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■引用原文(日本語訳)
第一〇章 暴力(ダンダヴァッガ)第130偈
すべての者は暴力におびえる。
すべての(生きもの)にとって生命は愛しい。
己が身にひきくらべて、
殺してはならぬ。
殺さしめてはならぬ。
(『ダンマパダ』第130偈)
■逐語訳
- すべての者は暴力におびえる:あらゆる生き物は、苦しみや攻撃から逃れようとする本能を持っている。
- すべての(生きもの)にとって生命は愛しい:誰もが命を大切にしており、生き続けることを望んでいる。
- 己が身にひきくらべて:自分自身の感覚や感情を基準にして、他者の気持ちを理解せよ。
- 殺してはならぬ/殺さしめてはならぬ:直接的にも間接的にも、他の生命を奪うことを避けるべきである。
■用語解説
- 愛しい(ピヤ):ここでは「自らにとってかけがえのない」「失いたくないもの」としての命を指す。
- 己が身にひきくらべて(アッターナン・ウパマカトワ):仏教における黄金律的思考。他者に対する態度は、自らの感情を基準にして定めるべきであるという倫理原理。
- 殺さしめてはならぬ:黙認や命令など、間接的であっても倫理的責任を問うている。
■全体の現代語訳(まとめ)
すべての命あるものは、暴力におびえ、死を恐れ、命を何よりも大切にしている。自分が命を大事に思うように、他者もまた同じく生きることを願っている。そのように思いを巡らすならば、他者を害することなどできようか。殺してはならず、殺させてもならない――それが仏陀の普遍的な倫理である。
■解釈と現代的意義
この偈は、慈悲の実践における共感と平等性を強く訴えかけるものです。
「命は尊い」ということは、特定の人間や動物に限らず、すべての生命に共通する真実です。しかもその尊さは、私たち自身の「死にたくない、生きたい」という切実な感覚をもとに理解されるべきである、というのがこの偈の核心です。
現代社会は、生命を軽んじる情報や行動に満ちています。だからこそ、このような基本的な共感原理――「自分がされたら嫌なことは他者にもしない」――を徹底的に再確認することが必要です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
共感型リーダーシップ | 「相手の立場になって考える」ことは、最も信頼されるリーダーの資質。例:指導・評価においても威圧でなく理解を基本に置く。 |
消費者・取引先への配慮 | 顧客も業者も「命を守りたい」「尊厳を保ちたい」と願っている存在。契約や対応時に一方的な論理を押しつけない。 |
環境・サステナビリティ倫理 | 命を大切にする倫理は、人間以外の生物や自然環境にも拡張されるべき。仕入れや製造工程でも倫理的判断が必要。 |
■心得まとめ
「その命は、自分と同じように愛されている」
仏陀は単に「暴力をふるうな」と言っているのではない。
「他者の命が、あなたにとっての命と同じように大切なのだ」と気づきなさい――と教えているのです。
ビジネスの世界においても、「他者の事情や苦しみに対する想像力」は、プロフェッショナリズムの基礎であり、真の信頼構築の源泉です。
命へのまなざしがやさしくなれば、社会はもっと強く、しなやかになる。
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