市場での占有率の確保は、利益と同様に企業存続の基盤となる要素だ。どちらか一方でも欠ければ、最終的に企業は存続できない。さらに、占有率を維持できなければ、利益を上げることも不可能だと言える。
しかし、多くの中小企業の経営者は、占有率に対する関心が驚くほど低い。この背景には、単に占有率への理解が不足しているだけでなく、その指標が把握しにくいという実態も無視できない。
中小企業が属する業界では、占有率を正確に把握できる情報を入手するのは極めて困難だ。しかし、工夫を重ねれば、自社の市場における位置づけをかなり正確に把握することは十分可能である。
その方法とは、各社の売上高を比較した「ランク表」を活用することだ。占有率そのものを直接求めるのではなく、ランクで代替するという考え方である。そして、このランク表を視覚的に表現したものが「ランチェスターグラフ」である。その一例が〈第53表〉として示されている。
同業他社の中でも特に注目すべき企業の年商額を、興信所の調査報告などで把握し、同じグラフ上に線グラフとして描き加える。この際、各社の決算月が異なる場合があるが、その差異は無視しても大きな問題にはならない。
表中のA社は年商額が突出して大きいため、他社と同じ目盛ではグラフに収めることができない。そのため、右側に十倍の目盛を設定し、この目盛を用いてA社の数値を記入している。
このように目盛りを工夫しておくと、いくつか便利な点がある。例えば、A社の売上線付近に、左側の目盛りに該当する企業が存在する場合、その企業の売上高はA社の約十分の一に相当することが視覚的に把握できる。B社はこの条件に近い位置にある。また、E社についてはA社の約二十分の一程度の売上高であることが一目で理解できる。
売上が最も低い「当社」とは、K社を指している。この分析を行った際、K社の売上線がグラフ上に描き出された。当社という表現は、このK社を指している。
私はK社長にこのグラフを見せながら警告した。「あなたの会社は占有率が年々下がり続けている。ランクも下降線をたどっている。このグラフが示しているのは、倒産に向かって突き進んでいる現実そのものだ」と。この言葉はK社長にとって大きな衝撃となった。
このグラフに自社の利益計画に基づく目標売上をプロットし、その前年の売上と点線で結んでみることで、占有率やランクが上昇するかどうかを予測することができる。グラフは単なる過去の結果を示すものではなく、このように前向きな目的で活用するべきものだ。これこそがグラフの本来の使い方である。
このグラフは単純に各社の総売上高を比較したものである。しかし、ここで問題となるのは、各社の商品構成や市場構成が異なる点だ。これらを考慮しなければ、真の意味での比較や分析はできない。売上高の表面上の数字だけでは、実際の競争力や市場での立ち位置を正確に評価することは難しい。
確かに、各社の詳細な商品構成や市場構成を数字で正確に把握することは難しい。だが、それを理由に「完全な情報でなければ意味がない」と結論づけてしまうのは誤りだ。企業活動において、完全な情報を手に入れることはほぼ不可能である。むしろ、手に入る限られた情報をどう活用し、そこから有益な洞察を引き出すかが重要となる。情報が不完全だからといって、それを否定するべきではない。
不完全な情報であっても、他のさまざまな情報を組み合わせ、あらゆる手段を使って自社の市場での地位を推測することが重要だ。この姿勢こそが経営者として求められるものであり、限られたデータから最善の判断を導き出す力が、会社の将来を左右する。
推測した市場での地位をもとに戦略を立てるのが次のステップだ。一見難しそうに思えるが、実際には多くの経営者がランチェスターグラフを眺めながら、自然とこれを行っている。要は、数字やデータを視覚化した結果を参考にしながら、次の一手を考えることができればよい。これは特別な能力ではなく、日々の経営の中で磨かれていくものだ。
ランチェスターグラフに各社の年度別経常利益率を併記することで、さらに深い洞察を得ることができる。この情報は、経営者にとって非常に考えさせられる材料となる。特に、外部の状況を無視し、内部資料だけに頼っていた自身の浅はかさを痛感させられるだろう。市場での競争力や他社との比較を見過ごしていたことに気づくきっかけとなり、この反省が次の経営判断に大きく活かされるはずだ。
全社的な占有率やランクが把握できた段階で、次に必要なのは、さらに細分化された占有率の分析だ。業務用品や消費財を扱う場合は地域別の占有率、生産財を扱う場合は商品別の占有率に着目する必要がある。これらの細分化された指標は、自社の強みと弱みを具体的に浮き彫りにし、戦略立案において極めて重要な役割を果たす。全体像だけでは見えてこない課題や機会を捉える鍵となるのが、この段階の分析である。
こうした数字を正確に把握するのは容易ではないが、その難しさを乗り越えて得られるものは非常に大きい。地道な努力を重ねることで、自社の市場地位をより明確に理解できるようになり、やがてその成果が戦略や経営判断として実を結ぶ時が必ず訪れる。努力は無駄にならないという確信を持ち、この作業に取り組むことが重要だ。
地域別の占有率を視覚化する方法として、ランチェスターマップを活用するのは非常に有効だ。このマップでは、通常は都道府県単位で地域を色分けし、それぞれの地域に関連するデータを付記する。たとえば、地域ごとの総人口や世帯数、総需要量、さらには自社の占有率を記載することで、直感的かつ詳細な分析が可能になる。このような視覚的な表現は、特定の地域における市場の特性や自社のポジションを一目で把握できるという大きなメリットをもたらす。
商品別占有率の分析では、自社の商品すべてを一つの表にまとめ、全社的に検討しやすい形式に整理するのが効果的だ。この表には、年度別の総需要、自社の売上高、そして自社の占有率といった主要な項目を記載する。これにより、商品ごとの市場での位置づけを明確に把握することができる。また、さらに視覚的に理解を深めたい場合には、これらのデータをグラフ化するのも有用だ。特に、占有率や売上高の推移を可視化することで、戦略立案の際に役立つ具体的な課題や機会が見えてくる。
いずれにしても、市場における自社の地位を分析することは、経営において最も重要な課題の一つである。この分析には労を惜しむべきではない。分析によって得られた数値やその傾向を徹底的に検討し、それを基に市場戦略を構築する。その後、実行した戦略の成果を測定し、その結果を踏まえて新たな戦略を立てる。このサイクルを繰り返すことで、競争力を持続的に高め、企業としての成長を実現することができる。
市場の地位分析は、企業が業界内での位置を正確に把握し、競争優位性を築くための基礎です。この分析により、市場シェアや成長の方向性、戦略的な決定のための視点を得ることができます。具体的な分析方法について説明します。
1. 占有率(シェア)の重要性
占有率は企業の収益性と存続に直結しており、確保できないと利益が出せず、最終的に企業の存続が難しくなります。特に中小企業では、占有率の把握が難しいため、ランク(他社との売上高比較)で代替することが一般的です。ランク変動を「ランチェスターグラフ」に可視化することで、自社が市場でどう位置づけられているかを理解し、戦略の参考にします。
2. ランチェスターグラフの作成と活用
同業他社の売上高を横軸に並べ、各社の売上の推移を線グラフ化することで、競合との相対的な位置や売上の伸び・減少を把握します。このグラフに目標売上高もプロットしておけば、占有率やランクの向上が見込めるかどうかも見通せます。
3. 各社の違いを考慮した上での仮説
各社の事業構成や市場構成は異なるため、完全な情報を得ることは難しいですが、不完全な情報からでも有益な推測が可能です。仮説をもとに市場動向を把握し、適切な行動を計画することが経営において重要です。
4. 地域別・商品別の占有率分析
全社の占有率だけでなく、地域別や商品別に占有率を細分化することが必要です。特に、業務用品や消費財は地域別、生産財は商品別の占有率が重要となります。
- 地域別占有率:ランチェスターマップを使い、都道府県別に市場占有率を色分けして可視化します。これにより、地域ごとの強みや弱点が明確になります。
- 商品別占有率:商品ごとの市場占有率を記録し、グラフや一覧表にまとめることで、どの製品が市場で優位かを把握します。
5. 定期的な戦略見直し
市場の地位分析で得た情報や傾向に基づき、常に自社の市場戦略を見直し、評価することが必要です。戦略の成果を測定し、改善を加えることで、長期的な市場占有率の向上と企業の成長を図ります。
市場の地位分析は経営戦略の土台であり、労を惜しまず、継続的に行うべき重要な取り組みです。この分析により、競争の激しい市場環境で生き残るための戦略を構築することが可能になります。
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