市場実験については前に触れたが、もう少し掘り下げてみよう。B社は輸入雑貨を扱う問屋だ。この会社では、輸入予定の商品を事前に東京と大阪にある直営店舗で試験的に販売している。この結果をもとに、実際に輸入するかどうかを決める仕組みだ。そのため、B社が輸入した商品が売れ残るような事態はほとんど起こらない。非常に理にかなった手法と言えるだろう。
F社が使い捨ての屑箱を売り出そうとした際、デザイナーに四種類の模様や絵を描かせ、「どれが良いと思うか」と尋ねてきた。だが、そんなことが自分に分かるはずがない。そこで、「その四種類すべてを試作して、どこかの店舗で実際に販売してみてはどうか」と提案した。市場実験――つまりお客様の反応を見て判断することこそが、正しい方法だと考えたからだ。
いくつか試作品を作った後で、「どれを採用するべきか」と社内会議であれこれ議論を繰り返す会社が意外と多い。だが、こうしたやり方は単なる時間の浪費であり、本質的に誤った姿勢だ。社内での議論はあくまで予備的な検討にとどめ、最終的な判断は市場実験を通じて顧客に委ねるべきだ。それが正しいアプローチと言える。
パッケージ食品の新商品を発売する際には、売れるかどうかもわからない商品に対して、大量の袋を印刷しなければならないという問題が常に付きまとっている。このリスクは業界にとって避けがたい悩みの一つだ。
パッケージ漬物を製造するIT社では、新商品を出す際、袋の印刷コストを抑えるために最低でも5万枚を印刷する必要がある。そこで、新商品を2~3万個生産して全国にばらまく。しかし、売れればいいものの、売れなかった場合には大量の返品が押し寄せる。しかも、売れないケースのほうが多いことから、新商品を出すことに対する不安が大きくなっている。しかし、新商品を出さなければ既存商品の陳腐化を防ぐことができない。そこで、「どうすればいいのか?」という悩みが生まれる。
こうした悩みを抱える社長は案外多い。そのため、私は同じ漬物メーカーである京都の「大安」の例を挙げて答えた。大安では、市場実験用の袋を用意している。この袋には、シンボルマークであるかぶの絵を大きく印刷したシンプルなデザインを採用している。新商品はこの袋に詰め、商品名は専用の口紙に印刷し、それを袋の封部分にまたがせてホチキスで留めるという仕組みだ。これなら口紙だけを印刷すればよいため、コストを大幅に抑えることができる。非常に賢い方法と言える。
もう一つ、T社の問題点は、売れるかどうかもわからない新商品をいきなり数万袋も生産して市場にばらまくというやり方だ。この方針は、5万枚の袋を印刷するという考え方と密接に関連している。そして、その背景には、「一袋当たりのコスト」を重視するという誤ったコスト意識が潜んでいる。この考え方が、初期段階での過剰な生産とリスクを招いている。
このような考え方の根本的な誤りは、最初の一袋から利益を得ようとする姿勢にある。そのため、利益が出る数量をまとめて生産しようとする。しかし、この方法は全量が売れた場合にのみ利益を生むものであり、売れなかった場合には大損を招く。新商品が売れるかどうかは未知である以上、まずその可能性を確かめることが最優先だ。利益を求める前に市場実験を行い、需要を確認することが成功への第一歩である。
重要なのは、売れなかった場合に生じる損害の総額を最小限に抑えることであり、一袋あたりの製造コストを下げることではない。「何でも単位あたりでしか考えられない硬直した原価主義」は、結果的に大きな損失を引き起こす。社長の視点は常に「全体でどれだけの損益が出るか」に基づくべきであり、「単位あたりいくらか」という細部にとらわれるべきではない。その柔軟な発想が経営の成功を左右する鍵となる。
売れるかどうかを確かめる手段が市場実験だ。実験なのだから、大規模に生産する必要はない。少量を作り、特定の地域や店舗、あるいは得意先などで試験的に販売すれば十分だ。売れると分かれば本格的に展開すればいいし、売れない場合でも損害の総額を最小限に抑えられる。こうした方法が、新商品のリスクを管理する賢明なやり方と言える。
この方法を実践する際に注意すべき点は、返り注文があった場合に対応できるよう、必ず在庫を確保しておくことだ。例えば、2,000個を製造した場合、そのうち1,000個だけを市場に投入し、残りの1,000個は在庫として保管しておく。この備えがないと、予想以上に売れた場合に供給が追いつかなくなる。一方で、多くの会社はこの準備を怠り、製造した全数を市場に出してしまうか、売れるかどうかが不確実だからと生産自体を控える。このどちらのやり方もリスクを正しく管理できていない。市場の反応を見ながら柔軟に対応する仕組みが重要だ。
在庫がないために、返り注文が来ても対応できない状況が生まれる。これがお得意先の場合、「新商品だと言うなら、返り注文に応えられるだけの在庫くらい用意しておくべきではないか」と指摘されても不思議ではない。返り注文に対応するという、ビジネスの基本とも言える当然のことが、現実にはほとんどの会社で実行されていない。この原因は一体どこにあるのだろうか。計画性の欠如、コストへの過剰な恐れ、あるいは市場の動向を読む意識の薄さが背景にあるのかもしれない。根本的な発想の転換が求められる。
原因の一つは、販売の現場を理解していないことだ。もう一つは、「現場任せ」にしてしまう社長自身の怠慢が背景にある。一言指示を出せば済むことなのに、それすらしない。この無関心や責任の放棄が、結果として返り注文への対応不足や顧客への失望を招いていると言える。経営者としての基本的な姿勢が問われる問題だ。
市場実験は、新商品や新事業の成否を見極めるための試行的な販売活動です。これにより、商品が本当に市場に受け入れられるかどうかをテストし、大規模な投入によるリスクを減らせます。
市場実験の重要なポイント
- 少量生産・限定的販売
- 初めから大量生産してしまうのではなく、少量だけ作り、特定の地域や店舗、既存の得意先に限定して販売します。これにより、売れなかった場合の損害を抑えつつ、実際にお客様の反応を得ることができます。
- 販売後の在庫確保
- 実験的に販売した商品に対して返り注文があった場合のために、一定の在庫を確保しておくことが重要です。実験販売で良い反応が得られても、在庫がなければ機会損失に繋がります。
- コストの全体視点での評価
- 単位あたりのコストにこだわると、大量生産して在庫を抱え、売れなかった場合に損失が大きくなります。コストは「全体でいくらか」に注目し、まずは少量で試験販売を行い、在庫が余らないようにすることが大切です。
- 柔軟なパッケージデザイン
- 新商品を出すとき、印刷物やパッケージは少量でもコストがかからないように柔軟に対応します。たとえば、簡単なデザインの袋に商品名を印刷した紙をホチキスで留めるなどの工夫をして、実験のコストを抑える方法が有効です。
市場実験は商品投入の初期段階で行うべき重要なテストであり、リスクを最小限に抑えつつ、実際の売れ行きや顧客の反応を確認するための有効な手段です。
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