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収益性向上を妨げる経営の盲点

企業経営において、収益性を向上させるためには、数字やデータに基づいた冷静な判断が求められます。しかし、多くの企業では「売上高」という一面的な指標に過度に依存し、本質的な収益性の指標である付加価値率や利益率を軽視する傾向があります。この盲点が、経営を苦境に追い込む大きな要因となっているのです。

目次

ケーススタディ1:T社の付加価値率が示した収益の真実

長年赤字に苦しんでいたT社は、売上高の向上やコスト削減に注力していました。しかし、経営状況は一向に改善されませんでした。

問題の核心は、同社が「売上高ナンバーワンとナンバーツーの商品」を主力として扱い、これらに経営資源を集中させていたことにありました。

具体的な商品分析の結果、売上高4位の商品が最も高い付加価値を生み出していることが明らかになりました。この商品は付加価値率が非常に高かったにもかかわらず、見栄えがしないという理由から注目されておらず、消極的に生産されていたのです。

逆に、売上高ナンバーワンとナンバーツーの商品は低い付加価値率であり、いくら販売しても収益を押し上げる効果が限定的でした。

データに基づく分析と助言により、T社は方針を転換し、売上高4位の商品を主力に据えた結果、短期間で黒字化に成功しました。この事例は、収益性に直結する付加価値の視点を軽視することが、経営判断の大きな誤りにつながることを示しています。

ケーススタディ2:S社のデパート偏重戦略がもたらす利益低下

S社は、創業当初から高級デパートを主要な販売チャンネルとして重視してきました。これにより企業イメージを高め、顧客層の拡大を図った成功もありました。

しかし、時代が進むにつれ、デパート取引における高い手数料が利益率を圧迫し、経常利益率が同業他社よりも大幅に低い原因となっていました。

一方、S社が小規模に扱っていた専門店への販売は高い利益率を誇り、収益性の高いチャンネルであることが分かりました。

この現状を受け、S社はデパート取引を維持しつつ、専門店への販売を積極的に拡充する方針を採用。これにより収益性を向上させるだけでなく、販売チャネルの多角化によるリスク分散も実現しました。

ケーススタディ3:B社の「カッコイイ」大型案件への依存が生む赤字構造

倉庫用棚やスチール什器を扱うB社は、大企業向けの特注品に最重点を置いていました。しかし、この特注品は設計付きのため付加価値率が15%と低く、利益を生まないばかりか、多大なリソースを消耗する原因となっていました。

一方、ほとんど手間をかけずに高い粗利益を得られる商品が存在していました。この商品は競争が少なく、特別な販売活動なしでも安定した売上を確保できていましたが、社長からは注目されていませんでした。

「売上高」という表面的な数字や、大企業との取引という「ステータス」に囚われた結果、経営の軸が収益性ではなく「見栄」に偏っていたのです。

私の助言で高収益商品への注力を進め、一時的に業績は回復しましたが、再び「大型案件」への依存に戻ったことで改善の流れは止まりました。

この事例は、経営者が「見た目」や「カッコよさ」に惑わされることで、収益性の本質を見失うリスクを象徴しています。

ケーススタディ4:J社のシンデレラ商品が示す収益改善の可能性

建築資材メーカーのJ社は、低価格競争とゼネコンへの依存による低収益性に悩んでいました。ゼネコンからの受注は、ほぼ指値価格を受け入れざるを得ないため、付加価値率が低下し、業績を圧迫していました。

しかし、分析の結果、付加価値率が80%以上でありながら工数が少ない「シンデレラ商品」が存在していることが判明しました。

この商品は他社に競争相手がなく、販売活動を行わなくても売上が伸びている理想的な商品でした。

この商品に注力し、ゼネコン案件を収益性の観点から精査した結果、J社の業績は着実に改善しました。収益性の高い商品を見極め、重点を置くことの重要性を示す好例です。

共通する盲点と改善のポイント

これらの事例に共通するのは、収益性よりも売上規模や見た目の良さを優先してしまう経営判断の誤りです。特に次の二点が盲点として挙げられます。

収益性指標への無関心

経営者が付加価値率や粗利益率の重要性を認識していない、あるいはそれを軽視している。これにより、利益を生む商品や事業にリソースを集中できない。

「カッコよさ」の追求

官公庁や大企業、ゼネコン、デパートとの取引を「ステータス」として重視し、収益性を顧みない傾向。見栄に囚われた結果、経営の実態が悪化する。

収益性改善への実務的アプローチ

  • 付加価値率を指標とした商品・事業分析
    売上高ではなく付加価値額と率に基づいて商品や事業を評価し、リソース配分を最適化する。
  • 販売チャネルの戦略的多角化
    高収益性のチャネルを重点化し、リスク分散と収益向上を同時に図る。
  • ステータスよりも実利を重視
    見た目や規模に惑わされず、利益を生む活動に集中する。

経営者が収益性を最優先課題として認識し、正しい指標と戦略に基づいた意思決定を行うことが、企業の持続的な成長と成功をもたらします。

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