要性

市場細分化の最大の利点は、特定のニーズに合わせて商品やサービスを最適化できることです。例えば、各地域で異なる文化や経済的背景があるため、地域ごとの戦略を立てることで、競争優位性を得ることができます。また、細分化された市場に特化することで、競争が激しい全国市場での成功が難しい中小企業でも、特定のニッチ市場で強い存在感を発揮することができます。

最終的に、細分化された市場ごとに占有率を高めていくことが企業の成長につながります。この占有率を確保するためには、市場戦略がしっかりと設定され、各セグメントごとのニーズに対して適切に対応することが重要です。

市場戦略の基盤は「市場占有率確保」であり、細分化された市場ごとの占有率を高めていくことが企業の存続と成長の鍵となります。

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