目次
📜引用原文(日本語訳)
第八十偈
いかなる煩悩の潜勢力ももはや存在せず、悪の根の滅びてしまった修行僧は、
こなたの岸を捨て去る。蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。
—『ダンマパダ』第二章 第八十偈
🔍逐語訳と用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
煩悩の潜勢力(アヌシャヤ) | 心の奥に潜んで、表面には出てこないが、条件が整うと現れる煩悩の芽。例えば「怒りっぽい性格」のような傾向性。 |
悪の根(akusala-mūla) | 三毒:貪(むさぼり)、瞋(いかり)、痴(無知)のこと。 |
こなたの岸 | この世における迷い・苦しみ・執着の生存。輪廻の世界。 |
蛇の脱皮 | 古い自己(煩悩や執着)を脱ぎ捨てる、清らかな新たな生の象徴。完全なる脱落を表す比喩。 |
🪞全体の現代語訳(まとめ)
もはや表面的な煩悩だけでなく、
心の奥深くに潜んでいた煩悩の根まで断ち切り、
三毒という苦しみの根を完全に絶った修行僧は、
この世の苦悩の岸を越えて、安らぎの彼岸に至る。
それはまるで、
蛇が古くなった皮を脱ぎ捨て、
新しい命を得たかのようである。
🧠解釈と現代的意義
この偈は「表層の行動変容」だけでなく、「無意識に潜む衝動の根絶」が悟りへの鍵であることを示しています。
怒らないように見えて、心の底に怒りが沈殿している――そのような潜在的煩悩をも断つべし、と説かれています。
真の自由とは、
自分の性格や過去の習慣、執着に縛られない境地です。
それは努力で辿りつくのではなく、自己の観照と手放しによって到達する「軽やかさ」なのです。
💼ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用 |
---|---|
自己理解と影の統合 | 自分でも気づかない劣等感・支配欲・承認欲などを観察・理解し、それを手放すことで真に安定した人物となる。 |
ストレス耐性の本質 | 目の前の問題に反応しないだけでなく、「なぜ自分は反応したくなるのか」という内的条件を認識することが、持続的な平穏をもたらす。 |
無意識のバイアスの克服 | 判断やリーダーシップにおいて、自分の中の偏見や慣習的思考に気づき、それに支配されない選択をする力。 |
人間関係の調和 | 潜在的な敵意や優劣感に気づき、それを越えて関わることで、真の信頼関係が築かれる。 |
✅心得まとめ
「静かに揺らがぬ人は、見えぬ火種をも鎮めた人である」
感情が表に出ていないからといって、煩悩がないとは限らない。
本当に自由な人は、怒らず、欲しがらず、ではなく、
怒る理由すら消えてしまっている。欲しがる「我」そのものが消えている。
そうして、彼は静かに立ち去る。
煩悩にまみれた岸から、再び振り返ることもなく。
――それは、新しい自己で生きるという、真の再出発なのである。
コメント